45:せめて、憲法は守りましょうね
挿絵はチャットGPTのAI生成画像です。
(……猫には追いかけられるし、権能が封じられるし、本当に最悪すぎる!!)
だからと言って、猫を攻撃すると蛍が悲しむだろう。かと言って、このままと言うわけにもいかないのだ。
「——蛍っ! 猫を任せていいかな!?」
そう言って蓮は振り返って蛍を見やると、蛍が翡翠の瞳を柔らかく細めた。
「もちろんだ。 ボクが猫を引き受けるから、君が月夜見のところへ向かってくれ!」
「うん、了解!」
そして蛍は蓮と入れ替わるように先頭へ出ると、そのまま猫達を引き連れて駆けていく。
蓮が夜空へと視線を上げて、月夜見を見据える。
「権能ごと神力に蓋するとかやってくれるね——!!」
そう言って苛立ちを隠すことなく蓮が月夜見に向かって跳躍する。
その速度は音速を超えて、瞬時に月夜見の頬を拳が掠めた。
「さすが、早いですね」
「……これくらい出来なきゃ、蛍の相方にはなれないからね!」
蓮が速度を落とすことなく身体を回転して、続けて殴りかかるが、片手の法典で容易く受け止められた。
「——ちょ! 毎度、法典をそんな風に使っていいわけっ!?」
「僕にとっては、武器であり防御ですからね」
パラララっと頁を捲る手を止めて、「まぁ、これは正当防衛に当たりますね」月夜見がそう言った瞬間、蓮は見えない何かに殴り飛ばされた。
「かは——っ!」
(……いま、僕の攻撃がそのまま帰ってきた!?)
蓮が落下した先で、ドォーンッと轟音と土煙が上がる。
蛍は猫と一緒に走り続けながら、思わず土煙へ視線を向けた。
「蓮——!!大丈夫か——っ!?」
「……大丈夫っ。 月夜見がとんでもない権能ってのはよく分かった……」
蛍の声に、蓮は冷静に応えると、血を吐き捨てて立ち上がった。
そんな蓮を見つめて、それまで穏やかだった月夜見の金の瞳が静かに細められる。
「では、最後に憲法を——」
月夜見はそう言って、さらに上空へ瞬間移動した。
遥か上空に月夜見は点のように見える。その高さでは流石の蓮も跳躍が届かない。
『せめて、憲法は守りましょうね……行きますよ?』
その静かな月夜見の声だけが響いた。
そして、夜空を覆う赤黒い術式が幾重にも現れる。
『警告第一段階解除……警告第二段階解除……警告第三段階解除。これより、一時的に全ての制限を解除します……。
原初の法典解放:我はあらゆる神権を守護するために神罰を解放——裁きの執行に移ります……』
瞬間、咆哮のような雷鳴が大地を揺らし、雲一つない夜空に不気味な赤黒い稲妻が無数に走る。
赤黒い稲妻が一際強く弾けると、一つ一つが夜空で輝く歯車へと姿を変えた。
まるで星のように光る歯車が空中で噛み合っていく。
歯車が轟音とともに回転を始めると、やがて無数の歯車は巨大な天界の門を形作り上げた。
その回転に合わせて門は軋むような重い音を響かせながら開かれる。
門の奥に——太陽よりも強い光があった。
「あ……これ、なんか嫌な予感するんだけど——」
蓮と蛍が別々の場所から、同じように月夜見の術式を見上げて、ゾクッと本能が危険を察知する。
「わぁぁぁっ!! まずいっ!! 蓮……っ! あ……猫ちゃん達——!?」
蛍が思わず飛び上がる。
慌てて蓮に声をかけようとしたその時、猫達も危険を感じ取ったのか「にゃー!にゃー!!」と一斉に散らばって逃げて行く。
「流石にっ……これはまずい気がするぞっ!!」
蛍が上空に蠢く赤黒い術式を見ながら蓮に向かって走る。
『——蓮さん、蛍さん、上ばかり見てはいけませんね?』
「前も見ないと」そんな言葉ととも突如、正面に月の紋様の術式が現れる。
——ズドォン!!と空気を切り裂いて、地面を業火で溶かしながら生き物のようにうねる槍を模った赤黒い雷が飛んできた。
「うわぁぁ!? 急に規模が大き——っぐっぅ!!」
