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金とギルドと猫とパンツ

 ~魔法国 王都 ギルド~



 ギルドに到着した俺は受付の娘に、銀のタグを見せて生存報告をした。

 銀のタグが身分証なのだ。

 これがなければ不法入国者とみなされ牢獄行きになる。


 関門にあったのと同じ水晶にかざすと黒い煙が出た。

 娘は面倒そうに話す。


「やはり死亡扱いになってますね。捜索クエストも出てませんし。所属ギルドは?」


「……魔王討伐攻略団・アルフィーネ」


 それまでギルドで騒いでいた他の攻略者たちが静まる。

 受付の娘が静寂を破り、咳払いした。


「あなたがロンド荷物運び(ポーター)……」


「ああ、そうだ」


 俺は懐から虹色の石を出し、受付嬢の前に置いた。

 虹金特有のシャリィンという音が鳴る。


「虹金を持ってきた。攻略したのは南の草原のダンジョン。身分証の再発行代はここから引き落としてくれ」


 ざわり、と空気が変わった。

 あまりに静かすぎてひそひそ声が聞こえてくる。


「裏切り者……」


 聞こえるように言ったのかもしれない。


「っ……」


 言い返したかった。

 裏切ったのは俺じゃなくて団長だと。

 だけど、俺が言ってもどうしようもないのは分かっている。


「たしかに虹金ですね。……わかりました。身分証の再発行をしますので少々お待ち下さい」


 良かった。

 これでコソコソする必要がなくなる。


 相変わらず他の攻略者たちからの視線が痛い。

 彼らからすれば、俺は最強攻略団を見殺しにし、虹金を持ち逃げした人物と言う認識なのだろう。


 しばらくして新しい身分証が発行された。

 それを受け取る時、合わせて受付嬢から一枚の申請書を渡された。


「パーティ所属申請書?」


「はい。あなたは外国人です。パーティに所属しないなら、あと一週間で国外退去が命じられます」


「は? 嘘だろ? この状況で所属しろって……、無理に決まってるだろ!」


 俺は誰の信用もされてない。

 何なら総スカンを食らってるっていうのに。


「規則ですから。ああ、それとあなたは攻略者として入国してますね。じゃあ攻略者以外の就労も禁じられてます。ご注意くださいね」


 ドン! ジャララ……


 受付嬢は重そうな麻袋をえらく攻撃的に置いた。

 中から銀貨が何枚か溢れ出る。


「うぐ……」


 受付嬢も取り付く島がない。

 俺は逃げるようにギルドを後にするしかなかった。



 ~魔法国 王都 大樹の展望台~



 あれから街をふらついた俺は、疲れたので大樹のそばにある展望台に上った。

 なんとなく人がいなそうだったから。


「寂しい場所だな……」


 日陰にポツンと打ち捨てられた空間は、地面に苔が生えて湿った匂いがする。

 ただ、見晴らしは悪くない。

 大樹を背中に景色を眺めると、遠くに小さく城が見えた。


「セレナータ、カプリッチオ……」


 さっき別れたばかりなのに、なんだか急に会いたくなってしまった。

 格好悪いなぁ、俺は。

 一人分の陽だまりに倒れるように横になる。


「あと一週間かぁ」


 あの男は人を騙す魔法が得意だと言っていた。

 だが、それよりも人心を掌握して信用を得ていることの方が問題だ。

 これでは誰に声をかけても俺は信用されない。


 タグを握って拳を掲げると、曇り空に鈍い銀色が輝く。


 力を隠してギルドに潜り込んだツケが回ってきた。

 ギルドの誰もを信用してなかった俺が今さら信用されるだろうか、いやない。


「はぁぁぁぁ……、んぐっ」


 長い溜息を吐いた瞬間、顔面に何かがのしかかった。


「なんだっ!?」


 顔に乗ったそれを引っ剥がそうとしたが、もういない。

 展望台の柵のところがキラッと光った。


「あっ」


 そこには白猫が居て、猫は俺のタグを咥えていた。

 緑色の瞳が細長くなる。


「待て!」


 と言って待つ泥棒猫は居ないわけで。


 俺は白猫を追いかけて、高台を飛び降りた。


 ドン、ドカッ


 細い路地を抜け、段々の塀を上がり、屋根と屋根の隙間を行く。

 街は入り組んでおり、どの家も壁や屋根が暖色系に塗られているから似た景色が続いた。


「どこだっ?」


 樹の枝を跨ぐ。

 白猫は樹の高いところから俺を見下ろしている。

 ウロのような場所だ。


「そこか! 返せ!」


 俺はそのウロめがけて飛び込んだ。



 ~魔法国 王都 魔法学校 展望デッキ~



 ウロの中はつるりとした筒状の斜面で、頭から突っ込んだ俺はヘッドスライディングする。

 中空に。


「は? うわあああっ!? へぶっ」


 顔面から着地した。


 だが、思ったほど痛くない。

 顔をうずめたまま、手を動かすとふかふかの感触だ。

 あと、口の中にカサカサ入ってくるこれは……。


「はっ!」


 勢いよく起き上がると、落ち葉が舞った。

 俺は落ち葉が敷き詰められた部屋に落ちたようだ。

 そして、そこにはローブを羽織ったゴーレムがいた。


「っ!?」


 ゴーレムは俺の三倍はある巨体で、土と石を固めて作った体だ。

 頭部には溶接技師のマスクがあって、火の玉のような赤い光がクポーンと光っていた。

 その光は俺を見下ろす。続いて巨腕を振りかぶる。


「ンゴゴゴッ!」


 ガチンッ


 鞘で受け止める。

 かなり重たい一撃。

 ふかふかの足場が幸いして滑るように後方へ吹き飛ばされた。


「おいおい、カプリッチオ。出るじゃねぇかよ、モンスター」


 ゴーレムと言えば遺跡にいるモンスターだ。

 だが、樹木ばかりのここだと珍しいかもしれない。


 おや?


