第十七話
この国に精霊がいた頃があったのなら、まだ何処かに住んでいるかもしれない。
聖女については、何処かで発見される可能性を信じる。
そんなメルヘンチックな事を考えていたら、家の中が騒がしくなってきた。
公爵家にしては珍しいことだ。
足音がバタバタと聞こえるし、ダメです、許可がありません、うるさい、知ったことか、私を誰だと思っている、などなど大きな声でやり取りしているのが聞こえる。
そして、バンと大きな音を立てて図書室のドアが開いた。
「お前がマリアか?」いきなり部屋に大人の男の人が入って来たかと思うと、私の目の前に立って私に向かって言葉を投げつけてきた。
私は黙って男を見上げた。
「おい、返事は?」
何言ってんだ、こいつ。無礼者が。
人にものを尋ねるときは、先に自分が名を名乗れよ。
てかさぁ、先に挨拶くらいしろよ。非常識にも程があるだろう。基本的な礼儀がなっていませんね。
チッ、あっ、また舌打ちしてしまったー。聞こえちまったかな?
失礼な奴だし、まっいっかぁー
「おい、お前、名前を聞いているだろう。なんだ?もしかして、しゃべれないのか?」
うっさい男だねぇ、何様なんだよ、喋れるわ、あんたと口をききたくないだけだよ。
私は黙って男を見上げている。
「ジャック、何をしているんだ?」あっ、父上が来ました。ジョセフもいます。
はぁ?なーにー?今しがた、ジャックと聞こえましたが?もしや、私の生物学的父親ですか?
今頃、何しに来ましたか?
そして、相変わらず失礼な男だな、チッ
父上が私を抱き上げる。安心安全安定の抱っこである。いいね!
「何用か?」と父上がジャックに質問している。
ジャックが、陛下の第一子である第一王子と年頃が近い子供を集めてお茶会が開催されることになった。
私の下の子供が、確か今年四歳だったはず。
第一王子より二歳下ならお茶会に参加できる。だから迎えに来た。その子供が私の子供なら連れて帰ろうと思う。と答えた。
はぁ?このおっさん、何を勝手なこと言ってるの?頭、おかしいんじゃない?この男、マジ、絶対、許さん。
父上が私の背中をポンポンと優しく叩いて、落ち着かせてくれようとする。
ジャック、この子は私とアマルの子供だ。この家からは出さない。とジャックに言った。
ジャックが、「何を言っているんですか?第一王子のお茶会に参加できるんですよ。名誉な事じゃありませんか。」
「そもそも勝手に養子にして、マリアは私の子供だ。」と父上に怒鳴っている。
あんた、頭おかしいって。あんたがあの部屋に私を置き去りにしたんじゃないか。
だから父上と母上が私を迎え入れてくれて、愛情たっぷりに育ってくれているんだろうがぁ。何が私の子供だぁ?
父上、アイツの口を縫いましょうか?
父上が優しい眼差しで私を見て、あの減らず口を縫ってやりたいのは山々だが、今はやめておこうか。と言った。
ありゃ〜、また顔に出ていましたか?言葉には出てなかったよね?
「ジャック、マリアは公爵家当主の私の子供だ。後継者に指名されているだけに過ぎないお前には、この子に対する権限は何もない。黙って帰宅するように。それでも抵抗するなら、こちらにも考えがある。」
厳しい顔の父上が、ジャックに威圧をかけた。
カッコいいよぉ〜、父上。
ジャックは不満そうな顔を隠しもせずに、「折角の機会を棒に振るんですか、全く何を考えておられるのやら。分かりました、今日はこれで失礼します。」そう言って、大きな足音を立てながら部屋を出ていった。
おーい、誰か塩まいとくれぇー。おとといきやがれ、こんにゃろう、と出ていく男の背中に向かって念じてやった。
しかし、甘かった。ジャックはしつこく諦めの悪い男だった。
翌日もヤツはやってきた。
今日は、父上が陛下に呼び出されて登城している。
行く前に母上に、ジャックの性格なら今日も来るだろう。私は陛下の呼び出しで登城する。使用人だけでは、ジャックの相手はできない。なるべく早く帰るようにするが、留守を頼む。そう言って出発していった。
母上が、ジョバンニも呼んでおきましょう。ジャックのことだから、人数でも上回っておいた方がいいわ。と言ってジョセフさんにジョンさんを呼ぶように指示をしている。
ジョンさんは、慌てて公爵家に駆けつけてくれたようだ。どんな呼び出し方をしたんだろう?イケメンが汗まみれ埃まみれでやってきた。
母上が笑いながら、早かったわね。今から事情を説明するわね。ジャックの事はよく理解しているでしょう。マリアを守るのよ。そう言って談話室に移動した。
昨日の出来事を母上がジョンさんに説明した。
ジャックの性格だと、自分の考えに従わせるように行動するでしょうから、マリアを守るためにあなたも協力してちょうだいね。そう言って頭を下げた。
ジョンさんが、待って下さい。お願いされなくても協力します。だから、頭を下げないで下さい。
しかし、自分の子供を道具の様に考えるジャックの思考が理解できません。
数日一緒にいただけでマリアのことが、可愛く愛おしい存在だと感じました。情も湧くし、守ってやりたいと思うのに、ジャックは何を考えているんだろうか。
あージョンさん、ジャックはですねぇ
私が産まれて直ぐに「なんだ?この、のっぺりとした顔のシワクチャの赤い子供は」そんな風に大・大・大失礼な発言をしてから、一切会いに来ることもなかったんです。
だから、私が誰かも分からないんですよ。
私のことなんて、何一つ知りもしないんですよ。
それなのに今更、まるで当たり前みたいに自分が父親だ。私の命令に従えと言い出しました。
頭、おかしいですよね。
三人でジャックの大悪口大会をしながら、ジャック対策をあーでもないこーでもないと話しあっていました。
そんな中、噂のジャックがやってきたのです。チッ




