第三十八話
私は木箱に入れられたまま運ばれている。ガジャガジャと土の上を歩いている音がする。
ギィーと金属が軋む音がする。足音が変わって木の床を歩いているようだ。ドアが閉まったようなバタンと音がした。今入った屋内は色々な匂いが混ざっている。ドダッンと木箱が床に下ろされたようだ。投げ落とされなくて良かった。
また心臓がドキドキをはじめた。新しい環境に変わったからだ。何が起きる?この木箱から出される?魔法を使ってみる?どうしよう。
ここで初めて人が話す声を聞いた。気配はあったが声を出す人はいなかった。どこの言葉なのだろう?聞いたことがない。
それなのにです、なんでー?なんでわかちゃうんですかー?
話しの内容がわかるとです私。聞いたことがない言葉ですのに何を話しているのかわかるとです。
耳では聞いたことない言語が流れて、頭ではその内容がわかる。何の能力でしょうか?気持ち悪いです。
怖いー、自分が怖いとです。
これは誰の力ですか?誰が私に授けたんですか?
この世界は私に何を求めているんですかー
私をどうしたいんですかー
(マリア心の声)四歳児マリアはパニックに陥った。しかしそこは前世の記憶持ち、人の会話を盗み聞きすることは怠らない。流石は前世成人女子なのであった。
声の感じから3人の男が話をしているようです。
・幼いように見えたが、あの子供で間違いないんだな?
・魔法を封じる道具は装着しているのか?
・今から国境を越えるが準備は整っているか?
・時々は水とパンを与えれば10日間はもつんだな?
・死なれては困るが元気すぎるのも困るな。
・言葉はわからないのだろう?
・とりあえず急いで出発しよう。
3人がこんな話をしている。
私、10日間もパンと水だけ?しかも木箱から出してもらえないの?トイレはどうするの?イヤー、このままここでするとかできませーん。魔法も使えないってどして?こまるー。なに?元気過ぎたらダメなの?騒いだりしないから。口を塞がれてるし。言葉は話せないけど理解できるから。どうしよう、どうしよう。どうするんだよー私。
"落ち着け、落ち着くんだ“と何度も繰り返す。
ガタン、あー、抱え上げられた。木箱が持ち上がりました。
また乗り物に乗せられます。今からまた移動するんだね。さっきの乗り物より揺れが少ない気がします。そして再び薄暗くなりました。
とにかく魔法が使えるかやってみよう。うん、それがいい。小さな水球をだすくらいなら周りにバレないよね?私は水球を作ってみる。えー、出来ない。水球が出ない。氷、そうだ、氷を出してみよう。えー、氷も出ない。火は?火ならどう?指に火を灯してみるのはいいんじゃない?えー火が出ない。
そうやってぐるぐると3回ずつやってみた。
魔法がつかえないーーー(驚)(悲)(涙)
私、考えのどこかで魔法が使えるから何とかなると高を括っていたんだよね。だから怖さもあったし不安も感じたけど魔法で何とかなると思ってもいたんだ。
だけど魔法が使えない。ただの四歳児じゃん。何も出来ないじゃん。どーしたらいいのーーー
トントントンと木箱が叩かれた。ノック?
ハイと言いかけて口が塞がれているから返事が出来なかった。小窓が開いた。やっぱり棺桶かぁ…明るく視界が開けたね。
「起きてるみたいだな」とマスクマンが喋った。なんでマスクマンかと言うと黒いマスクを被っているから。強盗犯が被っているような黒マスクを被っている。目と口が出ている。
ただ、どういう訳なのか髪の毛も出ている。ムレるからなの?2人のマスクマンが覗いている。赤髪緑目と紺髪青目、赤マスクマンと青マスクマンが覗いている。
「大人しいな。」「暴れたりしないんだな。」「本当に小さいな。この子供なのかな?」と2人が話して窓が閉じられた。また暗闇の一人ぼっち。
どこに連れて行かれるんだろう?私のことを知っているってこと?でも、見たことはない?国境を越えるということは違う国に連れて行かれる?違う言葉を話す国に連れて行かれるのかなぁ。奴隷にされるのかなぁ。なんでこんなことになったのかなぁ。
王宮の父上の執務室でうとうとしていた。扉の前には護衛がいたし窓は閉まっていた。どこから入ってきて、どうやって私を運び出したんだろう?