重く放たれたソレを蛍は天秤の槍で受け止める。
その瞬間、槍を握る手から身体へと、焼けるような激痛が走った。
そう、イザナギの神力をまとい受け止めた蛍だが、その赤黒い槍の威力は周囲の何もかもを吹き飛ばし、焼き尽くさんとする神罰そのものだった。
そして、まともに受け止めた蛍の天秤の槍を持つ手は、腕まで焼けて、骨が見えていた。
「——ぅあああああっ!」
しかし、生命の権能は蛍にも作用する。
蛍は痛みと恐怖に歯を食い縛り、涙を流しながらも白銀に輝き続け——自己再生を繰り返して、そこに立ち続けていたのだ。
その白銀の輝きの眩しさに月夜見は金色の瞳を細める。
「……えぇ。それでこそ、イザナギの権能を持つ器」
「——蛍っ!!」
蓮が蛍の元へ向かおうと駆け出して、その前を塞ぐようにフワッと月夜見が降り立った。
「蓮さん、いけませんよ」
「あのさぁっ! 月夜見っ……ちょっとは手加減しなよっ!? 蛍を泣かせてるの、いい加減頭に来てるんだけど!!」
蛍を傷付けられた怒りに蓮は額に青筋を浮かべて、もはや笑う余裕すらなかった。
「……なんなら、その澄ました顔面、今すぐ吹き飛ばしてあげようか」
そう言って蓮は月夜見を睨みつけた。だが、その額には汗が滲んでいた。
「いいえ。 手加減なんて生温い……」
月夜見は、それでも金色の瞳を伏せて、再び法典を広げた。
「国家には、権力と制限が必要ですので、このまま厳しめで行きます」
「……ここで君が一番危険な権力側だってば、帝釈天の槍とかふざけんなっ!! 君も権能に制限かけてしまえ——っ!!」
言葉荒く言い捨てる蓮。
そう権能を制限されている蓮は心底腹を立ててもいた。
権能がない、神力もない蓮は、なんと無力なことか。
これならば、この仮説世界で蛍の盾となって死んだ方がマシではないかとすら思う。
ギリッと歯噛みをして蓮はまっすぐ月夜見を見据えた。
『……えぇ、そうです。権力は危険なんですよ、蓮さん』
妖しく笑った月夜見の背後に、巨大な月の紋様の術式が虹色に輝くと神獣カイチが三体一斉に出てくる。
『これは、法典が導き出した“天界の裁きの対象”です。つまり——ここに現れているのは、貴方が背負う罪と罰……そのものなのです』
巨大な犬のような一角の神獣が、白銀の雷を身体に走らせながらゆっくりと現れる。
蓮の身体は、その姿を知っていた。その生き物がどれほど恐ろしいのかを——奇跡の体現であるその力を。
「……それっ、まさか……神獣カイチっ!?」
グォォォォッと世界が轟くほどの揺れが起こる。
否——神獣カイチ三体が一斉に咆哮を上げたのだ。
ただ、それだけで、神威による破壊の衝撃波が放たれて、周囲数キロに渡って何もなくなる。
蓮の身体も着物も切り裂かれ、立っていることすらやっとだった。
「……待ってよ……僕、こんなのを……三体も相手にしたの……?」
蛍から与えられた生命の加護だけで、そこにやっとの思いで立っている。
そんな蓮に、弾丸のように突進してきた神獣カイチの角が蓮の背中を、肩を、足をそれぞれ貫通する。
「カハッ——!!」
蓮が血を吐いて倒れる。三体の神獣カイチはさらに牙を剥き出しにして蓮の身体に噛み付いた。
血飛沫が上がる、その瞬間、「やめるんだ、君達っ!!」と蛍が天秤の槍を物理的に投げ飛ばした。
「蓮……っ!! はぁっ……蓮っ!!」
神罰に焼かれて、身体が思うように動かない蛍が叫びながら蓮に駆け寄った。
「……れ、んっ」
蛍が恐る恐る抱き起こした蓮は、浅く呼吸を続けていた。幸いにも蛍の生命の加護が蓮を生かしているのだ。
(……良かった、まだ生きている)
蛍がギュッと蓮の身体を抱き締める。だが、安堵している暇などなかった。
すぐそばには、グルルルッと低く喉を鳴らしながら神獣カイチが三体もいる。
急にシリアスになる月夜見さん




