48: 本来の高天原の最高神
挿絵はチャットGPTのAI生成画像です。
「……その管理をこれからボクがするってことだよな?」
蛍は法典の映像から一度視線を上げて月夜見を見上げると月夜見はこくりと頷いた。
「もちろん。 生と死の循環の管理や魂の転生を、いずれ蛍さんに担っていただきます。 加えて、根本的に蛍さんが理解せねばいけないのは……」
そして、月夜見は蛍が首から下げている笑福ダルマの首飾りを指先で示して言葉を続けた。
「笑福ダルマが取り込んだ——神の魂から権能を引き出すというイザナギの特殊な戦い方なのです」
「えっと、それは……」
"黄泉下り"をして神々の転生が進めば、神の権能が表の高天原に集まってできることが増えると以前、聞いてはいた。
だが、蛍自身がイザナギの権能で『他の神々の権能が使える』ようになるとは初耳だった。
「ボクはどうやって、神々の権能を扱えばいいんだ?」
蛍が真剣な表情で、月夜見を見つめると月夜見の法典の上に映し出されていた二頭身の蛍の隣に、コロンと笑福ダルマが現れる。
「そうですね。 まず勘違いしてはいけませんが、笑福ダルマの魂の保管は、あくまでも転生の準備段階。 つまり、その魂は、まだ“死の側”に置かれている状態なのです」
「………“死の側”に、」
月夜見の言葉を聞いた蛍はしばらく逡巡した後に、ゆっくりと口を開いた。
「——ということは、笑福ダルマが保管している魂を『転生』させたら"生の側"に来る……だから、イザナギは神々の権能を扱えるってことなのか?」
蛍は頭の中で情報を整理しながら月夜見に問いかけると、月夜見は満足そうに頷いた。
「えぇ。その通りです」
月夜見の言葉に反応してか、法典の上に映し出された笑福ダルマが笑って、金色の卵を吐き出した。
二頭身の蛍はそれを温めるかのように抱き抱える。
「イザナギの権能は、魂を“生へ導く”ことで初めて、その魂と権能との繋がりを得ます。 転生を終えた神々の魂、その権能へ自在に触れられる——それこそが、父上の特殊な戦い方です」
月夜見の金色の瞳が蛍をまっすぐに見据えて言った。
「我々の父神は偉大なのですよ」と付け加えた。その瞳はどこか憧れを帯びていた。
そして法典の上に映された二頭身の蛍が抱き抱えていた卵がヒビ割れると、小さな神が飛び出て誕生した。
それを見下ろして月夜見は穏やかに笑う。
「……あぁ。それと転生後に、権能を借りることが可能な状態であれば、その魂の属性である光の金か闇の青か——」
月夜見は言葉を区切ると、二頭身の蛍の周囲に飛び回る一匹の青い蝶を示した。
「このように、蛍さんの周囲に蝶々として舞うので分かりやすいかと……」
「それはとっても綺麗だな! 蝶々さんなら、ボクにも分かりやすくて、すごくありがたいな!」
青い蝶を見て目を輝かせている蛍の隣に来たタケルが法典から映し出された二頭身の蛍と青い蝶を眺める。
「アタシ、サナギは金と青の蝶々が好きなんだとばっかり思ってたわ。 ……あれは、そういう感じだったのねぇ」
タケルが思い出すかのように、しみじみと頬に手を当てて言った。
「えぇ。父上は虫も動物も人も好きですよ」
タケルの言葉に月夜見は穏やかに微笑む。
まるで、そこにイザナギがいるかのように蛍を見やると、静かに金色の瞳を伏せて言った。
「生きとし生けるもの全て、父上には好きなものしかありませんから……」
いつもの淡々と冷たい声ではなく、月夜見にしては酷く優しい声色だった。
月夜見が本当にイザナギを尊敬する父として思っている温度を感じた。
しかし、今まで静かに月夜見の話を聞いていた蓮が「虫」と言う単語を聞いてゾッと背筋を凍らせる。
「……僕、虫はやだなぁ」
小さく呟いた蓮の声が耳に届いて蛍は、きょとんと蓮を見やる。
「蓮は、蝶々さん、嫌いなのか?」
「うーん……うん。蛍の周りに飛んでるのなら許せるよ!」
蛍の問いかけになんて答えようかと視線を泳がせて、蓮は、はっきりと嫌いとは言い切れず、笑顔のまま言葉を濁した。その額には汗が浮かんでいる。
(それはつまり、ボクの周りの蝶々じゃないなら蓮は許さないんじゃ……)
