第十二章 五月闇(八)
「君はまるで人の罪を裁くという閻羅王のような男だな」
後日篁に会い、安世は言った。
「は?」
篁はきょとんとする。
あなたの責任だ―――と、罪状を眼前につきつけて何になろう?
たとえそれを神野自身が欲していたとしても。安世には神野を責めることなど出来ない。冬嗣にも、三守にも、無論出来るはずはない。
それが出来るのが、篁という男なのだろうか。彼は自らの身の安全などまったく考えることなく、真っ向から人を批判して憚ることがない。同じ真っ直ぐさでも、三守のそれとはまるで違う。
それは貴重な資質でもあるし、また篁の持つ危うさでもある。
少しためらってから、安世は二十二歳のこの青年に言った。
「君の言葉には、力がある。だからこそ、それを使うときには細心の注意を払わなければいけないよ。その鋭すぎる刃が人を切り裂いて、取り返しのつかないことになるということのないようにね」
「良峰どの………?」
困惑しきった表情を篁は見せる。安世もそれ以上は言わなかった。
*
「いや………!」
正子は冷然院から届いた薪絵の箱を、床に叩きつけた。
「正子さま」
伊那は狼狽している。正子はほとんど反狂乱になっていた。
「いや、怖い………! 助けてっ」
「正子さま!」
伊那は正子の身体を抱きしめる。正子はもがいた。
「いやっ………!」
「そのようにお気を昂ぶらせてはなりません!」
そこへ、いつもの薬師が大伴の命で駆けつけてきた。伊那は正子を堅く抱いたまま叫ぶ。
「どうか―――良峰中納言さまをお呼びして下さいっ!」
薬師など、何の役にも立たない。
だが、一体、誰に救いを求めろというのか。
主上にか、それとも恒世親王にか―――伊那には見当もつかなかったのである。




