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反撃

 ~魔法国 霧の森 赤い屋敷 庭~



 屋敷の庭はぼんやりと光っている。

 どうやら植物型の魔物のエネルギーが大地に漏れているようだ。

 そして、庭の奥で屋敷より長く、太い茎の花が咲き、花びらの中心で巨大な一つ目を輝かせていた。


 俺とカプリッチオは顔を見合わせる。

 準備はした。

 俺は片手にセレナータ、それと数枚の皿を持っている。


 作戦は至極簡単。

 巨大な一つ目に攻撃を与えるため、近づいて茎を切るだけだ。


 しかし、問題は3つ。


 第一に、近づくと、3000度の熱線に襲われる。

 第二に、さらに近づくと蔦に足を取られて動きを封じられる。

 第三に、熱線は鉄の盾で守れるが、この盾は重くて持ち運べない。


「いくぞ」


 植え込みに隠れながら近づき、


 ある程度まで近づくと植え込みが無い場所にくる。


 ここまでは良い。


 カプリッチオが前に出る。


「剣は血。我が生き血を贄に、契約する。ヴァンピール・ファング!」


 カプリッチオが剣に血を流すと、庭園の鉄格子が引っ剥がされ、錆びた剣の周りを包む。


 ズシン!


 そうして堅牢なる盾が生まれ、大地に突き刺さった。

 大きさは人が2人は入れて縦長のもの。

 あまりに分厚く持ち運べないが、これでないと防げない。



 ――熱線、来ます!



 セレナータが合図する。

 霊体となったセレナータに熱線は効かないから、見張り役だ。



 一瞬の明滅。



 ピキィィィィ――――



 高熱が周囲を焼き尽くす。


 鉄の盾で守られた俺たちはかろうじて生き延びる。



 ……よし、これで第一の問題はクリアだ!



 しかし、盾が溶け始める。

 限度があるのだ。


 その上、盾の影からにょきにょきと芽が出て俺たちを絡みとろうとする。


「ロンド!」


「ああ!」


 カプリッチオの声に呼応し、皿を斜め前方に向けて投げる。



 シュッ!



 手首のスナップを利かせ、回転する皿は、



 ピキィィィィッ――――



 熱線の的になる。

 十歩ほど先で皿は消し炭と化した。


 動くものに的を変えるのは屋敷幽霊を犠牲になったのを見た。

 あれで思いついたのだ。


 そして、庭に熱線の痕跡。



 絡みつく芽は焼き払った。



 ……第二の問題、クリアだ!



「よし!」



 問題はここからだ。

 この盾は重くて持ち運べない。


「カプリッチオ、大丈夫か?」


「わかっておる。わしにまかせておけぃ」


 余裕そうに返事して盾を錆びた剣に戻す。

 でも、膝がガクついていた。


「ぜ、ぜんぜん大丈夫なのじゃ」


「仕方ないな」


 俺は彼女を小脇に抱えた。


「はにゃっ!?」


 そのまま黒く焦げた場所をまっすぐ走る。

 盾は重いが、カプリッチオは軽い。


「離すのじゃ!」


「おい、あばれるなって!」


 足をジタバタするな。

 これじゃ駄々をこねる子供だ。


「屈辱なのじゃ……」



 ……第三の問題、クリアだ。



 俺たちの作戦というのは、

 カプリッチオが盾をつくり、

 皿を斜め前方に投げて熱線をずらし、

 熱線で生まれた焼け跡の上を歩いて芽に妨害されず、

 茎のところまで近づく。



「ゴリ押し作戦、うまくいったな」


 ――お見事です、ご主人さま(マスター)


「わしのプライドを犠牲にした作戦なのじゃ!」



 巨大な花がすでに橙色となり、もうじき赤くなる。

 一つ目が光りだした。


「カプリッチオ!」


 ぷんすかとする少女だが、確実に無理は来ている。



 でも無理を強いらなければ、


 ――第二砲、発射まで約6秒。早くシールドの展開を!