「おい白猫! 危ないぞ!」


 ゴーレムの肩に俺が追っていた白猫が乗っていた。


 あの白猫、自分がモンスターの上にいるってわからないのか?

 いや、怖くて降りられないのか?


「じっとしてろ、今たすけてやるからな!」


 そう呼びかけたら、白猫はゴーレムの後ろに消えた。

 白猫が消えて、代わりに出てきたのは……。


「……女の子?」


 それも真っ白な髪だ。

 緑色の瞳の真ん中には不思議な光がきらり。

 10代半ばほどの彼女は小さな尻をゴーレムの肩に乗せる。



挿絵(By みてみん)



「はじめまして」


 透き通った声だと思った。

 どこか喋り慣れてないような感じはセレナータに似ているかもしれない。


「って、危ないぞ! きみ、大丈夫か!?」


 少女はキョトンとしていた。


「この子は、友達だから……」


「俺をふっとばす攻撃をしたモンスターだ。なら、お前は……」


 敵か?


 いや、そうは見えなかった。

 強いて言うなら、お姫様のようだと思った。


 少女はすっくと立ち上がると、無防備に俺の前へ飛び降りた。

 ローブが舞って、


「ちょっ」


 見えちゃいけないところが見えた。


 お姫様のようだと思った?

 前言撤回。


「おい! パ……、下を履けよ!!」


 俺は手で目を覆って見えないアピール。

 でも見てしまったことはどうしようもない。


「ああ……、下……、下……」


 ぼそぼそと喋りながらゴソゴソと音がする。

 見てしまわないように床の方だけ見てみると、そこには脱ぎ捨てられたローブがあった。


 ええ……?


 見ず知らずの男の前で服を脱ぐとかヤバい奴じゃん。


「なかった……。まあいいや……」


「良くないよ! それと、パッ、パン、いや、下着を確かめるために服を脱ぐな!」


「ローブ……、脱いだだけ……」


 な、なんだ。

 びっくりさせやがって。


 手をどけて見てみると、シャツがずれており、タンクトップの下着が丸見えだった。


「ええええええええっ!? なんで? なんでシャツ半脱げなんだ!? それに下! 下!!」


 少女は首をかしげる。


「落ち葉……?」


「そんなに下じゃない! ないだろ、もっと、股のところにあるべき布が!!」


 俺は顔をそらす。

 だって上の下着は丈が短いから隠れてないんだもん。


 面倒くさそうに唸られる。


「う~ん……、クイズ……? パンはパンでも」


「パンツだよ!!」


 もう恥ずかしさが爆発した。

 パンツと口にするくらいどうでも良かったくらいに。


「ゴーレムの体……、パンツあるから……。そんなに言うなら……、履かせて……」


「なんで!?」


「履かなくていいなら……、履かないし……」


 すごく面倒くさそうに、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。

 この子には常識がないのか?

 いや、それにしても無さ過ぎるだろ。


「履いてくれ。必要だから……、主に俺のために……」


 実を言うと、カプリッチオまで仲間に加わって、俺は我慢の限界だった。

 それなのに白い髪の少女は惜しげもなく裸体を晒してくる。

 健全な男子の精神に良くない。


「ゴーレムの体にあるんだな?」


「うん……」


 俺は出来る限り少女を見ないように、ゴーレムの体を調べた。


 急に襲いかかってこないだろうな?


 という心配は俺の杞憂に終わり、目的のブツは腹の中のアタッチメントに入っていた。


 く、黒い下着か……。


 俺は目をつむり、しゃがんで、黒い下着を広げた。


「ほら、履かせてやるから」


「面倒……」


「いいから、早くしろ!」


「はあ……、しょうがないなあ……」


 え?

 なにこれ、俺が変な人みたいな言い方はおかしいでしょ。


 俺の前に少女が立ったのを気配で察する。

 もしここで目を開けたら、目の前に、その、あるんだろうなあ。

 おっと変な想像はここまでだ。


「履かせるぞ」


 下着を広げたまま上げる。

 細い足に親指の表側が触れただけなのに、少女の華奢さが伝わった。


 もっと上まであげると、男にはない空間にまで布がのぼり、驚くほど気持ち良いフィット感がある。

 股間に無いというのは安定感があるんだな……。

 どうでもいい知見を得た。


「窮屈……。はあ……、満足した?」


「きみがやらせたんでしょうが!」


 立ち上がって怒鳴りつけた。

 もう目を開けても問題ないと思って、彼女の緑の瞳を覗き込む。

 セレナータとは違う意味で何を考えてるのか分からない顔をしていると思った。

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