25: 射的?それはまさしく電磁砲
「——さて、ご飯の後は少し運動しましょうね?」
そして、建御雷神に連れて来られたのは黄金の街の通りの一角にある出店。
木製の棚に、菓子や玩具、神具を模した小物が色々並んでいる。
「これは射的よ」
「しゃてき?」
初めて聞いた単語に、蛍は小首を傾げる。
「そう、的を撃って景品を落とす遊びなの。そこで、見ててご覧なさい」
建御雷神は店先に置かれていた銃を手に取ると、真剣な顔で構える。
その時、並んで見ていた蛍と蓮の肩に、安倍晴明が手をかけて声を低くして言った。
「蛍、蓮……もう少し下りや」
「え、なんで?」
「もうすぐ分かるで」
そう安倍晴明が視線を上げると、建御雷神を見やる。
「……まさか」蓮がハッと気付いて、思わず蛍を庇うように抱きしめるが時すでに遅く——。
蛍だけが、訳がわからないまま「蓮?」と小首を傾げていた。
「アタシ、こういうの好きなのよねぇ……」
そう妖しく微笑んだ建御雷神の身体から、バチバチバチと激しく放電が始まる。
引き金を引いた瞬間——ドゴォンッ!!その弾丸は全てを打ち抜いた。
——周囲を巻き込んで撃ち抜く、それはまさしく電磁砲。
「……あら? 景品って、落とすものじゃなくて吹き飛ばすものだったかしら?」
土煙を上げて、目の前から無くなった店に、建御雷神が困ったように首を傾げる。
「ひゃぁぁっ! 景品がっ、店ごと吹き飛んだっ!?」
蛍は驚き過ぎて声が裏返った。
「……ちょ、お店どころか家までぶち抜かれてるんだけど!?」
そう大きく声を上げながら、蓮は目を点にしている。
目の前で、景品どころか店そのものが吹き飛んだ。
しかも撃ち抜かれた先では、数軒どころではない建物がまとめて倒壊している。
——それは当然の反応だった。
「やから、言うたやろ……」
安倍晴明は呆れ顔で、静かに防御術式を解いた。
数秒前に見えた未来予知から察して、防御術式で蛍と蓮、ついでに店主が巻き込まれないように守っていたのだ。
「大変だ、蓮……直さないとっ!」
「もう色々遅くないかな!?店主、固まってるし!!」
蛍達が慌てる横で、壊された店の店主が呆然としている。
——カーンカーン!カーンカーン!。
突如、天津の国の建物が破壊されたことを知らせる警報が鳴り響く。
千の国から呼び出された豊穣を司る稲荷神達が、大わらわで集まり、その権能で——出店と建物を"再現"していた。
さすが破壊に慣れた高天原。あっという間に元の姿を取り戻す。
それを見届けて、建御雷神は失態を誤魔化すかのように、わざとらしく笑んだ。
「——さっ、気を取り直して次はお茶でもどうかしら?」
「全部、建御雷神のせいだけどね。本当に、死者が出なくてよかったね……」
蓮がジトっと呆れ顔で建御雷神を見ていた。
「もう蓮ちゃんってば、そんなに意地悪言わないでちょうだい! お詫びにお茶はアタシが奢ってあげるわよ」
「……まぁ、それならいっか。蛍が怪我してないから」
そう言いながら、蓮は気を取り直すような笑顔で、蛍に振り返って手を伸ばす。
「建御雷神が奢ってくれるって! ——行こう、蛍」
「うん」
手を取り合った蛍と蓮は、建御雷神の後をついて歩き出した。
その後ろを、安倍晴明がゆったりとついていく。
そして、朱色の大きな番傘が日除けで置かれている席が幾つかあるお茶屋にたどり着く。
そこで名物の赤福という餡子の甘味を食べることになったのだが、安倍晴明の前にはすでに空箱が積み上がっている。
「……晴明ちゃん、それ何箱目?」
「いちいち、数えてへんな」
「絶対甘いもの好きでしょ、意外だわ」
素っ気ない安倍晴明の返答に、建御雷神がカラカラと笑った。
店に到着してから安倍晴明は意外と甘味が好きなのか、ひたすら甘味を食べている。
一方、蛍と蓮は注文票を二柱で覗き込みながら何を頼もうかと悩んでいた。
「蛍は飲み物どうする?」
「お茶以外に何かあるのか?」
「……コーヒー、カフェラテ、メロンソーダ、紅茶、レモンスカッシュ……なんだろう、沢山あるね」
「横文字が多いな」
全く想像が出来ないとばかりに二柱は首を傾げていた。
そんな二柱を微笑ましそうに見ていた建御雷神が柔らかな笑みを浮かべて言った。
「朝陽は人間の文化が好きなのよ。それが天津の国に反映されて、神々も受け入れているわ」
「……すごいな、千の国と全然違う」
高天原でも国によって文化が違うのかと蛍は目を輝かせる。
「千の国は豊穣を司る宇迦之御霊大神が主神だから、国の在り方も違うわ。それに千の国は、初代からほとんど姿を変えていないから——ある意味、時代錯誤ね」
「……晴明、僕たちの住んでる国は古いって言われてるよ」
「それをお前さんが言うのか、感慨深いな」
蓮の言葉に、淡々と答えた安倍晴明は相変わらず小さな赤福を口へ運んでいる。
建御雷神はそんな二人のやり取りを見て肩を揺らして笑っていた。
「えー、そんなこと言われても……僕は変わることも変わらないことも、どちらでもいい派だし。蛍はどう思う?」
「ボク?」
まさか質問がこちらに飛んでくるとは思っていなかった。
蛍は翡翠色の瞳を瞬きながら、しばらく考える。
(変わることも大切だと思う。変わらなくてはいけない時も……きっとあるから)
実際に、蛍は安倍晴明を主として思うことから変わらなくてはいけなかった。
(でも、変わらないことが必要な時がある……。ううん、変わらないでいて欲しいものがあるんだ。だから、何が一番良いのかなんて、とても難しい)
蛍はそっと蓮を見やる。
蛍は蓮に変わらずに、自分のそばにいて欲しいと思うから。
だから、どちらを選ぶべきなのかなんて分からない。
「うん。僕は蛍の答えが聞きたいな……」
翡翠と蒼の瞳が重なる。どこまでも優しい空みたいに澄んだ蒼の瞳が柔らかく細まる。
どんな答えでもいいと。
だから、蛍は、その時の最善の選択をしたいと静かに決める。
「……ボクは、"みんなが幸せになる方がいいな"」
「そっか、それは……とても蛍らしい答えだね!」
蓮は何故か、満足そうな顔で笑った。
柔らかな風が何処からか蒼い花弁を運んで通り過ぎていった。
稲荷神の権能が、チラッと出ましたね。




