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王都到着

新章突入です。


~今までのあらすじ~

 モンスターに魔法しか効かない世界で攻略団に所属するロンドは、剣士である身分を隠して荷物持ちをしていた。ある時、魔法至上主義の団長に追放された仲間を見殺しにしてしまう。仲間の死と引き換えに受け取ったのはオンボロな剣。もう二度と目の前で誰かを見殺しにしないと誓ったロンドは、仲間から託された剣で団長の窮地を救う。戦闘員として仲間にならないか誘われるが、もう遅い。攻略団をやめ、改めて魔王城を目指すことにした。もらった剣から精霊が飛び出し、彼女は自称「伝説の聖剣」の精霊セレナータと名乗る美少女だった。ロンドは地図の最果てを目指すために新たな仲間を求め、王都を目指す。


攻略団を抜けたロンドはなぜか死亡扱いになっており、身分証を更新するためにギルドへ行かなければならなかった。身元不明なまま王都へ続く関門を通れない今、セレナータのナビに従って大きな街を目指して森に入る。そこには街はなく、代わりに怪しげな洋館があった。そこで金髪赤目の吸血鬼カプリッチオと出会ったロンドたちは、巨大な植物魔物と戦い勝利する。カプリッチオは300年前に滅びた大都市を治める領主だったことが判明し、街を滅ぼした魔物を倒した礼にロンドの仲間になった。そして、その絶大な権力で関門を突破する。さあ、やっと王都へ出発だ!

 ~魔法国 南の街道 馬車~


 関所を出発したのが午後だったせいで一晩を野宿で過ごし、その翌日。

 出来の良い馬車に揺られていた俺はどうやら眠っていたらしい。

 馬車が止まっていることに気づいて目が覚めた。


 まだ頭はぼんやりだ。

 でも少しずつ覚醒してくる。


 そういえば昨日あんな戦いをしたから疲れてるんだな……。


 まぶたの向こうに明かりを感じるからまだ昼だ。

 もう着いたのか?

 いや、着いたらセレナータかカプリッチオが起こしてくれるしな。


 そう思っていたら二人のコソコソ声が聞こえてきた。


「わしが起こすのじゃ」


「いいえ、ご主人さま(マスター)を起こすのは私の務めです」


 どうやら俺をどちらが起こすかでもめているようだ。

 カプリッチオは「ふすー」とため息を吐いた。


「まるで決まり事みたいに言うが、ただお主が起こしたいだけじゃろ?」


「これから三人で旅をするにあたり、役割ははっきりとするべく……」


「じゃあわしが起こしてもいいわけじゃ」


 セレナータの息を呑む声が聞こえた。

 どんな顔をしてるのか拝みたい気持ちに駆られる。


「で、でもあなたの起こし方はダメです」


「ちょっと首を噛んで驚かせてあげようとしただけじゃぞ?」


 そんなことをされそうになってたのか俺は。

 というか完全に起きるタイミングを逸してしまった。


 うう……、せめてマトモに起こしてくれ。


「それがダメなのです。私のように優しく起こすべきです」


 いいぞセレナータ。


「は? お主のどこが優しいんじゃ。起きがけにそんな仏頂面、気分悪いじゃろ」


「目覚めた時に側にいて安心させるのも(わたし)の務めです」


「うーむ、一理あるの。じゃが、あまりに普通すぎる」


「普通で良いじゃないですか?」


 そうだぞ。


「お主が笑顔の一つでもすればロンドは喜ぶじゃろうに。かわいそうにのう」


 カプリッチオの言い分も分かる。

 セレナータの顔はぴくりともしないから表情も読み取れない。

 決して嫌じゃないんだけども、なんかだかなぁ。


「それは……。たしかに私は笑顔が、……上手じゃないのかもしれません」


 セレナータの言いよどむ声。

 そういえば宿屋で寝た時もそうだった。

 毅然としているが、根は口下手な女の子だ。


「分かったじゃろ? お主よりわしが起こすのにふさわしいのじゃ」


「いいえ、それは違います。私にだって驚かして起こすくらいできますから」


 ……うん?


「私なら噛んで起こすより、そうですね……、耳に息を吹きかけて起こします」


 ……何を言ってるんだ?


「バカじゃのうお主、そんなことで驚くと思うのか?」


 いや、たぶん驚くけど。

 カプリッチオ、頼むからセレナータの斜め上の発想を止めてくれ。


「驚きます」


「驚かぬ。じゃからわしがカプッと」


「噛むのはダメです。ですから私が耳をフーッと」


「それくらいじゃ驚かぬのじゃて」


「驚きますよ。……実際に試してみたら分かるのではないですか?」


「は?」


 は?


