第三十六話
ジョンさんが私を抱き上げてジャックの横をスーと通り過ぎた。
廊下に出れたと思ったその時「マリア、しっかり掴まるんだ。走るよ。」と言った瞬間には猛ダッシュしていた。私はジョンさんにしがみついた。
はっ、ハヤい。ビュンと音がしそうな速さで走る。
公爵家の馬車がドアを開けて待っていた。飛び乗る、発車する。
何という速さでしょうか。
秒ですよ、秒。父上の王宮執務室から馬車の発車まで秒です。
そんな感覚でした。
ビューン、タン、バタン、ヒヒンでしたね。
座席に座ったジョンさんが、深〜い溜め息をつきました。そして徐に話し出します。
マリア、遅くなってすまなかったな。
まさか兄上が来ているとは思わなかった。判断ミスだな。
あの場で母上のことを持ち出して話したから、おそらく兄上は追ってこないと思う。母上を怒らせるようなことはしないだろうから。
ふぅ〜とまた溜め息を吐きました。
マリア、今から兄上のことで私が独り言を話すから、マリアは眠ければ眠っていいからな。
そう言ってジョンさんがジャックのことを話し出した。
兄上は、幼い頃から自分は騎士になるんだと周囲に豪語していた。日々の努力を怠らない真面目な性格と才能にも恵まれていたと思う。学生の頃に王宮騎士団からスカウトを受けるほどの実力を持っていた。
あの頃の兄上は、努力家で真っ直ぐで目標に向かって躍動する惚れ惚れするほどの漢気のある青年だった。私はそばにいてそう感じていたんだ。
それが突然、後継者であった長兄が亡くなったことで変化が生じた。次男の兄上が公爵家を継ぐことになったんだ。
尊敬していた長兄が亡くなったショックは大きかった。そして騎士になるという目標が絶たれた。更に公爵家の跡取りになるという重圧が兄上にのしかかった。その上、本来なら長兄と結婚するはずだった義理姉上との結婚もだった。
受け入れるしかないと分かってはいても、なかなか気持ちに折り合いをつけることができず悩んでいた様子だった。すんなりと受け入れることは難しかったんだと思う。
政略結婚相手の義理姉上は淡々としていた。相手が変更になったというだけ。私は公爵家に嫁ぐだけですから。そう言っていた。
結婚の日取りが決まっていたから、そのまま兄上は義理姉上と結婚してタウンハウスでの生活が始まった。
そうしていつの頃からなのか、兄上が『公爵家の後継者であるならこうあるべきだ』という概念に囚われてしまって、騎士を目指していた頃の兄上はすっかりどこかにいってしまった。何が兄上をそうさせたのか分からない。
いや、公爵家の後継者として努力している姿は、真っ直ぐだったあの頃の兄上と同じなのだろかなぁ?
だけど自分の実家への態度とマリアへの接し方は大いに間違っているんだよなぁ。残念なことに。
私はウトウトしながらジョンさんの独り言を聞いていた。
ジャックにも色々なことがあったんだね。(人ごと)
だけどあの態度はどうなんだと思うよね。
貴族だよ。公爵家だよ。連絡もせずにいきなり押しかけてくるし挨拶もしやしないんだよ。
私に対する態度だって、子供に対して如何なものなのかと思いますよ。放置でしたからね。
あの部屋で、私だったから生きてこられたのかも知れないんだよ。
あんな環境にいたら、すぐに病気になっていましたよ。 病気になってもくるのは配膳ロボット(メイド達)だし。
あっそういえば、私って病気になっていないね。(驚き!!)あの囲われた部屋にいたからかな?ウイルスも侵入できなかったのかな?
にしても咳もしなきゃあ鼻水も出ず、熱なんかだしたこともない。さぞかし育てやすい赤子だったと思うよ。反対に心配になるくらいにね。
子供は病気になって免疫をつけて成長していくんじゃないの?いいのかしら?
神様からの特別な守護(加護)なの?わからんわー
まぁ、過去は過去。過ぎたことだ。ほじくり返さない。
過去を変えることはできないし私は私だからさ。
これからのことを考えるのみだね。と心の中で呟きながら寝てしまう四歳時。子供は寝るのも仕事です。
目が覚めると朝日が昇っていた。マジかぁ。
1番に思うのは
お腹すいたぁー。今日も元気だー。よっしゃー!
朝食の席には父上(領地に行ってます)不在。母上とジョンさんがいますね。
ジョンさんがシオシオです。何があった?
食後に母上が、「マリア、昨日はジャックに遭遇したんでしょ?何もなかった?」といつものように優しく聞いてくれる。
「はい、何事もありませんでした。あっ、私失敗しました。ジャックさんに話しかけてしまったんです。
ジャックさんから『お前は案外口達者で頭の回転も早いようだな。今まで本性を隠していたのか?その辺りも相手を見て駆け引きができるということか。ますます私との血の繋がりを感じるな。』(と久しぶりにモノマネをする)と言われてしまいました。失態です。」
母上が「ジャックにそっくりね。」と笑っています。
自分でやっておいて何だが、ゾワゾワするほどキモいな。悲しいことに顔もちょっと似ているんだよ((泣))さめざめ)
私は父上に似ているんだよぉーと心の中で叫ぶ。
母上が、「外出の際には、一人にならないようにするわね。使用人だとジャックを抑えることができないから、私かジョン、帰ってきたらジェームズも頼んでおくわ。常に誰かと一緒に行動するようにしましょう。」
そう言って母上がジョンさんを見た。
ジョンさんが、一瞬ビクッとなって直ぐに姿勢を正し「はい」と返事をした。
私とジョンさんは朝練のために騎士団の訓練場に来ています。
ジョンさんが「マリア、この家で1番怖い人が誰だか知っているか?」と聞いてきたので「母上よ」と即答した。
ジョンさんが「えっ?何でわかった?」
私「女の勘ね」
ジョンさん「何だそれは?うん、まぁいいか。母上は基本的に優しいし怒ることは滅多にない人だ。器が大きいというのかなぁ。度量が大きい人だ。
しかしだ、だから怒らせると非常に恐ろしい。
こう、抉ってくるんだ、精神的に立ち直れない一歩手前まで。この一歩手前を見極められるというのも怖さを助長しているんだよなぁ。後からじわじわきいてくる。」そう言ってブルッた。思い出したんだね。
私が寝ている間にジャックの件で抉られたんだね。お気の毒に。
私とジョンさんは朝の訓練を開始する。
私はジョンさんに薄くて強固なシールドを展開する。
「最初は、風、刃、10、時間差、6-6(ウインドカッター10個を時間差で威力6スピード6のこと)」と言ってジョンさんに向けて攻撃魔法を放つ。
そうやって私はどんどんジョンさんに攻撃魔法を放ちます。ずっとやっているので加減もわかります。
ジョンさんは飛んでくる風の刃や氷の矢、火球を魔剣で叩き斬ります。
訓練の成果でジョンさんもわたしも精密さがup威力もup持続力もupしています。ふふっん、無敵!なんちゃって。
そうやって過ごした10日間の出来事を
「マリアァ〜寂しかっただろう。父上が帰ってきましたよ。」と威厳をどこかに捨ててきた溺愛モードイケオジ(父上)が自領から帰ってきたので報告をしました。
そして、朝練のためにいつものメンバー3人で騎士団訓練場にやってきましたよ。
本日の朝練に新人が参加している。王弟だ(なんでー)
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