 俺たちは死んでしまうのだ。



 セレナータのアナウンスでカプリッチオが顔を上げる。



「剣は血。我が生き血を贄に……、契約、する! ヴァンピール……、ファング!!」



 錆びた剣はふたたびカプリッチオの血液を吸い上げる。

 カプリッチオが片膝を落とした。



「大丈夫か! カプリッチオ」



 俺は彼女を支えることしかできない。


 変形する剣が俺たちの上に落ちてきて潰されないように、


 小さな手の上からヴァンピール・ファングの柄を握る。



 ――熱線、来ます!



 ピキィィィィ――



 ズシン!



 鉄塊がかろうじて生成され、



 カッ



 先ほどより強い威力の熱線に晒される。


 縁からすでに溶け始めていた。


 俺は皿を斜め前に投げる。

 しかし、投げた端から消し炭になってしまった。

 2枚、3枚、続けて投げても一瞬で原型を留めずに消えてしまう。


 おいおい、嘘だろ? 威力が上がってるのか?



 ――ご主人さま(マスター)! 足止めの蔦が焼け地からも出ています。



 俺たちの足元には芽がポツポツと出ていた。

 どうやら、あの魔物は近づくほどに強力な熱線を放ち、活性化した蔦を生やすらしい。


「わしらには無理だったのじゃ。くっ、すまない。お主を巻き込んでしまった……」


 カプリッチオが弱音を吐く。

 震えていた。



 鉄の盾がドロドロと溶け、一部に穴が開く。

 漏れ出た光がカプリッチオと俺の腕をかすめた。

 鉄に反射した光だからか熱くはない。


 セレナータが言っていた。


『焦点にさえ居なければ害はありません』


 なのに。


「ひっ」


 カプリッチオが怯えて手を縮こませ、盾が斜めになった。


 俺は思い出す。


『じゃが、戦えてはおらぬ。霧で身を隠しただけなんじゃ。わしは光が怖い』


 両親を殺し、生まれ育った町を奪った。

 もちろん吸血鬼にとって弱点なのかもしれない。


 ――熱線、止まります。


 なんとか急場をしのぐことはできた。

 でも、カプリッチオは怯えて力が入らない様子だ。

 もう鉄の盾で守れるのも限界か……。


「わ、わしは……、うう、すまない……」


 強い責任感だ。

 ほんとうは怖くて怖くて逃げ出したいのに。


 今まで守ってくれた。

 盾を作るので剣に血を吸われて大変だったはずだ。


 カプリッチオ。

 お前は魔物だけど、俺はきみが大切なんだ。


 だから――



「俺がお前を救ってやる」



 カプリッチオが顔を上げたのが、たぶん視界の端に見えた。

 俺の視線は魔物を見ていたから。


 一つ目が動いた俺を標的にしている。


 逆だ。


 俺がお前を標的にしてるのだ。



 一つ目の周囲の花びらが橙色に染まる。



「お、お主……、ここから何をするのじゃ……? まだ、やつは……遠いのじゃ!」



 そのとおりだ。

 全力で走って20秒。



 ――第三砲、発射まで約9秒。早くシールドの展開を!



 セレナータの声にカプリッチオがビクッと震える。


 9秒後、死ぬ?



「させるかよ――」



 俺は剣の柄に手を掛け、セレナータの名を呼ぶ。



 ――はい、ご主人さま(マスター)



「甲冑と戦った時に言ってたな」



 ――はい、ご主人さま(マスター)(わたし)の力をお使いください。



「ああ、――いくぞ!」



 俺は一歩を踏み出す。


 足にまとわりつき始めた芽が、



 ぶちぶちとちぎれる。



 2歩、


 3歩、



 ただ上へ跳ねるように。




 片腕を大きく後ろに振る力で前に進む。



 左手、



 右手、



 左手。




 反対側の手は折り曲げて、前傾姿勢の体を支えた。

 だから今、俺の前には右手がある。




 一つ目との距離を半分に縮めた。



 でも、もう半分が足りない。


 それで充分だ。




 体に乗せた勢いをそのままに、柄に手を置く。

 この剣(セレナータ)に鞘を抜く動作は要らない。





 ――前方に高エネルギー反応! 第四砲、来ます!



