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ぺるしゃご

「八重って、何で英語できるのに、英語のクラスはきらいなん?」

 同じクラスのさやか(今、一番なかよし!)が、帰りぎわに聞いてきた。

「アルファベットばっかり書くの、あきてもうてさあ…。」

 そう、これこそ、あたしの今の一番のなやみだなのだ!だって…。

「でも、パトリック先生、かっこええやん。」

「それな!」

 あたしやって、英語好きやし、パトリック先生と色々話したい。自分の英語が、ちゃんとほかの人にもわかってもらえるんやって、たしかめたい。それに、自分とはちがう国の人のこと、いっぱい教えてほしい。

それに、あたしがクラスを出ていくと、パトリック先生は悲しそうな顔をする。おこるんやなくて、さびしそうな顔。ごめんって思うけれど、あいさつが終わったらずっとアップルとかオレンジとかたんごばっかりで、いらいらして、おさえられなくて、みんなのじゃまもしたくなくて…。そしたら、出ていくしかあらへんやん。

 気まずくなって、ろう下を見ると、お母さんがいた。うれしくなって、思わず走ってろう下まで出てしまった。

「お母さん!どうしたん!」

「友達はええの?」

 あ、さやか。ふりかえると、教室の中で苦笑いのさやかが、ランドセルをしょって手をふってくれる。ごめん。また明日話そ、と手をふり返す。


 いつもとちがう教室で、お母さんも先生も、何かいつもとちがうふんいき。ここはあたしが、何とかせねば!と、思っていたら、

「それで、相談、というのは。」

 お母さんが先生に声をかけると、先生は話し始めた。さっき、さやかと話していた、英語のクラスのこと。お母さんにもばれてもうた。

「八重、どうしたん?英語、きらいになったん?」

 お母さんが、心配そうに聞いてくる。ごめん、お母さん。でも、あかんねん。

「ふうん…ちょっと、教科書見してみて。」

 お母さんが、ぱらぱらと教科書をめくっている。先生が、じっと見守っている。あたしは、気まずくてだまっていたら、

「確かにまあ、面白くはないなあ…。」

と、お母さんがそっとつぶやいて、つくえに教科書をおいた。

「せやろせやろ!お母さんもわかる?」

 いまいましい(けれど、つみはない。それもわかっている。)教科書を、ぺしぺしたたこうと思って、それはかわいそうだなと思って、間をとってつんつんとつつく。ごめん、でも、君のことは好きになれない…。

「周りの子にもめいわくかかるし、おりこうさんにしてなあかんなあ。」

 先生が言う。…どうせ、あたし、お兄ちゃんみたいにおりこうさんやないよ…。

お兄ちゃんは、勉強は何でもできるし(運動はちょっと苦手らしい)、やさしいし、先生の言うことはちゃんと聞くし、どこに出してもはずかしくない、あたしもたいこばんの、じまんのお兄ちゃんである。でも、お兄ちゃんはあたしのできないことをできるんやな、と思うと、時々しんぞうのあたりが、ぐっと重たくなる。

 なぜだか急になみだが出そうになって、少しよごれた上ばきをじっと見つめる。


「そしたらさ、八重。教科書の内ようを、他の国の言葉でも勉強してみるのはどう?」

「他の国の言葉?」

 お母さんは、時々、あたしの思いもつかないことを言う。なみだは引っこんで、どっかへ行ってしまった。

「おすすめは、スラブ語けんか、東南アジアか、中東のあたりの言葉かなあ。」

たしか、ロシアの方の言葉をスラブ語って言うたっけ。

「中東?ってどこ?」

「トルコとか。でもトルコ語はアルファベットでごっちゃになりそうやから、アラビア語とか、ペルシャ語とかかなあ。」

 ペルシャ語?どこの言葉やろう!英語じゃない言葉も勉強したら、もっと色んな人と話せるかな!それに、“ぺるしゃご”って、なんかかわいい!

「英語とペルシャ語、両方やるんやからね。」

 わかった!


 さっそく帰り道に本屋さんに入って(本当は、帰りにより道なんかしたら先生におこられるけど、お母さんがいっしょなら大丈夫。)、ペルシャ語の本を買ってもらった。大人用の本やから読めへん漢字もあってむずかしいし、ペルシャ語の文字はらくがきみたいな文字でびっくりして、ちょっとがっかりした。やっぱりペルシャ語やめとこっかな、と思っていたら、お母さんがパソコンの前で

「八重。これ、見てみ。」

と目を細めて笑っている。何やろう、と思って画面をのぞきこむと、

「何これ、めっちゃかわいい…!」

 色とりどりの画像と、お母さんのドヤ顔が、目に飛び込んでくる。

「ペルシャじゅうたん、って言うねん。これはマンダラモチーフかな、これは鳥とか木とか、何やろうこの四つ足のけもの。」

 じゅうたん?カーペットってこと?

「次はこれをごらんください。」

「え!」

 本ではらくがきみたいに見えた文字が、きれいな絵になっている!

「ペルシャ書道って言うてね。ミミズみたいなアラビア文字も、こうなると、りっぱなげいじゅつ品よねえ。」

 お母さんは、私の知らないことをたくさん知っている。

「ペルシャ語からはなれるけれど、中東は、昔から交通のヨウショウで、どこも歴史や文化にあふれた地域でね。色々調べてみると楽しいよ。メソポタミアから始まって…。」

 自分の知らないことが、世界にはまだたくさんあるんやな、って思うと、おなかのあたりがむずむずして、どきどきしてきた!


「Excuse me, Mr. Patrick.」

 クラスが始まる前、教室に入ろうとしたパトリック先生に声をかけると、パトリック先生は目を丸くしている。もともと目ぇぱっちりしているのに、そんなに開いたらおっことしてまうよ。

「Could you please tell us about your country?」

 伝われーっておいのりしながら返事を待っていると、パトリック先生は、

「Sure, of course!」

と、イケメン満開な笑顔で答えてくれた。よかった、伝わった!

 その日の授業は、いつものあいさつのあと、

「キョウは、classは、オヤスミです!」

とカタコトの日本語のパトリック先生が、アイルランドという国のことを教えてくれた。どうやらイギリスのおとなりさんで、パトリック先生は首都のダブリンから、今年はじめて日本に来たんやって。ダブリンでも、学校の先生をしていたそう。ダブリンの街には、ようせいと、ケルトっていう音楽と、羊と、何とかっていう変なオジサンのキャラクターがあふれているらしい。あと、コーヒースタンドが、街のいたるところにあるみたい。日本に来てまだ間もないから、おいしいコーヒー屋さんを探しているって言っていた。

 帰ったら、あたしの知ったことたくさん、お母さんに教えてあげよう!それで、パトリック先生におすすめするコーヒー屋さん、教えてもらおう!


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