流石の蛍もそう気付いてしまった。
そんな二柱のやり取りを静かに見ていた月夜見がゆっくりと口を開いた。
「ここまで説明しましたが、蛍さん。 ……残念なことに、今の蛍さんは、他の神々の権能を一つも保有していません。 なので、まずは邇邇芸命の魂を転生させることに専念してください」
月夜見の淡々と紡がれた言葉にも、蛍は元気よく頷いて、花が綻ぶように笑った。
「うん。もちろんだ! ボクも万年桜になっている二柱をなんとかしてあげたいから、がんばるな!」
「えぇ。その調子です。 やる気溢れる蛍さんに、もっとやる気の出るボードゲームをお渡ししましょう」
「……ん?」
小首を傾げる蛍の前で、月夜見は法典を開くと、その中から突如オセロの盤面を出した。
「これは人間界にあったボードゲーム『オセロ』です」
黒と白の石が並んだ盤面が浮かび上がり、盤面は瞬く間に白石に染まった。
「現状では、白さんが盤面を死の白一色に染め上げている、一方的な魂の保管になっています。 これから蛍さんは、魂の転生によって死の白石を生の黒石へ、一つ一つひっくり返していくのです」
生と死で、魂と権能の奪い合いが起きている。
月夜見は、この現状を人間界のゲームに例えて見せたのだ。
「こうして今後は、根気強く、黄泉下りで白さんが保管している神々の魂と権能を取り戻していってくださいね」
月夜見が白石にちょんと触れると、白石は次々と黒石へひっくり返っていく。
全てが黒石に染まるとオセロ盤の入れ物へ自然に帰って行った。
「今のは説明用に自動展開したものですが、こちらはどうぞ、蛍さんにお渡しします。 あとで蓮さんや安倍晴明と遊んでいただいて構いませんよ」
人間界では意外と奥が深いらしいので、と付け加えながら月夜見は、オセロ盤を片手に持つと蛍に手渡した。
「わぁ、ありがとう! すごく楽しそうだな!」
両手でオセロ盤を受け取ると蛍は喜びのあまり、ぴょんぴょん跳ねながら、オセロ盤に目を輝かせる。
「蓮、あとで、このオセロで遊ぼう!」
「うん。もちろん、良いよ! すごく楽しそうだね」
嬉しそうな蛍を、蓮は可愛いなぁとただ眺めているのは言うまでもない。
そして、蛍はオセロ盤を両手に抱えると月夜見を見上げてもう一度お礼を言った。
「ありがとう、月夜見。 ボク、邇邇芸命をちゃんと転生させたら、黄泉下りも頑張るな!」
「えぇ、頑張ってください」
素直な蛍の笑顔に月夜見も釣られて少し柔らかな笑みを浮かべた。
「出来れば僕に、秒で勝てるくらいには……」
「えぇっ、それは絶対無理だっ!!」
いつも一言、最後に付け加えられる言葉が爆弾のようだが、月夜見は至って真面目に言っている。
蛍は驚いた猫のように全身の毛を逆立てて、必死に首を左右に振って否定するが……。
「我らの父上の権能で、何故勝てないのです?」
月夜見はスンッと表情を真顔に変えた。
「父上は天秤の槍一本で戦う神ではありません。神々の権能を束ね、一つの軍勢として戦う神なのです……。僕の父上は、高天原で誰より強い神ですよ」
そう言った月夜見が何故か法典で顔を隠した。若干、耳が赤い月夜見は照れているらしい。
(……あの、月夜見が、照れてる……)
蛍が思わず翡翠の瞳を丸くして月夜見を凝視してしまった。
しかし、数秒後に、照れて顔が見せられない月夜見の代わりに、法典から勝手にスルスルと文字が浮かび上がる。
『そもそも、本来イザナギは高天原の最高神ですよ? 父上の権能で僕に勝てない時点で、正直オワタ\(^o^)/状態です、蛍さん』
そんな、愉快な顔文字付きで文章が蛍の前で、ふよふよと浮いてる。
これには流石の蛍も眉を吊り上げて月夜見に向かって猛抗議する。
「なっ! なんだ……その顔文字、ちょっとムカッとしたぞ!」
「……ふふっ、それなら応援していますよ」
そう言い残すと、月夜見の姿は法典の光とともに静かに薄れていった。
蛍は初めて月夜見の感情の籠った笑顔を見た気がして、怒りも冷めて、しばらく呆然と月夜見がいた場所を見つめてしまっていた。
月夜見さんが父上にデレました(ただし、蛍ではないです)