 ピキィィィィ――



 目が光り出し、熱線が照射される直前。





輪剣術(りんけんじゅつ)瞬月斬(しゅんげつざん)





 俺は右手を横薙ぎ、一閃。



 ――伝説の聖剣セレナータが力をここに、解放(レリーズ)




 ザンッ




 森が、割れた。



 ……甲冑と戦った時、セレナータがこう言っていたのを思い出す。


(わたし)は刃渡りを短くできますが、どうしますか?』


 つまり、その逆も然り。

 常識はずれの斬撃が、俺と一つ目の間にあった「もう半分」を埋めた。



 カッ



 熱線は俺の頭上を通過する。

 屋敷が吹き飛ぶ音がした。


 幅跳びのように長く滞空し、俺は森の縁に着地する。


 俺たちが斬ったのはあくまで茎だ。

 ピンポイントで狙うのはあまりにリスキー。


 薄ぼんやりと光っていた大地が脈打つみたいに光って、暗くなっていく。

 おそらく太陽エネルギーは地中の根にでも貯めていたのだろう。

 これで、あの目玉も熱線を撃てまい。


 花がこちら側に倒れる。

 茎の背丈は館より大きかったから、いま走った距離を戻らなきゃならなそうだ。

 でも。


 ……あとは目をつぶすだけだ!



 ドシン!



 振り向いてたしかめる。

 茎の背が高くて目はカプリッチオのそばに来た。



「カプリッチオ!」



 そう、呼んだ時だった。



 朝日だ。



 森の奥からサンサンと煌めく太陽が顔を出した。



 ――目標にエネルギー反応!



 セレナータが叫んだ。

 目玉の周りにある花びらが橙色に染まる。


 やばい。


 植物は日光で復活する。



「ひっ」



 カプリッチオの小さな悲鳴が聞こえた。


 やれるか?

 いや、無理か?


 恐怖で最後の力も振り絞れないんだ。



 俺が今の技を再び繰り出すにはカプリッチオが邪魔になる。



 やるしかないんだ、カプリッチオが。

 でも、今、この残り数秒で、俺は。


 自分が死ぬ瞬間には見えなかったのに、走馬灯のごとくカプリッチオの言葉がいくつもフラッシュバックする。


『じゃが、戦えてはおらぬ。霧で身を隠しただけなんじゃ。わしは光が怖い』

『わしの母上と父上は、あの熱線を浴びて死んだ。わしを護る盾となってな。その時に、両親と約束したのじゃ。わしがあの魔物を倒すのだ、と』

『その娘はお主の側仕えじゃろ。お主は娘にとっての特別じゃ。わしが母上と父上にとって特別だったようにな』

『わしは半人半吸血鬼、夜はただの人間と同じ力しか出せぬのじゃ』


 吸血鬼は人間を下に見る。

 たぶん彼女もそう育ってきて、魅了術で俺を煽ってきた。

 吸血鬼の親は半分人間の娘を傷つけないように、半分でも吸血鬼であることを特別だと言っていた……?


 違う。


 俺は気づく。

 カプリッチオの両親が言った特別と約束の意味を。



 ――目標、第五砲! 発射まで約7秒……!



「カプリッチオ! 両親の言葉を思い出せ!」



 少女は泣きそうな顔をこちらに向けた。



「半分人間が特別だから約束した! 両親は信じてたんだ! カプリッチオは日光で死なないと! いま、朝日を浴びたお前は無傷だろ!!」


 ただの吸血鬼だったら光を浴びて、死ぬか、あるいは痛いのではないか。

 でもどうだ?

 陽光を受け、金色の髪が輝いている。


 そして、赤い目はより紅く。

 真紅の瞳が輝き、



「ヴァンピール・ファング!」



 その錆びた剣を禍々しく巨大な(ハンマー)に変え、細い片腕で天高く掲げた。





「【血の(ブラッド・)裁判(ジャッジメント)――死刑執行(エクスキューション)】」




 ドン!!



 一つ目がつぶれる。

 血の雨が降る。



 ……俺、この子を敵に回さなくてよかった。



 あまりに規格外の強さ。

 魔物の中の魔物。

 夜の王――吸血鬼。


 朝日を浴びて覚醒する常識はずれの吸血鬼がここに生まれた。

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