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蒼蓮の天秤 〜神なる君と紡ぐ恋物語〜  作者: 花房 燈
第一章 天津の国への招集
19/60

19: 大国主命とスクナビコナ

挿絵画像はチャットGPTによるAI生成画像です




「やぁやぁ! 元気にしていたかい?」



 屋敷の門の前に辿り着くと、朱色の番傘を広げた黒髪の男神が安倍晴明を見て、嬉しそうに赤い瞳を細めて笑った。




挿絵(By みてみん)

 



 どこか胡散臭い雰囲気を纏う神だが、その肩には蝶の羽を生やした妖精のような虹色の少女を肩に乗せていた。


 その二柱を前に、安倍晴明が呆れたように口を開く。


 

「うちは道場やないのやけど、(あずま)、スクナ嬢」

 


 安倍晴明が東——そう呼んだ神は、縁結の神である大国主命(おおくにぬしのみこと)と、その肩に乗っているのは、四季を告げる神のスクナビコナだった。

 

 安倍晴明の言葉に、大国主命——こと(あずま)は、一層明るさを増して笑った。

 


「あっはははっ! 元気そうで何よりさ、この世界の守護者、晴明くん!ちなみに、私は見ての通り元気さ! あっははははははっ!」



「……相変わらず人の話、何も聞いてへんな」

 


 もはや、陽の塊なのかと錯覚するくらいの勢いで話す東に、安倍晴明が顔を引き攣らせる。


 元より安倍晴明は東が苦手だ。人の話を聞かない上に、飛び抜けて明るい。

 しかも、会話の八割笑っているのだから、聞いている方が疲れる。



「あっはははは! いやはや!晴明くんも変わらず、物静かで、まるで月夜見(つくよみ)のようじゃあないか!ははははっ!」 



「……もう、会話する気やないやろ」


 

 静寂を好む安倍晴明にとって、東は天敵と言っても過言ではないほど苦手な相手だった。



「おや——彼、白蓮(びゃくれん)君かと思ったけれど、神力(しんりき)が全くないな………んー、んん?」



 そんな安倍晴明と東のやりとりを見ていた蛍と蓮に気付いた東が、興味深そうに蓮の元へ歩いていく。

 


「えーっと、どちら様で……」  

 

 

 ずんずんと距離を詰め、東は笑みを浮かべたまま蓮へ顔を寄せた。

 東の赤い瞳が、蓮の目前まで迫る。

 


(……えっ、えぇ、ええええっ!?)



 蓮の隣にいた蛍は内心で声にならない声をあげた。


 そう、蓮と大国主命の距離感が、みるみると、いわゆる——恋仲の口付けの近さになっていくせいで、頭の中が沸騰してしまう。



(すすすすっ、すごく破廉恥だ——っ!)



 知識だけはあっても恋愛耐性のない蛍は、隣で起きる男と男の煌びやかな世界に目を覆った。



 しかし、もちろん東が見ているのは蓮の綺麗な顔ではない。

 蓮の透き通る蒼い瞳の奥——蓮に繋がる縁の先、まだ見ぬ未来だった。

 


「これは、なるほど……なるほど?」 



「……っ!?」



 気付けば、東の顔は、もう蓮の目の前だった。

 あと少し近づけば、本当に唇が触れてしまいそうだった。



「れ、蓮っ……はわわわぁぁぁっ」



 蓮の隣では、蛍が真っ赤になりながら何を言っているのか分からない。



「——ちょっと近過ぎるな!!」



「ゴフウッ!?」

 


 蓮は思わず東に頭突きを叩き込んだ。生憎と男と口付けする趣味はない。

 勢いよく仰け反った東だったが——なぜか、あっけらかんと笑いながら、なおも距離を詰めてくる。



「いやぁ、驚いた驚いたっ! しかし近くで見ると、本当に面白い縁をしているねぇ、もっと見たいくらいだ!」



「——全然反省してないんだけど、怖っ!?」



 蓮はその顔を両手で押し返しながら、引き攣った顔をした。

 


「れ、蓮……っ」



 その隣では、蛍が両手で真っ赤になった顔を覆い隠していた。

 どうやら蓮と東が口付けをしたように見えたことを蓮は察してしまった。



「してないよ? してないからね? この変な男が勝手に顔を近付けてきただけだからね?」



「……大丈夫だ、ボクは、色んな視点があっても良いと思う」



「どういう意味かなっ!?」

 


 蛍に謎の応援をされてしまった蓮が、泣きそうな顔でめちゃくちゃ顔を顰める。



(絶対、蛍に勘違いされてるし、絶対許さない——)



 にこやかな顔のまま、蓮のこめかみにピキッと青筋が浮かぶ。

 蓮は目の前に迫る東の顔に向かって拳を振り上げた。


 

