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蒼蓮の天秤 〜神なる君と紡ぐ恋物語〜  作者: 花房 燈
第一章 天津の国への招集
17/60

17:拗らせた大人への対応




「……(ほたる)、もしかして、ずっと晴明と話ができてないの?」



 屋敷の掃除をしていた蛍に、そう蓮が声をかけた。



「ぅっ、なんで分かるんだ……」



 ギクッと蛍が肩を揺らして、機械のようにぎこちなく蓮を見やる。



「蛍の顔に、そう書いてあるから」



「え、どこっ!?どこっ? どこに書いて……って、(れん)——笑ってるだろ!?」

 


 蓮の言葉を信じて、顔を触って確認していた蛍だが、口元を抑えて体を震わせる蓮の反応を見て、それが嘘だと気付いた。



「……くくっ、あははっ! いや、ごめんごめんっ。可愛すぎるよ、蛍」



 笑いを堪えきれなくなった蓮が声を上げて笑いだした。



「蓮の意地悪。ボクは真剣に悩んでるのに……」



 そんな蓮を前に、蛍は眉を寄せて不機嫌そうに膨れっ面になる。



「うん、知ってる。晴明と喧嘩してから、蛍は晴明と話ができてないんだよね」



「……喧嘩、というか。晴明に……一度、晴明が居ないと思って生きろって言われてるから」



 そもそも、生まれて間もない蛍は喧嘩というものを経験したことがない。

 仲直りの方法を知らない蛍は、どうすればいいか分からず、安倍晴明から言われたことだけを一途に守っていた。



(このままだと、ずっと話せないままだ……。何か変えないとダメなのに……)

 

 このまま言い付けを守り続けるだけでは、安倍晴明との仲が変わらないことも薄々理解していた。

 しかし、どうやって一歩を踏み出せば良いかが分からないのだ。



「どうしたらいいか、分からないんだね」



「……うん」



「よし、分かった!行こう——!」



「えっ、どこに!?」



 突然、蓮に手を取られた蛍は、ぐいぐい引っ張られて歩き出す。

 蓮は振り返って、蛍を見やると悪戯っぽくはにかんだ。



「もちろん、蛍が会いたい人だよ」



「そんなっ、ダメだ。無理だってば——ボクは晴明から、居ないと思えと、そう言われてるんだからっ!」



 やだやだ、無理無理!と半泣きになって抵抗する蛍だが、蓮の力が強過ぎて振り解けない。



(蓮ってば……一体どんな馬鹿力してるんだっ!?)



 どう頑張っても蛍では振り解けない上に、蓮には呆れ顔で見つめられてしまう。



「はいはい、蛍まで意地を張ったらダメだよ?」



「意地を張ってるわけじゃない……」 



 まるで、蛍が拗ねてるみたいな言い方をされてムッと眉を釣り上げる。

 そう——意地とかそういう問題じゃない。



 安倍晴明に素直にぶつかっていっても拒まれてしまう。

 なんなら、これ以上、怒らせて嫌われることが、蛍には何より怖かった。

 だから、近づかないのが一番なのだ。



 安倍晴明からもそう言われた。ならば、それを守るしか今の蛍にはできない。



「これ以上、晴明に嫌われたくないだけなんだ」



「なら、尚更だよ。あぁ言う、拗らせた系の大人には、どんどん子供らしくぶつかっていけば良いんだよ!知らないけどっ!」



「それは、適当すぎるっ!」



 蛍の抵抗も虚しく、あっという間に安倍晴明の部屋の前に辿り着いてしまう。

 もう蛍の顔は青ざめるを通り越して白かった。



「どどどどどっ……どう、しよ……っ、ボク……」



「大丈夫だって! 良いから僕を信じて!」



 そんな、蛍の顔を見て蓮はにっこり笑って言った。



「晴明! 入るよ、返事は聞かないからね——!」


 

 蓮はことさら元気に声を上げて、ガラッと勢いよく襖を開ける。

 その先には机に向かって筆を走らせていた安倍晴明がピタリと手を止めて、不機嫌そうに顔を顰めた。



「……蓮。返事を聞かへんのなら、声をかけるな。と言いたいところや——けど、ちょうどええところに来たな」

 


「……っ」 

 


 言葉並びは冷たいが、いつも通りの柔らかな口調に蛍は少しだけ安堵する。

 安心したせいか、蛍は目頭が熱くなって思わず泣きそうになって慌てて堪えた。



「蓮、蛍……二柱(ふたり)とも、そこに座りや」



「もしかして、用事があったの?それなら早く呼んでくれたら良かったのに、特に蛍を」



「せやな」



「……なっ、なんでボク!」

 


 安倍晴明が示した座布団に腰を下ろしながら、蛍は慌てて蓮を振り返り睨んだ。



「ふふっ、嬉しいくせに〜」

   


「ぅぅ……」



 それさえも分かってるって、と軽く流す蓮のことが、蛍は憎らしいのに有り難かった。



(確かに、ありがたいけども。 どうして蓮は……こんなに、ボクよりボクのことが分かるんだろう。なんだか、ボクより大人みたいだ……)



 蛍が横目に見ると、蓮はその視線に応えるようにニコッと笑う。



「それで、用事ってなに?」



 そう言って、そのまま蓮は視線を安倍晴明に向けた。



天照大御神(あまてらすおおみかみ)から呼び出しがかかった。今から、その迎えが来るさかい、準備して欲しいのや」



「天照大御神って、天津の国だっけ?」



「せや、この世界の真ん中にある黄金の街や」



 高天原の中心部に位置する一番国(いちばんこく)天津の国(あまつのくに)は天照大御神が主神(しゅじん)として治める黄金の街。



 もちろん、その中央に聳える天照大御神の黄金神殿は、煌びやか——などという言葉では足りない。太陽そのものを地上へ引き摺り下ろしたような眩さなのだとか。



「それは楽しみ! 神生初(じんせいはつ)のおでかけだね、蛍!」



「え、……ボクも?」



「当たり前や」



 キョトンと目を丸くした蛍に、いつも通りの様子で安倍晴明が肯定した。



「ほら。だって、蛍。楽しもうね!」



 蓮が明るく良かったねと蛍に笑いかける。



「…… 残念やけど、楽しめるとは限らへん。今回の呼び出しは、遊びやない」

 


 しかし、それを安倍晴明が即座に否定した。




 

拗らせた大人には蓮の強引さも大事です。

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