幕間06 吟遊詩人 ジャスティン
「あなたのサーガを僕に歌わせてください」
ぼくは、シリュウに対して言った。
「勝手にするといい」
シリュウは白い歯を見せた。
ぼくは、吟遊詩人ジャスティン。
英雄たちの物語を、世に広めるのが仕事だ。
ガットと言われる弦楽器を背に背負い、全世界を旅する。
その中で仕入れた英雄譚を曲に乗せて歌う。
自分で言うのもなんだけど、僕は吟遊詩人の中でも有名になっていた。
六歌仙…その中の一人に数えられていた。
各国の王や貴族たちが、ぼくをお抱え歌人に誘った。
そう、自分のサーガを僕に作らせるためだ。
この時代に自分の正統を世の中に宣伝する手段は2つしかない。
物語として本になるか、英雄伝説として歌われるか、だ。
本は読める人が少ないが、歌は誰にでも理解できる。
有名なフレーズは子供たちが歌い、広がっていく。
いままで、僕は古の英雄の物語を詩にしてきた。
その中でも、ぼくを有名にしたのが、ニャニャーのミーニャと神官アキヒロの物語だ。
ミーニャ教に伝えわる伝説を詩にしたのだ。
心やさしい神官アキヒロは、ミーニャの人気を妬んだ王族や貴族に殺されてしまう。
その悲劇を歌った部分は、だれでも知っている有名な一節となっている。
現実に英雄なんていない。
ぼくは貴族たちの誘いを断って、古の伝説を歌い続けた。
しかし、僕にも自分で見たものをサーガにするという欲がないわけではない。
ぼくは世界中を旅しながら、英雄を探し求めた。
その度にぼくは絶望を感じるしかなかった。
百戦錬磨の強者は野蛮な乱暴者にすぎないし、天才的な軍師はたまたま運良く作戦が決まった臆病者、善政を行う慈悲深い王はただの政治に口出ししない怠け者のバカ殿だったりする。人間は本当に仕方のないものだって結論しか導き出さない。
それこそ、伝説のニャニャーと神官くらいしか為政者にふさわしいものはいないのではなかろうか。
しかし、ぼくの目の前にいるこの漢をみてから、この漢のサーガを歌いたくなった。
この漢は、驚く程子供だ。無邪気に行動し、真っ直ぐな目をしている。
僕はこの漢の行くすえを見たくなった。
そして、僕がその伝説を歌うのだ。
まるで、ぼくがいつも歌っているニャニャーのミーニャにも匹敵するなにかを感じるんだ。
「はいっ」
ぼくはシリュウの返事に、元気よく答え、シリュウの後についていった。




