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蒼蓮の天秤 〜神なる君と紡ぐ恋物語〜  作者: 花房 燈
第一章 天津の国への招集
24/60

24: 黄金の街の名所——目潰しの鳥居。





「そうやろな、お前さんは、殺す理由さえ出来れば俺達を殺したい側やろうからな」



「……うふっ、()()()が悪いわよ? アタシは強い神と、ただ殺し合いたいだけ——うふふふっ」



 酒池肉林という四文字熟語を、背後に掲げていそうな狂気的な笑みを浮かべる建御雷神に、蓮はさっと蛍の視界を両手で覆い隠した。



「……何あれ、怖っ! 蛍、絶対関わっちゃダメだよ」



「でも……建御雷神も一緒に来るんだろう? 天津の国の観光」



「やだーっ!!」



 蓮は露骨に嫌そうな顔で叫ぶ。


 嘘泣きをしながら、ここぞとばかりに蛍に抱き付いて頬擦りをする蓮に、蛍が半目になって「泣かない」と、よしよし頭を撫でる。



 すると建御雷神が、まるでわがままを言う子供を諌める母親のような顔で、蓮を覗き込んだ。



「そんなこと言わないで頂戴な、白ちゃん——今は、白じゃないのかしら?」



「……(れん)だよ、稲荷神の蓮」 



 蓮がスンッと真顔になる。  



「なんで、いちいち名前間違えるのかなぁ……」

 


 蓮がぼやくと建御雷神は、意味深に妖しく笑った。



「うふっ、そう素敵な名前ね——なら蓮ちゃん。お詫びに、アタシが貴方を楽しませてあげるわよ」



「へぇ、見るからに怪しいのに? 君が観光案内してくれるんだ」



「アタシ、こう見えて仕事は完璧なのよ。黙って、ついてらっしゃい」 



「……うわぁ、問答無用じゃんか」



 蓮は不服そうに唇を尖らせる。

 半強引に、建御雷神に黄金の街を案内されることになった。



 黄金の街の青い空に、煌々と輝く太陽と淡く静かな白い月。

 空から、キラキラと輝く、光の粒子が降り注ぐなか。



 神々の笑い声と、鈴の音が響きわたる。


 どこからともなく吹き抜ける風が四季の色とりどりの花びら運んで、青い空へ舞い上がる。

 

 宙に浮かぶ白い鳥居の中へと続く、朱色の回廊を糸で編んだような白い鳥達が横切っていった。



 そして、黄金の街に住む神々の建物は、金細工と木造建築を組み合わせたような造りになっている。


 どこもかしこも煌びやかで、空に浮かぶ天照大御神の権能である『浄化』の光の粒子が降り注いでるおかげで、一層輝いて見える。



「……ぅ、眩しい」



 黄金の柱が陽光を反射し、その眩しさに蛍が目を細めた。


 その眩しさの正体こそ、黄金の街の名所——目潰し(めつぶ)の鳥居。

 純度の高い金で作られたため、太陽の光を浴びて輝くと目が痛いほど光る。



「ねぇ、神である僕達に、これ一体なんの利益があるの?」  


 蓮が「意味が分からないんだけど!」と半ばヤケクソで鳥居をくぐり抜ける。

 その目の痛みに耐えながらくぐると、しばらく、なんらかのご利益があるのだとか……。



「そもそも、名前が物騒だし、前見えないし!」

 


「朝陽が頑張って人間界の歴史にある観光スポットを参考に設置したのよ、褒めてあげてちょうだいな」



 ただし、そういう建御雷神の目は閉じている。 

 黒いレンズの眼鏡をかけている安倍晴明以外は誰も目が開けられていなかった。



「……ほんに眩しいな、はよ帰りたい」



「晴明の眼鏡、黒くなってる。前見えてるのか?」



 黒い眼鏡をかけている安倍晴明に、眩しそうに目を細めながら蛍が問いかける。



「普通に見えとるで。逆にお前さん達、何もせんでようあんなん見てられるな」

 


「「「——見えてない(わ)よ」」」



 安倍晴明の言葉に、その場にいた三柱の声が重なった。

 建御雷神に連れられて、次に向かったのが街中で大人気のうどん屋『お伊勢』。



 通称"伊勢うどん"と呼ばれるそのうどんも天照大御神のお気に入りなのだとか。



 建御雷神は天津の国ではかなり名の知れた神らしく、入店した瞬間から店内がざわついた。

 やや他の神々の視線を感じながらも、安倍晴明と建御雷神、蓮と蛍の四柱が、丸い机を囲む。



「おまちどーさまです! へい、伊勢うどん四つ!」



 湯気の立つ大きな丼が机の上に、運ばれてくる。

 


「これが……伊勢うどん? 汁がほとんどないぞ?」 



「そう、それが伊勢うどんなの、天津の国でも人気なのよ。朝陽が地上から持ってきた食文化のひとつね」



 蛍の問いかけに、建御雷神が色っぽく金色の髪を掻き上げて耳にかける。

 そのまま箸で持ち上げた太く艶やかなうどんを口へ運ぶ。



「……不思議だ」



 普通のうどんと違う、そのうどんを蛍は不思議そうにまじまじと眺める。

 汁の代わりとばかりに、黒く濃いタレが麺に絡みついていた。



「ん!……蛍、これ美味しいよ」

  


「蓮、でも、うどんの概念が変わりそうなんだが……」



「大丈夫だよ、細かいこと気にしない気にしない」



 蓮は、本当に何でも美味しそうに食べる。

 釣られて蛍も恐る恐る太い麺に箸を運んでみた。



「……っ!」



 濃厚なタレの甘辛さ。

 けれど麺はもちもちとしていて、噛めば噛むほど小麦の甘みが口の中で広がる。



「…… 本当だ! おいしい」



「甘辛いから太めの麺と相性がいいよね、これ」



 蛍が目を輝かせると蓮が応えるように「うん」と嬉しそうに笑った。

 



伊勢うどん、一度だけ食べたことあります。

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