第十三章 向暮楊風(十二)
「葬儀につきましては、既に、安世どのの邸の方に我が邸からも家人を遣り、あちらの別当と共に支度を整えております」
顔色こそ悪いが、三守はむしろ落ち着いていた。
「足りぬものがあれば、遠慮なく言うがよい」
「恐れ入ります」
神野はそれをじっと見つめ、少しためらってから、
「無理をするなよ。こちらからも、少し人をよこそう」
と言った。三守は深く頭を下げ、きっぱりと答える。
「ありがたき御言葉でございますが、院の御手を煩わせるには及びません」
「それならよいが―――」
悲しみに乱れる心は、神野も三守も変わりはない。だが今、二人は自分の悲しみに溺れるよりも、まず相手の心情の方により心を寄せている。互いに気遣いあいながら、その心は同じだった。
この人にとって、安世の存在がいかに大きいものだったか。
この人のために、どれほど安世に、生きていてもらいたかったか―――
「恐れながら申し上げます」
張りのある澄んだ声で言ったのは、宗貞である。神野は視線を向けた。
「この曲を、是非近い内に院の御前にて披露させて頂きたく思います」
「宗貞」
こんなときに―――と、三守は慌てたように振り向いたが、真っ直ぐに神野を見つめる宗貞の視線は揺るがない。
「この曲を、父は長く暖めておりました。異父兄であられた左大臣冬嗣どのが亡くなられた頃から、暇を見つけてはこの譜と取り組んできたようです」
「―――」
思いがけず冬嗣の名を聞き、神野は僅かに眼を見はった。冬嗣が亡くなってから、既に四年の月日が流れている。
「小野どのとわたしに舞を伝えながら、父はこう申しました。合わせてはならない、競うのだ。同じ舞人として、ひとつの舞台を踏み、相手を見つめ、気魄をぶつけて力の限り舞えと」
「安世が……?」
はっと神野に向けられた三守の視線と、神野の視線が宙で出会う。
その疑問に答えるように、宗貞は静かに続けた。
「院の御為だけに、父が遺した作品です。―――是非とも御照覧頂きたく、ここにお願い申し上げます」
神野の前に、宗貞は深く頭を下げた。
「この曲の名は?」
ややあって、神野は尋ねる。宗貞は静かに答えた。
「『青海波』と申します」




