序章
「う、うそだろ…。」
「やばすぎだろこれ。本当に現実かよ。」
誰かが動揺して口にした。
エレベーターが開いた足元から血で染められていた。そしてその先には死体が何体も…。
でも死体があるのは少しおかしいな。あいつらに襲われたら感染して動き出すのではないのか?
俺は疑問に感じながらみんなと歩いていると、すぐにその答えがわかった。
「ねぇ見て警察だよ!すごい人数。」
サヤが指差した先には青い服の人がたくさんいた。みんな手には何か武器らしき物を持っている。
この死体は彼らがやったのか。よく見たら死体の頭にはみな穴が空いている。
そして上空には何やらでっかい物体が飛んでいた。
「ヘリがいっぱい飛んでんな。あれ報道陣だろうな。」
「こんだけ人が死んでりゃ、そりゃ騒ぐよな。」
「俺たちって、やべぇ歴史的瞬間に立ち会っちゃったんじゃね?」
若い奴らが色々と話し合っている中で、さっきのおっさんの顔が浮かない。
「おっさんどうした。助かったのに顔色悪いぞ。」
「いや、俺の連れが見当たらねぇんだ。先に行かせたはいいけど、本当に無事か、気が気じゃねぇんだよ。」
そういえばおっさんは彼女と安全に帰りたいとか言ってたな。
「ねぇ、警察に保護されたんじゃない?聞いて来なよ。」
「そうか!ちょっと行ってくる!」
おっさんは飛ぶようにあっち側に飛び出した。
彼女さん、無事だといいな。
「ねぇうちらはどうする?警察に保護してもらう?」
「お前は保護してもらえよ。俺は遠慮しておく。だから、ここでお別れだな。」
俺がそう伝えると、サヤは急に泣きそうな顔になった。
「なんでそんな冷たいこと言うの?信じられないんですけど。」
「いや俺はそんなつもりじゃ…。短い間ありがとうとかも言うつもりだったよ。」
「サヤもついていくもん!」
いやいやいや、何を言いだすかと思えば。あなた。
「俺はこの世界のことをよく知らないし、一緒にいても守れる自信ないよ。」
「だからついていくもん。この世界のことを知らないんでしょ?ウチが教えてあげる。」
そう言って彼女は俺の腕を強く掴んだ。こいつを振り切るのは簡単じゃなさそうだな。
「それにどうせルイは行く場所もないんでしょ?ねぇ、今夜泊まる場所とかないんでしょ?」
サヤは少しイタズラっぽい顔でこちらを見た。
「ね?いいでしょ?」
こいつは参ったよ。
「はいはい。お前の言う通りだよ。まぁ好きにしてくれ。」
「やっったーー!」そう言ってサヤはうれいしそうにハグしてきた。
小動物みたいでかわいいな。うちの妹もこのくらいかわいい仕草ができればいいのにな。
「あ、ねぇ見て、おじさんが帰って来たよ!」
サヤが急に落ち着き、向かってくるおっさんに大きく手を振った。
「おかえりー!」
「ああ、ただいま。待たせたな。」
いや別に待ってなかったけど。
「彼女は見つかったの?」
「ああ無事だったよ!ほかの女の子もだいたいね。」
そう言っておっさんはうれしそうにウィンクしてくる。
「えー、よかったね!サヤも安心。」
「ていうかさー、あの女子グループってみんな十代だったじゃん?おじさん、そんな若い子と付き合ってるのー?」
サヤはおじさんやるぅーといか言いながら肘でおっさんのお腹をつついていた。
「いや、付き合ってないよ。なんで俺が付き合ってることになってんだ?」
「え、だっておじさんが堂々と 彼女と帰るためじゃ!! とか言ってたじゃん」
サヤはモノマネつきでセリフを再現していた。ちょっと似てて面白い。
「あーあれか。彼女って、英語で言うSheの意味のつもりで言ったけど。ややこしかったな!」
うわーそれは俺でもややこしいと思うわ。
「すまないすまない。アメリカに長くいたから、英語のくせが出ちゃったね。ハハハ。」
「あ、ふーん。そう。」サヤが急に冷めた顔でつまんなそうにしてる。こいつは何を期待してたんだ?
「ところでさ、今後どうするか、決まってるか?」
おじさんは急に真剣なトーンになって聞いてきた。
「ああ、俺たちはここから立ち去って、どこか安全なところでまず落ち着きたいと思うよ。」
「そうか。じゃちょうどいいや。俺もお供させてくれ。」
えっ…
サヤだけじゃなく、お前もついてくるのかよ!何が楽しくて俺についてくるんだ??
「いや…それは、えっと。急だな。あはは。」俺はなんとかこの話を流そうと必死になっていた。
「ていうかSheの彼女はいいのかよ?」
「あー、俺といるより警察に保護してもらったほうが間違いなく安全だからな。体術じゃ銃に勝てんからな。」
おっさんはガハハと笑って見せたけど、何が面白いのかサッパリだよ。
「それに、お前さんといたら、なんか面白そうなもんが見れそうだしな!」
いや、そんなに期待をされてても。18歳の少年には荷が重いですが。
まぁでも…このメンツは少し楽しそうだしな。正直内心少しうれしかった。
「わかった。俺はルイだ。よろしくお願いします。」
「そうくっちゃ!俺はマサだ。こちらこそよろしくな!ルイくん!」
おっさんはニッと笑ってみせた。今更気づいたけど無精髭すげぇな。
「うちはサヤ!サヤちゃーんって呼んでね。」
「おう!さやちゃーん!ハイタッチだぜ!」「イェーイ!」パチッ
二人は気が合いそうだな。と、少し遠目で見ている俺だった。
「じゃみんな名前覚えたとこで、警察ってやらに話しかけられないうちにいこうぜ。」
「おう!」
俺たち3人はこうして警察の目を避けて109を離れた。
そしてこれがやがて大きな陰謀に巻き込まれる、ほんの序章に過ぎなかったことを、この時はまだ知る故もなかった。
——————109の屋上——————
黒衣の男「フッ。お前らがこれからどう出るか、楽しみにしているよ。」
渋谷109編完。次の舞台もお楽しみに!




