緑眼の双子
彼女の視線が下を向く。
どうやら俺の剣が気になるようだ。
「それ……、見たい……」
「ダメだ」
「どうして……」
消え入りそうな声で言ってもダメだ。
「剣は魂。それを手放すような軽率は許されない」
「ふーん……、剣は魂……。もしかして……魔法道具?」
その場で中腰になり、俺の腰の剣をまじまじと見つめる。
白い毛のつむじは雲のようだと思った。
「これ……、ちゃんとお手入れ……してない……」
言われてみれば剣を手に入れてから、一度も手入れをしていない。
でも、普段は古びた見た目だ。
「鞘から抜くとキレイになるんだよ」
「……魔力で? ううん、これは封印剣かな……?」
ぶつぶつとつぶやきながら、剣を観察していた。
……結局、見せていることにならないか?
少女は小さく「あ」と漏らした。
「どうした?」
「この剣……、早く手放した方が……いい」
「は? 何を言うんだ、これは」
セレナータのことを言いそうになって口をつぐむ。
「いや、これは俺にとって大切な剣だ。絶対に手放せない」
「そう……。お姉ちゃんの剣と……、似てるから……」
古びた剣だ。
似た剣くらいあるだろうし、この子に剣の違いが分かるとは思えなかった。
少女はすっくと立ち上がって俺の顔を穴が開くくらい見てくる。
「な、なんだ?」
「迷子?」
パーティに入れず途方に暮れていた俺は、白猫を追いかけて魔法学校に迷い込んだ。
「まあ、でもそんな感じだ」
「ふーん……。じゃあ、案内……する?」
「案内?」
「うん……、きて」
言われるがままついていく。
迷路みたいな学校だ。
途中でローブを着た生徒とすれ違うが、誰もが俺たちをあからさまに避けて歩いた。
まさかここまで俺の悪い噂が?
いや、さすがにそんなことはなかった。
生徒たちが目をそらすのは、この白い毛の少女に対してだ。
~魔法国 王都 魔法学校 大教室~
「ここが……、大教室。五年生の……みんなが……お勉強……してるところ」
うん。
~魔法国 王都 魔法学校 競技場~
「ここが……、競技場。たくさん魔法……使えるところ」
うん。
~魔法国 王都 魔法学校 図書室~
「ここが……、図書室。魔法道具もあって……あ、この魔法道具は……冷気をつくって……、あ、この風をつくる魔法道具と……合わせると……、暑い夏でも涼しくて……、で、この軸に……」
なぜか魔法道具だけ説明が詳しかったが、正直ちんぷんかんぷんだった。
いくつかの部屋や施設を巡った。
~魔法国 王都 魔法学校 中庭~
「つか……れた……」
最後は勝手に力尽きて、中庭のベンチに腰を下ろす。
結局、俺は魔法学校の出口までは案内されなかったが、学校という所は通ったことがなかったから新鮮で楽しかった。
「まあなんだ。案内してくれてありがとう」
一応、礼くらいは言っておく。
たぶん、彼女の善意だと思ったからだ。
しかし俺がそう伝えた時には船を漕いでおり、ベンチから転げ落ちそうになる。
「おっ」
俺の下腹部に、ぽふ、と頭が倒れ込む。
そしてそのまま寝息を立て始めた。
「勝手なやつだな……」
長くて白い髪を指ですく。
手触りの良い髪だったが、すく度に毛先が外側にはねた。
「はあ……」
本当ならパーティを組んで、セレナータたちと合流するつもりだったんだけど。
このまま寝られたんじゃ困るなあ。
「あら、レクイエムが誰かのそばで寝るなんて珍しいわね」
横から声がした。
その方を見ると、白い毛の子と瓜二つの少女が立っていた。
「え?」
まるで鏡写しのような少女だ。
長くて白い髪が夕日に照らされ、やっぱりお姫様のようだと思った。
ただ、緑の瞳は不思議に光ってはいなかった。
少女は俺を見るなり、ニマニマと笑う。
「妹になにかした?」
「してない」
急に何を聞くんだよ。
「ふーん」
意味深に聞き流された。
あと、それとは別にひとつ気になることがある。
「妹って、きみがこの子の姉?」
「ええ、そうよ。紹介が遅れたわね。私はエレジー。あなたに寄りかかって寝ているその子は妹のレクイエム。双子の姉妹なの」
「へえ」
じゃあ、この子が言ってたセレナータと似た剣を持つ姉なのか。
しかしエレジーが帯刀しているようには見えない。
右手で太く長い枝を杖のようについて持っているが、これは違うしな……。
「あ、悪い。俺も自己紹介が遅れた。俺はロンド。攻略者だ」
「よろしく、ロンド。で、これがそんなに気になるのかしら?」
お見通しみたいだ。
ちょっとジロジロ見すぎたかもしれない。
「いやあ、まあ」
エレジーは杖で、こつ、と床を鳴らした。
しばらくして、彼女の後ろから、ズシンズシン、とゴーレムが歩いてくる。
肩に落ち葉が付いていた。
「レクイエムを部屋まで運んで」
ゴーレムから、クポーン、と音が鳴る。
俺の腹に寄りかかって眠るレクイエムを、ゴーレムの巨大な片手が持ち上げた。
そんなことをされてもレクイエムは目覚めない。
何なんだ、この子……。
あきれた時に、ふと、
「あ、身分証!」
ここに迷い込んだのも白猫を追いかけたからだった。
「なあ、白猫を知らないか? 人のものを盗りそうな」
眠ってない方の少女に問いかける。
「はぁ」
エレジーは重たいため息を吐いた。
「また何か盗んだのね。しょうがないなぁ」
どういうことだ?
「その白猫。レクイエムの変身なの。たぶんゴーレムの体のどこかにあると思うのだけど、今は探せないわ。目覚めたらきっちり隠し場所を吐いてもらわなきゃ。ただ、一度眠ると朝まで起きないわ」
なんだ、変身か。
いや、本当は驚くところなんだろうけど。
セレナータやカプリッチオのせいで少し慣れてきたらしい。
「そうなのか。まいったな、身分証がないと泊まる場所がない」
通常、どの宿屋も身分証が必要だ。
村の宿屋のように顔を覚えられているなら必要ないが、王都の宿屋はそうはいかない。
エレジーは緑色の瞳を俺に向けて、おずおずと切り出した。
「レクイエムが起きるまで、私達の部屋に来る?」