涙が出る。涙を拭こうとして手を動かすと金属の音がする。ガシャガシャと音がしてまた涙が出る。
父上はどうしているだろうか。そう思ってまた涙が出る。心配しているだろうな。探しているんだろうなぁ。母上に怒られてないといいけど。
きっと父上も母上もジョンさんも公爵家の人達は心配しているだろう。私はよくわからない国に連れて行かれるらしい。できれば国境を越える前に見つけてほしいな。
国境は関所があるんだろうか?身分の確認があるんじゃないかなぁ。あるならそこでマスクマンは怪しいから捕まらないかなぁ。
そしてまた魔法が使えないか試してみる。やっぱり使えない。
この手についている拘束具が怪しい。異世界ものの漫画とか小説に手枷が魔法を封じる魔導具というのがパターン的に多かった気がする。魔石が嵌め込んであったりしたよね。この手錠みたいなのが怪しいから外せるといいのになぁ。と持ち上げて眺めてみる。
薄暗いからよく見えないけど、重いしジャラジャラガシャガシャ音がするから金属なんだろう。手錠みたいに鎖で左右が繋がっている。手を窄めて抜けないか試してみた。抜けない。あとちょっと輪が大きかったら抜けそうなのに。手の形を変えながら試してみるけど抜けない。魔石のようなものも見つからない。薄暗いから見えにくいのもある。持ち上げていると疲れるから、お腹の上に置いて触りながら魔石がないか探してみる。
移動に時間がかかるみたいだから気を紛らわすつもりで手の拘束具に集中する。あーしたりこーしたりとそれほどできることはないけど、何かをしていることで"もしかしたら"と可能性を感じられる。
乗り物に乗ってから、もう長い時間走っているような気がする。時間がわからないけれど手の拘束具の当たっているところが痛くなってきた。お腹の上に置いて重くないようにしていたが、ずっと当たっているところが痛い。
人は痛みがあると心が弱くなる。また涙が出てくる。痛いから手を持ち上げることができなくて涙を拭くことができない。気力が削られていく。
トントントンと木箱が叩かれた。コトンと木箱を叩いて返事をする。窓が開かれ赤マスクマンと青マスクマンが覗いている。
「泣いていますよ。」「ホントだ。」「どうしたのかな?」「お腹がすいたのか?」「言葉がわからないかぁ。」「喉が渇いたのかな?」「そろそろ街に到着する。」「今日は宿に泊まるんだよな。」「国境を超えるまで1週間はかかりそうだ。」「宿にはこのまま運ぶのか?」「いや、中に布があるから巻いて運ぶ。」2人が話し合っている。
今日中に見つけほしいなぁ。国境を越えたら探すのは難しくなるんじゃないかなぁ。また魔法が使えるるようになるかなぁ。また涙がでる。
木箱が開けられて一緒に入っていた布で巻かれる。そのまま肩に担がれた。布越しに担いでいる人の背中しか見えなくて(それも殆ど見えない)、ちょっとだけ辛い体勢だ。我慢我慢。
ザワザワと賑わっている場所を歩いて階段を上がる。廊下を歩いてから部屋に入ったようだ。ベッド?に下ろされたようだ。拉致されてからこれまで乱雑に扱われていないことに少しだけ安堵する。
暫くガタゴソと人が動く音がした後に私を巻いていた布が外された。眩しい。目をパシパシ瞬きする。赤マスクマンと青マスクマン私を覗き込んでいる。
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