 俺とカプリッチオは意図せず考えがシンクロした。


「ちょっ、お主! 何するのじゃ? やめっ」


 ガタガタガタ


 馬車が揺れる。

 カプリッチオが嫌がる声に衣擦れの音が混じっていた。


 ……えっ、何してるのこの二人。


 俺は思わず目を開く。

 そこにあったのはセレナータがカプリッチオを押し倒して、耳に息を吹きかけている光景だった。


「このっ、やめるのじゃっ、あっ、狭いんじゃからっ……、はにゃぁぁぁぁっ」


 カプリッチオが恥ずかしい声を漏らした瞬間、とろんとした目と俺の目が合った。

 真っ赤になった。

 もちろん目じゃなくて顔が。


「ふぇぇ……」


 両手で顔を隠してしまった。


 それからセレナータがクールな顔をこちらに向ける。


「おはようございます、ご主人さま(マスター)


「ああ、おはよう……」



 ~魔法国 王都 南門~



 あの後、俺とカプリッチオの間に気まずい空気が流れたが、王都の南門に着くとそんな空気はガラリと一変した。


「着いた!」


 御者をする俺の前に現れたのは巨大な樹木。

 緑の葉が生い茂って、見上げてもてっぺんが見えないほどだ。

 街を囲う石壁よりも高く、大樹が傘のように俺たちを覆っていた。


「あの大樹はご神木とかなんだろうな」


 俺の国では大木や大岩に縄を巻き、神と崇める風習があった。

 カプリッチオが俺の影から出る。


「あれは魔法学校なのじゃ」


「魔法学校?」


「ああした大樹があるのは、この地が魔力に満ちている証拠なのじゃ。ダンジョンもそうじゃろ? 強い魔力があればボス級モンスターが生まれてダンジョンとなる。ボス級モンスターが魔力を散らして、低級モンスターを生み出す」


 馬車の大きい影から獰猛そうなコウモリが湧いて、コウモリの影から可愛らしいコウモリが湧いた。

 指揮者のように拳を握ると、コウモリたちが消える。


「あ、じゃあこれ、元々はダンジョンだったのか?」


「のじゃのじゃ。わしが生まれる前の話じゃがな」


「危なくないのか?」


「たぶん魔法学校はそのためではないか? 魔力の出口があるならボス級モンスターも湧かぬじゃろう」


 そういうもんなのか。

 俺は魔法を使えないからよく分からない。

 用心するに越したことはなさそうだ。


「それに大賢者がいるのじゃ」


「大賢者?」


「うむ。大樹がダンジョン化せぬよう土地を管理する者じゃよ。じゃから、この国は王ではなく、大賢者が治めていると言ってもいい」


「へぇ」


 いろんな国があるんだなぁ。

 ぼんやりと大樹を眺めていると、カプリッチオは俺に影を絡めて背後を取った。


「ロンド、少し痛いが我慢するのじゃ」


「え?」


 カプッ!


「痛っ! 急に何すんだよ!?」


「魔法に対するまじないじゃ。お主、魔法がからきしじゃからの」


 そりゃそうだけど……。

 首をさすると血が付いていた。

 もう少し心の準備をさせてほしかったね。


 カプリッチオは俺の影から自身を切り離し、馬車から飛び降りた。


「どこ行くんだ?」


「わしは王に謁見せにゃならん。領主が代替わりしたことを伝えぬとな」


 淡々と言う。


「そうか。なら、そうだな。セレナータ」


 セレナータが馬車の屋根の上で実体化する。

 青髪が舞い、ひざまずいた姿勢だ。

 顔は見えない。


「何でしょうか、ご主人さま(マスター)


「カプリッチオの護衛を頼む」


「……私はご主人さま(マスター)の剣です」


 きっと表情は変えてないのだろう。

 でも声に不満が混じっているのが分かった。


「カプリッチオは夜に力が使えない。たぶん男の側仕えより女のお前が側にいた方が何かと都合が良いだろ?」


「ですが」


「俺はギルドに寄るだけだ。何も心配は要らないよ」


 セレナータは沈黙する。

 下でカプリッチオが笑っていた。


「くかかっ、せっかくそれとなく出ていこうと思ったのにのう?」


 赤い瞳で俺にウインクする。

 ああ、そういう落とし所にするのか。


「セレナータ、護衛じゃなくて見張りを頼む」


 俺の問に彼女は顔を上げた。青い目に俺が映る。


「見張り、ですか?」


「あいつに逃げられると困るんだ」


「……わかりました。その任務、引き受けましょう」


 表情が読み取れない顔だ。

 察したのか、額面通りに受け取ったのか、分からない。

 でも、これでいい。


 門でカプリッチオが申請をしたら兵士たちは腰を抜かし、俺もセレナータも無事に街へ入ることができた。


「すまんな、ロンド。しばしセレナータを借りるのじゃ」


「ああ。セレナータ、気をつけて行ってくるんだよ」


「はい、ご主人さま(マスター)もお気をつけください。それと、私と離れていても契約を忘れないようにお願いします」


 契約を思い出す。


 ――では契約してください。

 ――あなたは人が死ぬのを見過ごさないために剣を振るう、と。

 ――その対価に伝説の聖剣セレナータは力をお貸ししましょう。


 それにしても、『契約を忘れないようにお願いします』か。

 俺は腰の剣をぎゅっと握り締める。

 セレナータは少し目を見開いて、深くうなずいた。


 そうして俺たちは別行動を取ることになった。


 この街は嫌な気配がする。

 何者かの視線を感じながら、俺はギルドへ向かった。

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