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作戦会議

 ~魔法国 霧の森 赤い屋敷 エントランス~



 作戦会議だ。

 俺と実体化したセレナータとカプリッチオは三角形で座る。


「まず俺から聞きたい。ソーラービームとは何だ?」


「私が解説します、ご主人さま(マスター)。ソーラー、すなわち太陽光です。目標はそのエネルギーである光と熱を何らかの形で蓄積し、焦点に収束させて放ちます。光そのものに害はありません。ただ、光が収束する焦点に、約3000度の高熱を発生させます」


「3000度!?」


「はい。原理は不明です。繰り返しますが、焦点にさえ居なければ害はありません。まぶしくても、その光が痛いとは感じませんでしたよね?」


「ああ。温かいとは思ったけど……」


 流暢に言うが、とんでもない話だ。


「そういえば最後のは途中で後ろに逸れたな」


「良い着眼点です、ご主人さま(マスター)。目標はその焦点距離を自在に操れます」


「なら、避けながら戦うのは無理か?」


 そこでカプリッチオが割って入る。


「それはわしが説明するのじゃ。まず結論から言うと、可能じゃの。やつは植物だから夜は動きがにぶるのじゃ」


 魔物とは思えないが、植物型はどれもそうだ。


「だから照射と照射の間を抜けて移動する余裕はあるのう」


「ありがとう。やつの情報は他にあるか?」


「うむ。おそらく弱点は目じゃ」


「だろうな。だが、位置が高すぎる。攻撃が届かない。そこでだ」


「はい、ご主人さま(マスター)。あの太い茎を切るのですね」


「その通りだ。そして、倒れた奴の目玉を潰す」


「ま、待つのじゃ。近づけんじゃろう、あの蔦が足を絡め取る」


「いや、道はやつが自分で作ってくれたじゃないか」


 俺は、蔦を足から千切る時、蔦が焼けた地面から生えないことと、熱で弱ったことを伝える。


「お主……正気か? 熱線を受けながら進むということじゃぞ!?」


「だからもう一つ聞きたい。あの鉄の盾はなんだ?」


 カプリッチオは懐から錆びた剣を取り出した。


「銘はヴァンピール・ファング。我が一族に伝わる剣じゃ」


「でも錆びた剣にしか見えないぞ」


「周囲の鉄を集め、どんな形にもなるのじゃ。ただ、血の代償はあるがな」


「血って、自分の血か?」


「そうじゃ。ゆえに吸血鬼にしか使えぬ。おかげで今もちょっと貧血ぎみじゃ」


 パタパタと手うちわで首筋をあおぐ。


「消耗が激しそうだな。でも、助かった。まさか助けられるとは思わなかったよ。ありがとう」


「……なっ、なんじゃ急に! わしは借りを返しただけなのじゃ!」


 借り?

 もしかして俺が最初の熱線から助けたことを言ってるのか?


 義理堅いやつだ。


「しかし、セレナータと似ているな。セレナータは剣の精霊だ。契約で、誰かを護る時にしか鞘が抜けない」


 そう打ち明けると、カプリッチオは俺たちを見比べてうなずく。


「なるほどのぅ。娘がお主を特別な存在だと認めているわけじゃ」


「なあ、その特別な存在ってどういう意味だ?」


 カプリッチオは言いにくそうに目を伏せた。

 しかし、ゆっくりと口を開いて、歯を見せる。


「……え、なに、どうした?」


「おい素で引くでない! 傷つくじゃろ……。歯を見ろ! 牙じゃ、牙!!」


「あ~」


 言われてみると犬歯が少し尖っているような?

 いや、でも最初に見たときはもっと牙らしい牙だったぞ。


「わしは半人半吸血鬼、夜はただの人間と同じ力しか出せぬのじゃ」


 頬を赤らめて言う。

 今までの尊大な態度は虚勢だったのだ。


「お主をあともう少しで食えたのじゃったが、運が悪かったの」


 運が良くて助かった。

 ちょうどそこで夜になったのだ。


「カプリッチオの言う特別ってそういうことか?」


「うむ。わしの母上と父上は、あの熱線を浴びて死んだ。わしを護る盾となってな。その時に、両親と約束したのじゃ。わしがあの魔物を倒すのだ、と。じゃが……」


「……町は滅んだのか」


 無言の肯定。


「ならここをカプリッチオがここにいる理由って、あの魔物を倒すこと、だけなのか?」


「そうじゃ。300年ずっと……」


 300年。

 気が遠くなるほどの年月を両親の約束を果たすためだけに費やした。


「じゃが、戦えてはおらぬ。霧で身を隠しただけなんじゃ。わしは光が怖い」


 俺はカプリッチオの顔を見ることができなかった。

 でも、目をそらすべきじゃない。


「ロンド、頼みがあるのじゃ」


「ああ。わかってる。引き受ける」


「……お主は優しいやつじゃの。恩に着る」


 カプリッチオは顎を引き、ゆっくり目を閉じた。

 感謝の念が伝わってくる。


「だが、俺は魔力がない。剣士だ。どこまで力になれるか……」


「なんじゃ? もう弱気かの? わしが惚れ……、いや、頼りにした男じゃぞ。しっかりせい」


 彼女は俺に、ずい、と寄る。


 カプッ


「いたっ」


「くひひ、元気を注入したのじゃ。うれしかろう?」


 いたずらな笑みを浮かべる。

 年相応のかわいさがそこにはあった。


 カプリッチオの愛らしさに目を奪われていると、セレナータが割り込んできた。


「……」


 セレナータがカプリッチオの体を押しのける。


ご主人さま(マスター)は私が守ります」


「大丈夫だ、セレナータ。今のは襲われたわけじゃない」


「なぁ~んじゃ。わしは襲ったつもりじゃったのにのう。くひひっ」


 おどけて俺の弱気を消してくれた。

 カプリッチオは魔物なのに気が回るやつだ。


 俺も助けられてばかりではいけないな。


「よし、セレナータ、カプリッチオ。こんな作戦はどうだろう」


 二人に案を話す。

 案は受け入れられる。


 カプリッチオは輸血パックを取りに食料庫へ行った。

 残ったセレナータは無表情だったが、不服そうに見えた。


「どうした?」


「私との契約は、人が死ぬのを見過ごさない時のみ力を発揮します」


「ああ。俺はカプリッチオをまだ魔物だと思ってる。力が使えるかは分からない」


 滅んだ町に護るべき人はない。

 カプリッチオは半分が人間だとしても、人を食う化け物だ。


「それなのに何でかな、助けたいと思ってるんだ」


ご主人さま(マスター)は優しすぎます。危険です。ですが、とても温かい気持ちになります」


 セレナータの顔はまったく変わらなかった。

 言い方が優しげだったから、俺も温かい気持ちになった。


 カプリッチオと合流し、セレナータは霊体化する。

 俺はエントランスの重い扉を開けた。

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