表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/60

4: 白髪の綺麗な少年

挿絵はチャットGPTのAI生成画像です。




(……ご主人様はボクのこと嫌いな訳じゃない。 だから、頑張ってたら、いつか、きっとボクのことを認めてくれるはずだ……!)



 蛍は「うん」と小さく頷き、少しだけ自己肯定感を取り戻す。

 自信を取り戻した蛍の瞳に、ようやく光が戻った。



「晴明は、ボクがいらないわけじゃなくて……ボクに、好きに生きてほしいんだな?」



「その通りや」



 安倍晴明は静かに頷いた。

 まだ『自由』や『好きに生きる』を蛍はよく分かっていない。けれど、まずは安倍晴明の望みを叶えたい。


 そうすれば、いつか自分を認めてもらえる気がした。



(……だって、ボクは晴明の人工神なんだ。だから、晴明に「ボクが必要だ」って思ってほしい……)



 蛍は焦がれるように、大きな翡翠の瞳をキラキラさせながら安倍晴明を見上げる。

 


「わかった! なら、好きに過ごしてみる! 頑張るぞ!」



 蛍は気合いを入れて棺から立ち上がった。



「そうか」



 そんな蛍の姿に小さく笑った安倍晴明は、蛍に手を差し出す。



「蛍に屋敷の中を案内するさかい、俺に付いておいでや」



「うん!」



 蛍は安倍晴明の手を取ると、そのまま歩き出した。


 安倍晴明の大きく温かな手と小さな自分の手を繋いで、蛍は広い屋敷を見て回る。



 風に揺れる色とりどりの草花。廊下を照らす朱色の灯り。涼しげな庭園に流れる水の音。

 それは生まれて初めて見る景色や音で、全部がキラキラと輝いて見えた。




挿絵(By みてみん)




 高天原(たかまがはら)——それが神々の住まう天空の世界。



 七つに分かれた国の一つ、千本鳥居と赤提灯が揺れる朱色の国——四番目(よんばんこく)(せん)の国に安倍晴明の屋敷は存在している。



 城下町の外れにある安倍晴明の屋敷は、元々、千の国の主神(しゅじん)の隠れ家として造られたものらしい。

 そのため、一つの屋敷とは思えないほど広かった。



「すごい広い屋敷なんだな、まるでお城みたいだ」



 屋敷の荘厳な造りに感動のあまり蛍が声を漏らす。



「せやな。とりあえず適当に屋敷を任されてもうて、俺もこの屋敷の全部は把握してへんな。 それに、普段、管理してはる式神のミケの方が屋敷のことは詳しいと思うで……」



 そう言いながらも、安倍晴明は蛍の歩調に合わせて、屋敷を一緒に見て回ってくれていた。

 食堂、風呂場、客間、書庫、庭園——そして、蛍の部屋。


 丁寧に案内してくれるその姿に、蛍は自然と頬を緩める。


 

(……やっぱり、晴明は優しいな)

 


 胸の奥がじんわりと温かくなって、気付けば顔が綻んでいた。



「……蛍?」



 不意に声を掛けられて、蛍がハッと顔を上げる。



「……なんや、ニコニコして、ご機嫌さんやな。 自分の部屋がそんなに気に入ってくれたんか?」

  


「えっ、そんなニコニコしてたのか、ボクっ!?」



「せやな」



 安倍晴明に即答されて、蛍はかぁぁぁっと頬を赤らめて思わず下を向いた。

 嬉しいという感情が、どうしても、すぐ顔に出てしまうのだ。

 そんな蛍の様子を体調不良とでも勘違いしたのか、安倍晴明は蛍の顔を心配そうに覗き込んで言った。



「顔……赤いな。 急に、たくさん動いたさかい熱でも出たんか?」



「ち、違うっ! すごく元気だっ!」

 


「そ、そうか……」



 食い気味な蛍の答えに安倍晴明が肩を揺らして驚いた。



「やけど、休みたかったら言ってくれてええからな?」



「ううん、嬉しかっただけなんだっ! ……あっ——」



 しまった、また本音が……。と蛍は、安倍晴明と会話するだけで好意がダダ漏れになってしまう。

 アワアワと言い訳を探していると、ふと窓から見える庭園の奥に、離れの屋敷があることに気付いて、蛍はその部屋を指差す。



「そ、そう言えばっ……ここから見える、あの部屋は一体なんなんだ?」



 なんとか、蛍なりに話を逸らしてみたつもりだった。



「あぁ、あそこはな……今、禍ツ神に襲われて重症を負った稲荷神さんが使うてはる」



 確かにこの部屋から見えるな、と安倍晴明は離れの屋敷に視線を向ける。

 思い付きで聞いてしまったが、まさか怪我人が住んでいるとは思わず、蛍は心配になってくる。



 ——禍ツ神(まがつかみ)といえば、堕ちた神々の姿だ。

 かつて人々を守っていた神性は、穢れを纏う災厄へと変わり果て、理性すら失っている。

 


 そんな存在に襲われたとなると、生きていること自体が奇跡なのではないだろうか。



「禍ツ神に襲われたって、怪我の具合とか、大丈夫なのか?」



「蛍が心配なら、あそこに行ってみるか? 一応、咲耶(さくや)に診てもらって、傷は塞いでもろうたから心配あらへんしな」



「お邪魔にならないなら、ご挨拶に……」



「残念ながら、当の本人は寝てはるけどな」



 蛍の言葉をスパッと遮って言うと、安倍晴明が先を歩いて行ってしまった。

 寝てるのに良いのだろうかと、蛍は不安になりながらも安倍晴明の後を慌てて追った。



「……着いたで、ここや」



 蛍の部屋から離れの屋敷は近く、あっという間に着いてしまう。

 扉を開けて中に入ると、開いた襖から布団に横たわる白髪の綺麗な少年の姿が見えた。




挿絵(By みてみん)




 しかし、着物から見えるほど首元や手首にまで包帯が巻かれているのが、嫌でも視界に飛び込んでくる。


 蛍は足音を立てないように少年の側に座ると、少年の冷たい手に触れた。

 そのあどけない寝顔は、蛍とそう歳は変わらないように見える。



「こんなに、たくさん包帯を巻いてるなんて、どれほど痛かっただろう……」



 そして蛍は柔らかくその手を握り締めて、眠り続ける少年を悲しげに見つめた。

 そんな蛍の肩にポンと大きな手が乗せられる。



「蛍、大丈夫や。 咲耶が治療した傷やから必ず治る。 あとは、目覚めるのを待てばいい……」



 そう言って安倍晴明は蛍の隣に腰を下ろした。




安倍晴明のお屋敷が広過ぎて散歩コースがもはやトレーニングレベル。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