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黒狐への嫁入り  作者: 弥生いつか


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第17話 将来


 私もアッキーの気持ちは気が付いていた。でも男女仲間で付き合ってきた時間が長かったからか、恋人じゃなくて親友としか思えなかった。


 アッキーがブレずに男として生きて、告白してきていたらどうなっていただろう。


 そんな事を考えても高等部1年から始まったばかりの関係じゃ、政府のお見合い制度を覆すのは難しかった。


 …まぁ暁山家は有名な家だからもしかしたら、卒業してそのままゴールイン出来たかもしれないけど。鈴木さんと会ってからはそれはもうもしもの話になってしまった。


 早乙女も馬鹿すぎて政府の厳しい競争から自ら外れていったから、早乙女の気持ちには応えられない。また会って告白してきたら、きっぱり断らないとな…。


 そんな事を考えながら鈴木さんを見ると、アッキーの渾身の蹴りを受け止めた体勢から、微動だにしていなかった。


「…鈴木さん?」

「…いやー。惚れた女の前で格好付けるもんじゃないな。すまん、預けた鞄からスマホを取ってくれ」

「え?」

「麒麟の全力を受け止めて全身痺れてる。あと強引に動いたら腰が悲鳴を上げそうだ」

「えっええ〜〜〜っ!?」

「ぷっあは、あはははは!あははっげほっげほっ!あはは!」


 それから私は鈴木さんの指示通りに電話して、鈴木さんの仕事仲間に迎えに来て貰うまで、アッキーはツボに入ったのか蹲って笑い袋と化していた。


「直ぐ来ますって、鈴木さん!」

「すまん…今日はこの辺でお別れだ。また来週日曜日会ってくれるか?」

「勿論です!」

「ありがとう…由貴さん、利き手を出してくれ」

「?」


 私は右手を鈴木さんに差し出す。すると鈴木さんがブリキの人形の様に動きながら、腕に銀色のブレスレットを着けた。細い銀のチェーンのシンプルな物だった。


「これは?」

「俺の加護の術式を編んだブレスレットだ。どうか御守りとして身に付けていて欲しい」

「え?良いんですか?」

「ああ…本当は指輪にしたかったけど、指輪は婚約指輪まで取っておく」

「ありがとうございます」


 鈴木さんにお礼を言ってると広場の車道側に、黒い車が停まる。後部座席から巫女服を着て銀色の美しい毛並みをさせた、九尾の半神が出てきた。目元に黒地で、白い目の模様をした目隠しの布を掛けているのに、彼女は黒い下駄をカラコロと音を立てて危なげもなく、真っ直ぐこっちに歩いてきた。


「やぁイチロー、見事に全身痺れてるね」

「ちょっと待て、何故隊長が来る」

「(隊長?)」

「んー、イチローの婚約者が気になったからだよ。それに私は千里眼だけじゃなくて治癒能力も得意だから、任せてよ」

「…はぁ〜」


 鈴木さんが深い溜息を吐く。そんな鈴木さんの背中を巫女服の女性が触れると、女性の手のひらが淡く光った。


「…」

「んー?私かい?私は禁喰対策局・特殊討伐隊の『チーム陰陽師』の隊長の安倍晴子あべのせいこさんだよ?」

「安倍晴…子?」

「双子の弟のあきらと合わせて晴明の生まれ変わりと、土御門家でてんやわんやしたもんさ。その反動で劣等感抱いた分家に産まれたイチローに、辛い目に合わせちゃったけどね。因みにチーム陰陽師の名前の由来は文字通り先祖に陰陽師が居るからさ」

「隊長、一気に喋っても処理し切れない。あと個人情報をペラペラ喋るのは感心しない」

「幼馴染の好で晴子ちゃんと呼んでくれ。あと由貴ちゃんには事情は話したんだし、私の個人情報を私が喋っても個人の自由じゃないか」

「…オマケで個人情報をバラされる弟の明が不憫だな」


 鈴木さんの言う通り情報量が多くてパンクする。あと鈴木さんが蘆屋道満の子孫って話たって何でこの人知ってるの?盗聴してた?


「ごめんねー由貴ちゃん。私が天才過ぎて千里眼特化だから、古今東西の情報が私の下に流れ込んでくるんだ。だから意図せずに聞こえちゃったんだ」

「…もしかして心の声も聞こえてます?」

「勿論さ。だから私が息抜きで散歩する以外は、ずっと本部で情報整理のお仕事さ」

「なるほど…」

「因みに特殊討伐部隊に蘆屋道満降臨の元服の儀を教えたのも私だよ。だから私はイチローの命の恩人でもあるのさ」

「ふぇっ!?」

「…晴子、黙れ」

「晴子ちゃんと呼びなさい」


 晴子さんが鈴木さんの背中から手を離すと、鈴木さんが肩を回す。


「それじゃあこれ以上は本気で怒られるから、本部に戻るよ。またね由貴ちゃん」

「隊長はずっと本部に居ててくれ…またな、由貴」

「はい」


 晴子さんが来て怒涛の情報量に目を回しかけたけど、鈴木さんが微笑みながら車に乗っていったのを見てどうでも良くなった。


「特殊討伐部隊か〜。戦闘部員じゃないのにいろんな意味で濃い人達だったね」

「うん」

「チーム陰陽師かぁ。進路の1つに良いかもねぇ」

「え?」

「そしたら鈴木さんに今度こそ1本取れる機会が出来るし、護衛と称してずっとユッキーの隣に居られるしね」

「そっか…それも1つの道かぁ」


 そう笑顔で答えるアッキーの進路に、私は自分の進路を考えた。専業主婦以外にも、出来る事があると良いなぁ。




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