32:蒼蓮の天秤
挿絵画像はチャットGPTによるAI生成画像です。
「まずは、旅立ちを祝おう——。
君が好きな『四季の花』を一つ持って行くといいさ」
東が朱色の番傘を空へと広げる。
すると、色とりどりの花々が宙へ舞い上がった。
優雅に花弁が舞いながら、蛍の周りで踊るかのように、回ったり、宙で浮いたまま止まったりしている。
その花々は……蒼い蓮は悲しみに濡れ、
桔梗は静かに咲き、桜は喜びに咲き誇る。
向日葵は陽光を弾き、梅は優しく春を待つ。
瑠璃唐草は青の大地を描き、桃は最果ての楽園へと誘っていた。
その中で——。
蛍の視線は、自然と一輪の花へ吸い寄せられていた。
(……見たこともない、蒼い蓮だ。 すごく綺麗……)
そっと、蛍が、蒼い蓮に触れた瞬間。
——脳裏に浮かんだのは、優しく笑う"蓮"の顔だった。
「なんと!なんと! ……それかい?」
東は蛍が花を受け取ると、驚きながらも嬉しそうに赤い眼を細めて、大きく笑う。
「——いやはやぁ! これは、もはや運命かな! あっはははははははっ!」
まるで、一つの物語の結末を知っているかのように。
東が宙へ手をかざすと、水面に花を散らし転がっていた朱色の番傘が、フワリと浮いて、その手に返ってくる。
「では、この私は……。
いま、君が手にした運命の縁を、しかと、見届けよう——!」
そして、番傘をくるりと回し、東の姿は空間へ溶けるように消えていった。
「……えっ? 東、一体、何しにきたんだろう……」
手にした蒼い蓮を見下ろすと。
「……えっ!?」
ハラハラと蒼い花びらが溢れ始め——せっかく、東にもらったばかりの花が呆気なくも、散ってしまう。
花びらは風に乗るように舞い上がり、“正義の天秤”へと導くように流れていく。
「お花さんっ!」
蛍が花弁を追いかけた先。
蒼い花びらは、銀色の天秤の皿へ静かに舞い落ちた。
まるで——これを持て、と告げるように。
それは、イザナギの権能を守る、正義の天秤だ。
「これを、持てばいいのか?」
蛍が恐る恐る手を伸ばす。
その天秤は、神聖さを感じさせつつも、悲しげに淡く光っている。
そっと指先が触れた瞬間——白銀の光が、空間を埋め尽くした。
「眩し……、何が起こって……」
光の中で、天秤が形を変えていく。
それはやがて、“天秤の付いた白銀の槍”へと姿を変えた。
——天秤の槍は静かに、水面へ降り立つ。
水面を静かに揺らしながら、まるで蛍に手に取られる瞬間を待っているかのようだった。
「……槍だなんて、聞いてないぞ。——これが、本来の正義の天秤の姿なのか?」
あるいは、高天原の現状に相応しい姿になってしまったのだろうか。
蛍には分からないが、蛍を待っているような天秤の槍の柄を両手で持つと、蛍の身体を眩い光が包み込んだ。
"………天へ至し善良なる汝の魂で善悪を測らん……"
——たった、その一言が蛍に聞こえた。
「……これが、イザナギの生命の権能」
ポツリと呟いた、その瞬間——。
蛍の翡翠の瞳が、一瞬だけ金色へ染まった。
それ以外に、目立った異変は何も起こらなかった。
もちろん、蛍自身は何の変化にも気付いていない。
ただ——身体の奥に、自分の"生命"より重たい“何か”が埋め込まれたような感覚を、確かに感じていた。
伝説の剣が抜けましたので、これから冒険が始まります。




