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ペオルの探求  作者: 逆柿一統
第4話「へつらいの道化」
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「へつらいの道化」6

3年ぶりに再開します!

なんだか見るからに落ち込んでいる。


元気は耕児と仕事をしたことがないので詳しくはわからないが、確かに耕児は良くできた社員とは言い難いのかもしれない。

遅刻しかけて職場まで走っている姿もよく見る。

ちょくちょくやらかしているという噂も聞く。


しかし、そのちょっと抜けたところが耕児の愛嬌なのである。


「そういう失敗は誰だってするもんだろ?会社ってそれまでいた場所とはかなり違うわけだし。」


落胆する耕児に思わずフォローの言葉をかけてしまう。


「俺だってぽかミスよくしてるぜ。全然違う宛先にメール出しちゃったり。庵野も連絡忘れよくするって言ってた。」


あれ?なんでここで庵野の名前を出す?


「庵野ちゃんか…。そういえば最近会社に来てないんだってな…。」


耕児が庵野の名前に反応する。


「あの子も仕事のミスが精神にきてたりすんのかな。」


「い、い、いや。どうなんだろ?」

自分から庵野の名前を出しておいて掘り下げられると動揺する不思議。


「というか、お前は精神にきてるの?」


これ以上庵野の話をするといろいろ余計なことを口走りそうなので話を耕児に戻す。


「んぁあ…。そうだな…。きてんのかなぁ。」


体育座りの耕児は頭を両膝の間に埋めため息をつく。


「元気ないんだよな…。」


これはけっこう重症である。

元気の知らぬところで耕児はすっかり打ちのめされていた。

こんな耕児の姿を見るのは正直つらい。

友人としてはなんとかこの窮状から耕児を救い出してやりたい。


しかし、仕事のミスを減らす方策など、社会に出て間もない元気の経験や実力ではさしたる助言ができる気がしない。


もちろん2つ3つ頭に浮かぶものはある。

こまめにメモを取る。作成した文章をよく見返す。メールを出す前に宛先は確認する。


実にありきたりである。

このようなこと、悩ましい耕児は当然すでに実行しているであろう。

わざわざ口に出すのも愚かしいように思われる。

「それぐらいは…」と耕児は弁明するかもしれない。

気落ちした耕児にそんなみじめな事はさせたくない。


それでもなんとか力にはなりたい。


何か手がかりは無いものかと元気は耕児に投げかけていた視線を外し、ぐるりと部屋を見回してみる。


そして自然な成り行きのように座卓に鎮座する巨大蝿へと視線が移る。


こいつ……ペオルの同僚だと言っていた。

つまり、ペオルやエレミヤが自分や庵野に取りついて、その行動に様々な制限をかけていたように、こいつも耕児に何かしらの影響を与えているのではないか。


「へつらいのカモス」…やつはそう自称した。

へつらいって何だっけ?


元気にはそのハエがどんな力を持っているのかとんと判らない。

耕児の窮状がカモスの影響に拠るものかどうかすら判然としない。


ただ、そこに、ほんの一縷でも解決の糸口があるのだとすればそれに縋ってみたい。

打ちひしがれた友人を元気づけてやりたい。


だが「お前には見えない巨大なハエが、お前を駄目にしている。」などというのは全く狂者の弁でしかない。


良くてつまらぬ冗談だと思われ失笑されるか、悪ければ馬鹿にしていると耕児の怒りを買うかもしれない。


どう切り出したものかと思考を巡らせる。


視線の先には胸に抱き込こんだ両膝のうえに顎を載せ、埴輪のような虚ろな目をしてぽっかりあけた口から魂が半分出かかっている耕児。


言おう。

どう思われるかはわからない。

しかし何かが変わる切っ掛けになるかもしれない。


伏し目がちに一度視線を下げ、再度耕児を見る。

意は決めた。


「耕児…あのな…。」


声をかける。

しかし耕児からは何の反応もない。

視線をこちらにやるでも顔を向けるでもなく、相変わらず膝のうえに顎を載せて、魂を出したり引っ込めたりしている。


「耕児…?おい。」


元気は膝立ちになり上体で座卓を越えて耕児の膝を揺さぶった。


やはり反応はない。

それどころか上半身が右に傾き、そのままどさりと床に横たわってしまった。


「耕児!」

元気が座卓を回り込んで耕児のそばに寄ろうとしたそのとき、座卓の上にいたカモスがぶぅぅんという低い羽音をたて翔びあがった。


「だめですよ。木梨さん。仕事の邪魔をしてはだめです。」



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