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蒼蓮の天秤 〜神なる君と紡ぐ恋物語〜  作者: 花房 燈
第二章 桜花の国の万年桜
44/60

44:えっ、民法って、なんだ!?


 


(……できる限り多く広げて、蓮の権能を上回る神気を——)



 通常の神であれば黄泉の穢れや死に至る傷から守る——不死の加護に等しい。

 だが、蓮の侵食の権能は、蛍の加護を吸収し続けてしまうため、蓮の侵食を上回る生命の加護を蛍は持続的に展開する。



「受け取ってくれ、蓮……」



 蛍から広がった眩い白銀が蓮を包み込む。



「……うん。 ありがとう、蛍」



 白銀に染まった蒼をその身に灯し、蓮は猟奇的な笑みを浮かべた。



「ふふっ、僕はいつでも構わないよ、月夜見」



 月明かりに照らされた蓮の蒼い瞳に、月夜見がピクリと反応する。



「……えぇ。では、いきますよ」



「——よ、よし! 受けて立つ!」



 蛍は恐怖や迷いをブンッ!と振り払うと、天秤の槍を構えた。

 まだ、突きとか槍を振り回すしか出来ないけど、イザナギの神力を叩き込むくらいは出来る。蛍は翡翠の瞳をまっすぐ月夜見に向けた。



「まずは、民法から始めましょう」



 そう静かに言った月夜見が法典を抱えて、瞬間移動する。



「……えっ、民法って、なんだ!?」



 そう聞き慣れない単語を聞き返した蛍の前に、月夜見が現れた刹那——ゴォン!!と鈍い音と共に蛍の頭に分厚い法典の角が直撃した。 



「痛ぁっ!! ううぅ……」



 蛍は涙目で頭からピューと血を出しながら、その場にしゃがみ込んだ。



「ぇ……蛍っ!? ちょっ、これはっ、どっ鈍器——いや、本っ!?」



 蓮は蛍を心配そうに見やりながらも、間一髪で法典を躱した。

 そう蓮の目の前にいる月夜見は、ただ自分が持っている法典を勢いよく振り回しているだけである。



「これが民法です」



 そう真顔で月夜見が言った。



「ちょっ、待って!? 今、殴りかかってる、それっ——いつも持ってる法典だよねっ!?」



 瞬間的に現れては消える月夜見の攻撃を躱しながら蓮が驚いた顔で問いかける。

 それに対して月夜見は至極、冷静に答えた。

 


「えぇ、何か問題でも?」



「いや、問題しかないでしょ!! 法典の角で殴るとか——っ!!」



 蓮が言い終えると、勢いよく地面に両手を付いて身体を回転させながら月夜見の法典に向かって回転蹴りを叩き込む。

 蓮の足が触れた法典の表紙が蒼く侵食される。

 次の瞬間、それは蒼の花弁となって、蓮の身体へ吸い込まれた。

 


「これで、その厄介な本も終わりだね……」


 

