15:蛍は晴明に認められたい
挿絵画像はチャットGPTによるAI生成画像です。
「もちろん、記憶はないよ。でも体術は覚えてる」
「そら、都合の良い記憶で何より……」
「ふふっ、それに子供だから小回りが効いて早く動けるし、お得だね!」
楽しげな笑みを浮かべる蓮の攻撃は手数が多く、接近戦が苦手な安倍晴明は、なんとか躱すので精一杯だ。
「……っ」
「ふふっ、押されたままでいいの?」
ただの術師といいながら安倍晴明はなかなか動ける。
連撃を与えられれば普通の人は、どれかが当たって当然だが、そのいずれも当たらない。
眼鏡をかけておきながら単に視力が良いのか、或いは未来を予知して動いているのか。一体どちらだろう……。
「ここまで当たらないと、流石にムカつくな!!」
蓮は懐から集めていた桜の花弁を安倍晴明の目の前に、撒き散らすと視界を遮る。
そのまま、重心を低くして、安倍晴明の片足に蹴りを入れる。
「くっ、前が……見えへんやないかっ」
しかし、安倍晴明は瞬時に後方に飛んで躱した。
(……今、絶対見えてなかったよね? 視力じゃない、ということは——)
なるほど、安倍晴明が回避できる理由を理解した蓮が不敵に笑う。
「未来予知か。 面白いね、どこまで先が見えてるのか試してみてもいい?」
「こんな労力のいるお遊びは、もう勘弁や」
安倍晴明が眉間に皺を寄せて、深く息を吐いた。
このままでは、体力が持たない。なんならもう終わりにして、茶でも飲みたい……。
蛍が、ずっと不安そうに、こちらを見ているし、どうするべきかと、安倍晴明は逡巡する。
「攻撃の手数ではなく、単純に速度を上げる。未来を読まれるより先に、攻撃が到達すればいい。これなら、絶対に当たる……でしょ?」
安倍晴明が考えている間にも、蓮は体勢を低くし、最速の一撃を繰り出そうとしていた。
「せやな」
まだ、これ以上速度を上げられるんか……。
蓮の攻撃は子供の力にしたら重過ぎる。
万が一当たれば、確実に骨が折れるか内臓がやられるだろう。
蓮が視界から消える。
到達までコンマ0秒——計測不能。
(回避不可やな)
安倍晴明は正面から攻撃を受け止めることをやめる。
次の瞬間、置いていた自動防御術式が展開された。
「……っ、防御術式!」
バチッ——と重い衝撃音と同時に、蓮が自動防御術式に弾かれて後退する。
とんとん、と蓮が身軽に飛んで着地したところを、安倍晴明は見逃さない。
「残念やけど、もう、これで終いや」
安倍晴明は中庭一帯に展開した捕縛術式を続けて発動する。
蓮の足元が光を帯びると、流石の蓮も焦りを見せた。
「……えっ、ちょっ、晴明!? まさか——この捕縛術式、禍ツ神用じゃっ、それはずるいって!!」
地面から浮き出てきた文字が鎖のように連なって、一斉に蓮を追いかけ始める。
「5割減の威力やから、安心しや」
その様子を安倍晴明は、涼しげな表情で眺めた。
「いやいや——そういう問題じゃないってば!!」
通常ならば直ぐに捕まえられるが、流石は蓮。
動体視力も優れているのか、捕縛術式を上手く躱しながら猛抗議している。
その様子は、まるで舞でもしているかのようだった。
「すまんが、それで遊んどき」
「これは、ダメだって……痛っ!!掠ったし、あーもう!」
「喋れる暇があるなら、その鎖、増やしたってもええで」
冗談のような気軽さで安倍晴明は言うが、実際、本当にやるのが安倍晴明だ。蓮はヒュッと青ざめる。
「えぇっ!? やだよ! これ捕まったら超絶痛いって書いてあるじゃんか!!」
「そうか……。蓮には、あの速度で動く鎖の文字の意味が読めていはるんか」
この高天原で、安倍晴明の術式を解読できる神は限られている。
しかも、それは停止している術式であればこその話だ。
安倍晴明のそれは通常の視力では鎖であることは認識出来ていても、それが梵字で形成された鎖であることは到底認識出来ない。
蓮の優れた観察眼、理解力、戦闘能力……存在そのものが神を殺すためにあるようだ。
「……相変わらず、とんでもないお方やな」
ある意味、驚きを隠せない安倍晴明だった。捕縛術式と蓮が追いかけっこしてくれているおかげで安倍晴明は、ホッと息を吐く時間ができる。
「晴明、大丈夫?」
それを見計らって、蛍が安倍晴明の元へと駆け寄った。
「蛍……。すまんな、待たせてしもうて」
「いや、ボクが……蓮の動きについて行けなくて、間にすら入れなかった、ごめんなさい」
蛍は安倍晴明を前にして、シュンと肩を落とす。
安倍晴明に作られた人工神でありながら、今のところ神力のない蓮にもついて行けず、安倍晴明のように術式を扱うことも出来ない。
ただただ膨大な神力を有しているだけだ——そう思うと、蛍は何も出来ない自分が情けなくなる。
そんな風に落ち込んでいる蛍を見兼ねて、安倍晴明は少し柔らかな口調で言った。
「蓮は蓮、蛍は蛍やさかい、比べるのはちゃうやろ」
「でも、ボク、ボクは……」
このまま情けない自分のままでは、安倍晴明に認めてもらうことは出来ない。
安倍晴明が主となって恥ずかしくない、人工神に蛍はなりたかった。
「せめて、何か出来るようにはなりたいんだ!」
「蛍。 それは、お前さん自身のためか?」
「……ボクの、ため?」
まるで、その心を見透かしているかのように、静かに蛍を見据える安倍晴明に、蛍は思わず言葉に詰まった。
安倍晴明はそうか……と、短く頷いて背を向ける。
「俺はお前さんに何も望んでへん。お前さん自身が自分の道を決めたらえぇ」
「晴明……っ!」
安倍晴明の変わらない答えが返ってきた。
このままでは、安倍晴明と分かり合うことが出来ない——そう思った蛍は、背を向けた安倍晴明の前に回り込んで、キッと顔を上げる。
きっと、向き合わなければ安倍晴明には伝わらない。
いいや、違う。
伝わっているけれど——安倍晴明の言う「保護者」というものの範囲内からは抜け出せやしない。
(ボク自身が、自分の道を決めることができるのなら! どうか、もう一度だけ、伝えさせて欲しい……)
もしも、蛍が2人の戦いに入って行ったら蓮は蛍に気を取られて、ヘマを踏みます。




