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ペオルの探求  作者: 逆柿一統
第4話「へつらいの道化」
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「へつらいの道化」3

かつて世界にはその居住地から放逐された悲運の人々がいた。

古くはヘブライの民草、最近では俺。

何が悲しくて自分が金を払って借りている部屋を、最近人間になったばかりの幼女に追い出されなければならないのだろうか。


側頭部のダメージを確かめるべく、触ってみたり噛み締めてみたりしながら元気はとぼとぼと通りを歩く。


まあ確かにスカートはやり過ぎたかもしれない。

うん、女の子にあれをやったら駄目だよな。

エレミヤ泣いてたし。

あいつ男だけど。


不確かな思考と側頭部の痛みを引きずりながらあてどもなく歩く。

というかほんとにあてがない。


時計を見ればまだ午前9時前。

どこかに腰を落ち着かせたいが付近には座れる店がない。


里弄(りーろん)もまだ閉まっている。


こんなとき近くに友達でもいれば…とふと考えると庵野のことを思い出す。

庵野のやつ何してんだよ。

金が欲しいからって部屋に男を呼んで…あんなこととかこんなこととか、庵野に限ってするはずないとは思うけど。


でもわかんないよな。

庵野との付き合いなんてまだ2年と少し。

社会人になってからの友達なんだし。

いや、そもそも友達なのか。

会社の同期って友達なんだろうか…。

そもそも友達ってなんだろうか…。

そういえば他にも同期がいたような…。


あ。


元気は一駅離れたところにもう一人会社の同期がいたことを思い出した。


そうだそうだ。

持つべきものは友だな。


先ほどまで会社の同期が友か否かをぐねぐね考えていた元気ではあったが、その人物を思い出すなり急に大胆かつ図々しく友達認定をして利用してやろうと企む。

思わず顔もにやけてくる。


いやいや、利用などとは聞こえが悪い。

友好を深めに行くだけなのだ。


途中のコンビニで酒とつまみを買う。

やはりこれぐらいのお供えものをしなければバチがあたる。

ちゃんと礼はわきまえている。

ペオルたちとは違うのだ。


少しかすれた記憶を頼りに

人通りもまばらな住宅街をすすむ。


やがて目当てのアパートを視界にとらえ見覚えのあるドアの前に立ってインターホンを押す。


反応がない。


まさか外出しているのか…と少し不安を覚える。

再度インターホンを押す。

焦りにまかせて何度も押す。


部屋の中で何者かが動く気配。

いる!


「んだよ…お前かよ。朝からうるせえな。鍵開いてるから入ってこいよ。」


やったね。

元気はにこにこ顔で扉を開ける。


「お邪魔しまーす。」


玄関を埋め尽くす靴の数々。

部屋へと続く廊下にはゴミ袋が積まれている。


いい感じ。いい感じ。

相変わらず整理整頓がなされていない。


「きったねえ部屋だよな。」


元気は悪態をつきながらリビングの扉を開ける。


部屋の中には万年布団にごろりと寝転ぶ男が一人。

あたりには塵芥とも家具ともつかない様々な物体が散乱している。


「文句言うんなら帰れよな。」


布団の男、(あやの) 耕児(こうじ)は首を起こすことなく視線だけ向けて元気の姿を認めると吐き捨てるように呟いた。


「まあまあ怒るなよ。」


汚いとかなんとか言っておきながら元気はずかずかリビングに入り込むと座卓の近くの座布団の上にどかりと腰をおろす。


「来るなら連絡のひとつもしろよ。こっちだって暇じゃねえんだからな。」


耕児はぶつぶつ文句を言ってごろりと背を向ける。

布団から起きてくるつもりはないらしい。

実に落ち着くこの距離感。


元気は買ってきた酒を袋から出すと缶のプルタブを引く。

ぽしゅっとガスが溢れて、注ぎ口に泡がたちのぼる。


「おっと、うむ。んっんっんっんっ。うまー。」


真っ昼間どころかまだ朝であるが、この無法地帯では飲酒も許される。


「おい、人の部屋で朝から酒飲んでんじゃねーよ。」


といって耕児がごろりとこちらに寝返りをうち、スムーズに上体を起こすと座卓について座った。

袋をあさり気に入った酒とつまみを取り出すと、プルタブを引いて溢れでる泡を口で迎える。


「んっんっんっんっ。うまー。」


時計は10時過ぎを指している。

男たちの宴はいままさに始まったばかりなのである。

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