「これ以上っ、蛍に……勘違いされたくないってば!!」



「——おぶふっ!?」



 怒りが上限突破した蓮の拳は、見事に東の顔面に直撃して、東は身体を回転させながら凄まじい勢いで吹き飛んだ。


 そして、そのまま屋敷の壁へと、轟音を上げて突き刺さる。

 モクモク……と、茶色の土煙が晴れると、東の頭から胴体が見事に壁に刺さり、お尻から下だけが壁から生えているように見えた。



「……これは、芸術的な刺さり方やな」



 その光景を盆栽でも眺めるかのように目を細めて、安倍晴明は冷静に評価した。



「あんな奴、一生壁の花になっていれば良いと思うよ」



 ぱんぱんと手を払う蓮だったが、数秒後にはスクナビコナに壁から引っこ抜かれて、東は何事もなかったかのように戻ってきた。



「あはははっ! いやぁ、元気元気! 相変わらず晴明くんの周りは面白い事になってるねぇ〜、見ていて飽きないよ!」



「面白いですよー!楽しいですよー!」



 スクナビコナが東の肩に乗ったまま両手を広げてキャッキャと少女らしく喜んだ。



「うんうん! 大いに笑ったことだし、スクナ嬢。そろそろ、あちらとこちらを繋げようか——!」



「いえーい!やりますですよー!」

 


 「了解!」と、スクナビコナが東の肩の上で敬礼する。

 そして、スクナビコナが飛び立った。



 すると……ふわりと風が舞う。どこからともなく、『春』を彷彿とさせる色とりどりの花弁が吹き抜ける。



『縁とは形となりし出会いの門……』



 東が番傘を静かに閉じると、その先端で地面に『縁』の文字を書く。

 すると——『縁』の文字が宙に浮かび上がり、パラパラと文字が解け、光の糸に変わる。東がふっと笑みを浮かべた。

 


『そして、別れの門』



 先ほどまでの軽薄さが嘘のように、その赤い瞳だけが静かに細まる。



幾千幾万時(いくせんいくまんとき)を重ね、人が歩む先の縁。その究極の可能性を私は繋ぐ……。——生々流転(せいせいるてん)、天津の国』



 光の糸が意思を持っているかのように、伸びて形を変えて、白い大鳥居を創り上げた。

 白い大鳥居の奥は別世界のような黄金の街が歪んで見える。



「……さぁさぁ、皆さん、どうぞですよー!」



「どうぞって、これは?」



 蛍はスクナビコナに促されて首を傾げる。

 それに対し、さも当たり前だとばかりにスクナビコナは胸を張って言った。



「どうみても門ですよー! 東さんが天津の国へ行ける()を用意してくれましたですよー!」



「あははははっ! 縁さえあれば私は、()()()()()()()()()()繋げることができる、すごーい神様だからねぇー!」

 


 ドヤァと東がカッコイイポーズを取って賞賛待ちをしているので、よく分からないまま蛍が手を叩いて「わぁ、それは、すごいな!」と讃えていた。

 その光景に、蓮と安倍晴明が薄目になる。



「ねぇ……晴明。この神様達、明るいを通り越してうるさくない?」



「やから、俺は、あまり話しとうないのや」


 

 遠い目になっている二人をよそに、スクナビコナはパタパタ羽を羽ばたかせて、蛍のそばに飛んできた。



「れっつ、ごーです!ぐいぐい押して参るですよー!」



「えっ!ボク……っ?」



 スクナビコナが蛍の背中を押して白い大鳥居の前へ連れて行く。


 大きな白い鳥居の中で黄金の街が揺れる。

 そして、場面を切り替えるように、そのまま巨大な神殿を映して、神殿内の荘厳な大広間が鳥居の中で揺らめいていた。



(……なんだかっ、怖いんだが!?)



 どういう理屈で、映し出されているかも分からない。  

 安倍晴明の術式と違う。本当に神の権能によって作り出されたそれに、蛍は身を震わせて息を呑む。

 そんな蛍を見ながら東は愉快そうに笑って言った。



「良いねぇ!スクナ嬢!押しちゃえ押しちゃえ!」



「まっ……わわわっちょっ、待ってくれ……ひゃ——っ!」



 唐突な状況に、混乱している蛍は訳も分からぬままスクナビコナに押されて、鳥居の中に吸い込まれてしまう。


  

 ……蓮——!

 吸い込まれる瞬間、蛍は助けを求めるように、蓮に向かって手を伸ばした。



「蛍——っ!」



 宙を彷徨った蛍の手を、蓮が一瞬も迷わず掴まえる。そのまま2人の姿が鳥居の中に吸い込まれて消えていった。


 それを見守るように眺めていた安倍晴明が諦めたように白い大鳥居に向かって、ゆったりと歩いて行く。



「……俺も行くか、しゃあないな」



 安倍晴明が鳥居の中に入って行くと、その後ろを大国主とスクナビコナがついて行った。




なぜ、名前が東なのか……私も分かりませんが、何となく、東に太陽が昇るからだと思います。

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