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ペオルの探求  作者: 逆柿一統
第4話「へつらいの道化」
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「へつらいの道化」8

神様、仏様、デメテル様。


期せずして…といえば嘘になるのかもしれない。


元気のときも庵野のときもデメテルの出現によりペオルとエレミヤの暴走は収まった。

カモスの早口に既視感を覚えた元気は心のどこかでデメテルの出現を期待していた。


そう。今回もきっとこの光の女神様が事態を収拾してくれるに違いないのだ。

そらあのハエちゃんを見てみろ。

燦然と煌めき本体の見えないデメテルに恭しく頭を垂れている。


おそらく無い歯をガチガチいわせて内心どうしたものかと思案にくれているはずだ。

なんせ無辜(むこ)の人間をポンコツに貶めてしまっているのだ。

人間好きのデメテルは眉をひそめているに決まっている。

どちらも表情が全く読めないけど。


「デメテル様にはご機嫌(うるわ)しゅう。」

しばらくの沈黙を破りカモスがゆったりとした口調で話しかける。


「カモス。ごきげんよう。楽になさい。」

光の中からデメテルが優しく応える。


カモスは顔をあげた。


さて、この悪徳蝿にどのような裁きが下されるのか。

ペオルやエレミヤ同様、御使いの身分からただの生き物へと堕天するのだろうか。

いや待てよ。ペオルやエレミヤはそのまま実体化しても特に問題のない見た目だけど、こいつはハエ。でかいハエ。

このまま実体化して飛び回られたら虫嫌いの元気にとってはちょっと受け入れがたい。

せめて小さくしてほしいな。

などと考える元気の口元が意地悪く歪む。


「カモス…。あなたはなんと良い子なのでしょう。」


ん?


「さあ、こちらに来なさい。近くへ。」

「勿体ないお言葉です。」


あれ?


カモスは女神に言われた通り光へ向かって飛びたった。


余りの輝きのためよく見えなかったが、光から二本の腕が伸びカモスの身体を抱えたようであった。


「ああ可愛い子。愛しい子。」

光は輝きを増し、元気はもはやまともに目を開けていられなくなった。

額に手をかざし影をつくり、まぶたと頬で調整した極限の薄目でなんとかおぼろげながらデメテルの様子を探る。


光の両腕はカモスを抱きしめるだけにとどまらず、飼い主がペットの犬や猫にするように、指先で撫で、つねり、くすぐり、つつき、もみくちゃにしていた。


「勿体なや、勿体なや。」

カモスはされるがままにしていた。

相変わらず表情は読めないがまんざらでもなさそうだ。


あ…の…。女神さん。そろそろ…。裁きを…。


元気がしびれを切らした頃、


「はぁ。カモス成分が補充できました。ではカモス。引き続き頼みますね。」


そうデメテルが言うと眩むばかりの光はふっと消えた。

部屋には仄かな熱量が残るばかりである。


カモスはぶうぅんと低い羽音をたて座卓へ着地した。


「ふふ。なんだかお恥ずかしいところを見られてしまいましたね。ふふ。」


照れているのか。

というか。

裁き…。


カモスは無言のまま立ち尽くす元気のそばに寄りつき、前脚でぺたぺたと触れた。


「なるほどなるほど。しかしデメテル様はわたしを突き放すようなことはいたしますまい。」


元気は思わずカモスの両脚を払いのけ身をのけ反らせた。

虫嫌いのせいではなく思考泥棒への警戒感のためだ。


「ふむ。『なぜペオルやエレミヤには裁きが下り、カモスには下らなかったのか』ということですな。ええ。よろしいでしょう。」


カモスも元気の心情を汲んだのか、元気からやや距離をとった。


「ずばり、出自の差でしょうな。」


「出自?あの二人もお前もデメテルさんから産まれたんだろ?」


「いえ。違います。あの二人、外見が人間でしょう?」


確かに二人は一見人間の子供である。

ペオルは角はえてるが。


「人間の思念から生まれた存在なのです。思念が具現化したのですよ。ええ。」


「思念の具現化…。誰かの妄想の産物ってことか?」

誰だ、あの凶暴羊角幼女を妄想した変態は。


「誰、というわけではないですね。多くの人々の思念が集まったのです。思念は集まってより強固に、より具体的になります。その最たる存在があの二人。姿形も意志もはっきりしてますでしょう。」


「確かにはっきりしてるな。角とかめちゃくちゃ硬い」


長くなりそうだな、と思い元気は座卓のそばに胡座をかいた。

デメテルが裁きを下さなかった以上、耕児の解放は自力で行わなければならない。

先を考えると体力を無駄にはできなかった。


「なのであの二人はデメテル様から生まれたわけではないのです。二人はそのことを知らないようですが。ええ。それに比べるとわたしはデメテル様に近い存在かもしれません。」


「どう近いんだ?」


「わたしはデメテル様が育まれた『蝿』という実在の抽象なのです。蝿のなかのハエ。それがわたし。蝿自体がデメテル様から生まれたものですからね。つまりわたしもデメテル様から生まれたと言って相違ないでしょう。」


はなしがややこしくなってきたなと元気は感じた。

製造部や設計部が専門用語を持ち出してああでもないこうでもないと終わらない議論をやり始めたときの、あのうんざりする感覚。


早く切り上げて本題に入りたい。

しかし、カモスのはなしで少し引っかかる部分がある。


デメテルは地母神である。たしかペオルが言っていた。

地母神とは地球そのもの。

ハエは地球で生まれた生き物だからデメテルから生まれたといえる。

蝿のなかのハエを自認するカモスがデメテルから生まれたと主張するのもうなずける。


■デメテル(地球)→蝿→カモス

この流れだ。


では人間は?


カモスのはなしでは人間(の思念)から生まれたのでペオレミはデメテルとは近しくないのだそうだ。

つまり


■デメテル(地球)-?-人間→ペオレミ


そう、デメテルと人間の繋がりが不明瞭となる。


人間だって猿の一種なんだろうから当然地球生まれのはずである。


腑に落ちない。

そんな元気の表情をカモスは複眼で捉えていた。


「ご納得頂けませんでしたか。ええ。この距離感はなかなか難しいのです。しかしご心配にはおよびません……

デメテル様の御慈悲は地球上の全ての存在に等しくそそがれるのですから!もちろんあなたにも!」



こいつ…前脚でぺたぺたしないと他人の気持ちは全く解さないんだな…


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