 しかし、月夜見は蓮を静かに見下ろすと——人差し指を口元に当てる。



「民法は基礎ですので、まずは基本で殴ります。 ……あと、蓮さん。権利濫用はいけませんよ。それを返していただきます」



「なっ!?」



 淡々と言って蓮の足元に月の紋様の術式が浮かぶ。

 瞬く間に、蓮の身体が金の光に包まれる。



 その金色の光とともに、蓮から『法』の権能が引き剥がされる。

 蓮から飛び出てきた法典は、吸い寄せられるように月夜見の手の内に飛んで帰っていく。



 月夜見が左手に法典を納め、フワリと微笑んだ。その稀に見る楽しげな笑顔が美しく妖しい。



「さて、次はもっと難しくなりますよ」



 右手を空へと振りかぶると、空に月の紋様が次々と現れて、そこから大量の巨大な(かぶ)が雨のように降って来る。


 しかも、その落下威力は、隕石の如く、崩れた都の建物や地面を容易く抉っていく。



「ちょぉ——(かぶ)っ!?」



 あまりの攻撃範囲の広さに、蓮は絶句した。



「わわわっ——かぶ、だ!!」



 蛍と蓮が頭上から降り注ぐ、巨大な蕪を避けながら壊れた月の都を駆け抜ける。

 そんな2柱(ふたり)を上空から眺めながら月夜見は涼しげな顔で微笑んだ。



「こちらが商法です」



「もう物理攻撃じゃん!!勘弁してよ!!」



「あれはっ……物理という名の隕石(かぶ)だぞっ!?」



「えぇ、僕が(かぶ)、好きなので。 株式の話とは別の蕪を持ってきているのです」



 そう言って金色の蕪の上に降り立った月夜見が、嬉しそうに金の蕪を撫でている。



「「個神的(こじんてき)な意見すぎる!!」」



 蓮と蛍が攻撃を避けながら猛抗議していると、まるで本屋で品定めをしているかのように月夜見が法典を……ぺらり、と次の頁を捲る。



「なるほど。 基礎は退屈ですか、仕方がありませんね。 では、次は刑法を……いえ、順番に民事訴訟法にしましょう」

 


「なんか、ちょっと嫌そうなのなんで……っ!?」



 蓮が月夜見の歯切れの悪い言い方に、思わず問いかけた。



「えぇ、実は……」



 そう困り顔で月夜見が言葉を区切ると、幾重もの月の紋様の術式が月夜見の背後に展開される。



「使い勝手が面倒なんですよね、これ」



「知らないよそんな事情!!」



 蓮が勢いよく突っ込みを入れると、月夜見の術式の中から、大量の紙の束が飛んできた。

 その増殖し続ける紙の束が、一枚一枚解けると、蛍と蓮の前でさらに「反論を述べよ」「提出期限」と文字が浮かび上がる。

 そして提出期限が過ぎたものはドカーンと次々と爆発する。



「わっ……待って待って、待って!? 急に攻撃がややこしいっ!!」



「……なななっ、なんだこれ!?」



 挙句の果てには紙の中から、猫の大群が延々と飛び出てくる。



「……ちょっ!! 何この猫達っ!?」



「その猫は証人です。 傷付けると証拠隠滅になりますのでご注意を」



「はぁ——嘘でしょう!?」



 にゃー!にゃー!にゃー!と蓮が猫の大群に追いかけられる。

 そして、蓮が猫に追いかけられている後から蛍も「蓮っ!猫ちゃんはさすがに、攻撃できないっ!」と眉をハの字に下げて追いかける。



「えぇ、何事も手順は大切ですからね——ここ、間違えてはいけませんよ?」



「いやっ、これっ、何の手続きしてるのっ!!」



「えぇ、それは大変難しい問題ですね」



「おい!!法の神ぃぃぃっ!!!」



 蓮は猫に追われながら全力で壊れた月の都を駆け抜ける。

 その後には蛍が続いて走っているが、蓮がとうとう痺れを切らした。



「とりあえず、この紙の束だけでも、何とかしないと……っ!!」



 蓮が飛んできた紙の束をまとめて蒼い神気をまとって消し去った、その瞬間だった。

 法典を捲りながら、月夜見が静かに告げる。



「あぁ、いけません。 蓮さんは適正手続違反として権能を一時停止させていただきます」



「はぁっ!? 急に……なに!?」



「蓮さんの権能自体は否定しません。ですが、手続を無視していい理由にはなりません……」



 夜空に浮かぶ月夜見は蓮へ向けて静かに手を翳すと、パッと月の紋様が浮かび上がり、蓮は神力を——否、権能を制限された。



「……っ!?」



 蓮が走りながら蒼い瞳を見開いた。

 そう、今の蓮から蒼い神力は権能ごと蓋をされていた。

 残っているのは蛍の白銀の生命の加護だけだ。



「……あー!!もぅ!! めちゃくちゃだっ!!」



 そして蓮は今の状況に苛立ちを隠せなくなって、思わず声を上げてしまった。




月夜見の法律戦始まりました。(ギャグです)

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