第八話~ハンバーグレストランにて~
時間も時間だったので、帰る途中にハンバーグレストランに立ち寄って昼食をとることにした。大きな荷物は送ってもらったものの、クッション含めて大きな袋二つ分を持っているのがちょっと恥ずかしい。
「すごい混んでますね」
「そうね。チェーン店だけどここ、美味しいもの。神楽さんも好き?」
平日お昼時とあって、待ち時間は十五分ほどだった。空いた席に二人並ぶように座ると、袋を抱えながら私は問いかける。
「いえ、初めて来たもので」
「あ、そうなんだ」
ここは全国的に有名なチェーン店で、この市内でも何カ所かある。だから初めてというのがちょっと信じられなかったけど、でもまぁまだ若いし、タイミングというものもあるだろうな。
「外食とかあまりしないほう? あー、まぁ自分で作れるならそうだよね」
「えーっと……まぁ、いろいろありまして」
苦笑しながら頬を指でなぞる神楽さんに、複雑な事情があるのかなとふと思った。まぁまだ昨日今日の関係だ、深掘りするには早いだろう。
「そっかー。ここね、ハンバーグにいろんなトッピングがされてるんだ。ハンバーグ以外にもパスタやピザなんかもあるし、サイドメニューも割と豊富だから」
「へぇー、そうなんですね。さっきから良い匂いしてるので、楽しみです」
すぐまたにこにこ顔に戻って、物珍しそうに店内を見回す神楽さんに私は隣でひっそり微笑むことしかできなかった。
荷物が多かったせいか、窓際の四人掛け用テーブルに案内された。そうして私達はチーズハンバーグ定食を注文し、一息つく。
私は外食時、窓の外を眺めるのが好きだ。行き交う人々のドラマを勝手に考えたり、空模様に思いを巡らせる。道路向こうの店舗に入る人々はどんなものを頼むのかなとも考えたりして、全く飽きることがない。
でもそれは一人の場合。今は目の前に神楽さんがいて、どこか落ち着かない感じで辺りを見回している。
「神楽さんって、好きな食べ物ってどんなの?」
「え、好きな食べ物ですか?」
驚いたように私を見るなり、すぐに斜め上を見て考え込む。顎が上がり、ちょっと口をすぼめた姿が可愛らしい。
「そうですね、いっぱいあるんですけどハンバーグはやっぱり上位ですね」
「だよね。私も。というか、ひき肉料理は全般的に好きなの」
「あ、いいですね。肉団子とかミートオムレツとかも好きです」
基本私は料理しないけど、小説で書いたりすることもあってか知識としてはそれなりにある。もちろん、食べるのも好きだけど。
「えー、作れるの? そうしたら今度、食べてみたいな」
「わかりました。明日にでも作らせていただきますね」
さっきまで不安そうだった表情はどこへやら。自分の得意分野の話になったからか、生き生きとした顔になった神楽さんを見て、私も心が軽くなる。
「あー、楽しみ。なんかご飯が楽しみなんて感覚、しばらく忘れてたかも」
「えへへ、期待を裏切らないように頑張ります」
そうこうしていると、熱々の鉄板に乗ったチーズハンバーグが運ばれてきた。湯気が立ちのぼるそれはもう、暴力的なほどに美味しい匂いを漂わせている。
「うわぁ、美味しそう」
目をキラキラと輝かせ、神楽さんが胸の前で手を合わせていた。そんな姿を見て、若者よたくさん食べるんだよと私の中で母性というか、おばさんが強く出てしまう。
「食べて食べて。私は猫舌だから、すぐには食べられないからお先にどうぞ」
「はい。じゃあ、あの、すみませんがお先にいただきます」
もう一度手を合わせ、神楽さんがさっそく添えられていた箸でハンバーグを一口大に切り分けた。そうしてその一つを持ち上げると、ふうふうと冷ます。ハンバーグからは肉汁が垂れ落ち、チーズも伸びていた。
「うわぁ、美味しい」
一口食べれば目を丸くし、信じられないといった表情で鉄板の上のハンバーグを見るその姿がもう愛おしくて、私も嬉しくなってくる。こんなに喜んでくれるなら、また連れてこよう。
「お店のハンバーグ、初めて食べたんですけど美味しいんですね。下味がちゃんとしてて、食感もフワフワで。……あ、これもしかして、お味噌入ってるのかな。だからコクあるのかなぁ」
「味噌? そうなの?」
「多分ですけど、お肉の味付けに使われていると思います。お肉自体にも少し牛脂を足していますね。へぇー、こういう作り方もあるんだ」
さすがメイド、単に美味しいってだけじゃなく味の分析をしている。それをこれからの食事に役立てるのかぁ。すごいな。
感心しつつ、目の前でぱくぱく食べ進める神楽さんに触発され、私もそろそろかなと箸で切って口に運んだ。少し熱いけど、やっぱり美味しい。しかし味噌……よくわからない。でも言われてみれば、確かにそんな気もしてくるから不思議だ。
「あー、やっぱりここのハンバーグ好きだわぁ。いつ食べても美味しい」
程よいチーズの味がハンバーグと調和して、美味しい。子どもの頃に親と一緒に外食となった時に、一番嬉しかったのがこのハンバーグレストラン。初めて食べた時からもう二十年くらい経っているけど、毎回あの時の感動を覚える。
郷愁、なのかな。
なんてことを思いながらふと神楽さんを見れば、何だか少し考え込んだ様子で食べている姿が気になった。
「ん、どうしたの? 味の研究してるの?」
「そうですね、そんなとこです」
「研究熱心なんだねぇ」
「なんか、この味を超えたくなったので」
何で対抗意識を燃やしてるんだろうか?
ともあれ、それで私の食事のクオリティが上がるのならば喜ぶべきことだろう。そんな未来を想像しつつ、でもこの味は思い出補正もあるから難しいだろうとも思っていた。




