第15話 暁山栄子※アッキーSide
灰色の空から白い雪が降ってきていた。その中で『俺』暁山栄子は振り注ぐ滝の中で重くて、身を刺すような激痛に耐えていた。
幼少期からやらされてる修行の一環、辛いのは心が未熟だからと当主様や教育係に叱られた。
滝行が終わり世話係として立候補したお母さんが、タオルを持って出迎えて、抱き締めてくれた。この温かさがあるから俺は耐えられた。
成長期に精進料理は凄くお腹が空いた。でも我儘いうとお母さんが甘やかすからって教育係に怒られるから、それでお腹を満たして、空腹を凌ぐしかなかった。
まだ小学生なのに学校は学ぶ事しか許されなくて、友達を作る事も帰る事も出来なくて、本家に帰ると大人に混じって空手の稽古をさせられた。
全身痛い、寒い、ひもじい。可愛い物を身に着けたい。それでも跡取りになる為に育てられた。
俺が中学になると本家で男児の半神が産まれた。麒麟と同じ吉兆の神獣の鳳凰の半神で、男女共に性器のある半端モノの俺は呆気なく跡取りから外された。
それに父は土下座して跡取りに添えようとしたけど、母さんが良かったと安堵しながら俺を抱き締めてくれていた。
俺は消耗していたのか、嬉しいとも悲しいとも思わなかった。
その後、父と母さんは俺の存在のせいで離婚は出来なかったけど別居して、俺は黎明ヶ丘中等部に入学する事になった。
『はい、栄子の制服はこれよ』
入学式、その日初めてスカートを履いた。
ヒラヒラしてムズムズして、擽ったくて、母さんには悪いけどスカートの下にジャージを履いて登校した。
学校の先生からトイレは職員トイレの真ん中の、多目的トイレを使う様に指示された。多分両性の半神が珍しくて先生も困ってたんだろう。
俺は何とも思ってなかったけど、周りの奴はそうとは思ってなくてトイレに行こうとしたら多目的トイレに陣取られた。
「おい!此処はお前専用のトイレじゃねぇんだよ!女子トイレ使えよ!」
「先生にここ使えって言われたんだよ」
「お前スカートの下にジャージ履いて男なの?女なの?」
「…」
「えーお前スカート履いてんのに付いてんの!?変態じゃねーか!」
「麒麟はそういう生き物なんだよ、良いから退けよ」
「いーや!お前が付いてるか付いてねぇか、判明するまで使わせねぇ」
久しぶりに苛立った。電撃食らわしてやろうか、蹴り飛ばして骨折させてやろうか考えていると、目の前に美しい白と赤が視界に入った。
「良いからさっさと退けよ!お前はトイレマンか!!」
椿の花を咲かせた女生徒が、トイレを遮ってた男子を蹴り飛ばした。
「げっ男女がもう1人!」
「お前やっぱり付いてんだろ!」
「うるせぇなぁ!人の股間ばっかり気にしやがって、へんたーい!先生に人の股間を見たがる変態が居るって言ってやろう〜!!」
「うるせぇな!お前に関係ないだろ!」
「昔おんなじ理由で女子トイレ遮ってたじゃねぇか!お前はトイレの守護神か?トイレの神様になりたいのか?」
「んな訳ねーだろ!」
「だったら退け!二度と人のトイレ邪魔すんな!!したら今度からお前の渾名は便所マンだ!!」
「ちくしょー覚えてろよ〜!」
「べー!」
花人が半神と鬼人を蹴散らしたのを見て呆気にとられていると、その子が俺の手を取った。
「ほら早くトイレ行こう?授業始まっちゃう」
「う…うん」
それから俺が周囲から絡まれていると、何処からか現れて、時には早乙女もくっついて蹴散らしたり、騒ぎを大きくしたりした。
「…ねぇ、新城さん。何で俺に構うの?」
「え?何処も正義を感じないのに正義の味方ぶってる奴がムカつくから」
「別に俺の為じゃないんだ」
「そういえば暁山ってどっちが好きなの?」
「え?」
「男の子?女の子?どっちになりたいの?」
「…」
答えられなかった。
「どうしたの?」
「…今まで聞かれたことなくて、決め付けられてたから考えた事もなかった」
「じゃあどっちもやってみたら?」
「え?」
「暁山がやってみたい方をやってみれば良いんだよ。スカート履いて、ズボン履いて、口紅塗って、ワックス頭に塗って、色々試してみれば良いよ」
「…いいの?」
「?、良いに決まってんじゃん。私も長年伊達に男女やってないから、好きなように生きれば良いんだよ」
新城の言葉がじんわりと広がるように、暖かかった。
それから新城と色んな事を試して、遊んで、誂われたら蹴散らして、楽しい中学時代を過ごして。
初めてジャージを脱いで素足を晒して登校した日。プリクラを撮った日。初めて口紅を塗った日。初めて「アタシ」と自称した日。
『俺』は『アタシ』になった。
心は女の子の物が好きだ。だけど、初恋の人は新城由貴という女の子だ。
男も女も、両方アタシだ。




