4: 白髪の綺麗な少年
挿絵はチャットGPTのAI生成画像です。
(……ご主人様はボクのこと嫌いな訳じゃない。 だから、頑張ってたら、いつか、きっとボクのことを認めてくれるはずだ……!)
蛍は「うん」と小さく頷き、少しだけ自己肯定感を取り戻す。
自信を取り戻した蛍の瞳に、ようやく光が戻った。
「晴明は、ボクがいらないわけじゃなくて……ボクに、好きに生きてほしいんだな?」
「その通りや」
安倍晴明は静かに頷いた。
まだ『自由』や『好きに生きる』を蛍はよく分かっていない。けれど、まずは安倍晴明の望みを叶えたい。
そうすれば、いつか自分を認めてもらえる気がした。
(……だって、ボクは晴明の人工神なんだ。だから、晴明に「ボクが必要だ」って思ってほしい……)
蛍は焦がれるように、大きな翡翠の瞳をキラキラさせながら安倍晴明を見上げる。
「わかった! なら、好きに過ごしてみる! 頑張るぞ!」
蛍は気合いを入れて棺から立ち上がった。
「そうか」
そんな蛍の姿に小さく笑った安倍晴明は、蛍に手を差し出す。
「蛍に屋敷の中を案内するさかい、俺に付いておいでや」
「うん!」
蛍は安倍晴明の手を取ると、そのまま歩き出した。
安倍晴明の大きく温かな手と小さな自分の手を繋いで、蛍は広い屋敷を見て回る。
風に揺れる色とりどりの草花。廊下を照らす朱色の灯り。涼しげな庭園に流れる水の音。
それは生まれて初めて見る景色や音で、全部がキラキラと輝いて見えた。
高天原——それが神々の住まう天空の世界。
七つに分かれた国の一つ、千本鳥居と赤提灯が揺れる朱色の国——四番目の千の国に安倍晴明の屋敷は存在している。
城下町の外れにある安倍晴明の屋敷は、元々、千の国の主神の隠れ家として造られたものらしい。
そのため、一つの屋敷とは思えないほど広かった。
「すごい広い屋敷なんだな、まるでお城みたいだ」
屋敷の荘厳な造りに感動のあまり蛍が声を漏らす。
「せやな。とりあえず適当に屋敷を任されてもうて、俺もこの屋敷の全部は把握してへんな。 それに、普段、管理してはる式神のミケの方が屋敷のことは詳しいと思うで……」
そう言いながらも、安倍晴明は蛍の歩調に合わせて、屋敷を一緒に見て回ってくれていた。
食堂、風呂場、客間、書庫、庭園——そして、蛍の部屋。
丁寧に案内してくれるその姿に、蛍は自然と頬を緩める。
(……やっぱり、晴明は優しいな)
胸の奥がじんわりと温かくなって、気付けば顔が綻んでいた。
「……蛍?」
不意に声を掛けられて、蛍がハッと顔を上げる。
「……なんや、ニコニコして、ご機嫌さんやな。 自分の部屋がそんなに気に入ってくれたんか?」
「えっ、そんなニコニコしてたのか、ボクっ!?」
「せやな」
安倍晴明に即答されて、蛍はかぁぁぁっと頬を赤らめて思わず下を向いた。
嬉しいという感情が、どうしても、すぐ顔に出てしまうのだ。
そんな蛍の様子を体調不良とでも勘違いしたのか、安倍晴明は蛍の顔を心配そうに覗き込んで言った。
「顔……赤いな。 急に、たくさん動いたさかい熱でも出たんか?」
「ち、違うっ! すごく元気だっ!」
「そ、そうか……」
食い気味な蛍の答えに安倍晴明が肩を揺らして驚いた。
「やけど、休みたかったら言ってくれてええからな?」
「ううん、嬉しかっただけなんだっ! ……あっ——」
しまった、また本音が……。と蛍は、安倍晴明と会話するだけで好意がダダ漏れになってしまう。
アワアワと言い訳を探していると、ふと窓から見える庭園の奥に、離れの屋敷があることに気付いて、蛍はその部屋を指差す。
「そ、そう言えばっ……ここから見える、あの部屋は一体なんなんだ?」
なんとか、蛍なりに話を逸らしてみたつもりだった。
「あぁ、あそこはな……今、禍ツ神に襲われて重症を負った稲荷神さんが使うてはる」
確かにこの部屋から見えるな、と安倍晴明は離れの屋敷に視線を向ける。
思い付きで聞いてしまったが、まさか怪我人が住んでいるとは思わず、蛍は心配になってくる。
——禍ツ神といえば、堕ちた神々の姿だ。
かつて人々を守っていた神性は、穢れを纏う災厄へと変わり果て、理性すら失っている。
そんな存在に襲われたとなると、生きていること自体が奇跡なのではないだろうか。
「禍ツ神に襲われたって、怪我の具合とか、大丈夫なのか?」
「蛍が心配なら、あそこに行ってみるか? 一応、咲耶に診てもらって、傷は塞いでもろうたから心配あらへんしな」
「お邪魔にならないなら、ご挨拶に……」
「残念ながら、当の本人は寝てはるけどな」
蛍の言葉をスパッと遮って言うと、安倍晴明が先を歩いて行ってしまった。
寝てるのに良いのだろうかと、蛍は不安になりながらも安倍晴明の後を慌てて追った。
「……着いたで、ここや」
蛍の部屋から離れの屋敷は近く、あっという間に着いてしまう。
扉を開けて中に入ると、開いた襖から布団に横たわる白髪の綺麗な少年の姿が見えた。
しかし、着物から見えるほど首元や手首にまで包帯が巻かれているのが、嫌でも視界に飛び込んでくる。
蛍は足音を立てないように少年の側に座ると、少年の冷たい手に触れた。
そのあどけない寝顔は、蛍とそう歳は変わらないように見える。
「こんなに、たくさん包帯を巻いてるなんて、どれほど痛かっただろう……」
そして蛍は柔らかくその手を握り締めて、眠り続ける少年を悲しげに見つめた。
そんな蛍の肩にポンと大きな手が乗せられる。
「蛍、大丈夫や。 咲耶が治療した傷やから必ず治る。 あとは、目覚めるのを待てばいい……」
そう言って安倍晴明は蛍の隣に腰を下ろした。
安倍晴明のお屋敷が広過ぎて散歩コースがもはやトレーニングレベル。




