茶屋
その後、身空シドと名乗る少年に刃物を突きつけられて脅された。
『鴨川に深夜まで開いてる茶屋があるんだ』
と言って、少年は僕に 連れていけ と命令した。
家に帰ったところで寂しさで押しつぶされそうになるだけなので、少年の悪に染まりたい欲に付き添って上げることにした。
一般常識を持つ大人として。
電車に揺られて約20分。そして徒歩約7分。
目的地である鴨川に着いた。
基本的にこの時間は、世間一般の仲睦まじい男女が川辺のベンチを占領しているので、その横を通るのはあまりおすすめ出来ない。
あちらこちらで桃色な話をしている彼らを、別に羨ましいともおもわず、少年と2人で歩く。
「お兄さん、ここって何度目?」
「わからないくらい来てるのは確かかな」
「ふーん、彼女とかいんの?」
「今日別れたんだ」
「へー、それはご愁傷様。
どのくらい続いたの?」
「6年....いや5年半かな、そう考えると長いな」
「お兄さんって案外やるんだな」
そんな、どうでもいい話をしていたところで
どうやら茶屋に着いたようである。
古びた暖簾の両脇には橙色の提灯。
もやもやした灯りが灯されていた。
「おーい、爺さん。いつもの」
と、少年は言って指をぱちんと鳴らした。
その一連の流れを見て、カクテルを頼んだのかと思った。
「あぁい」
と、茶屋の暗いところから老人の声がした。
老人はまだ何も入っていない湯呑と上品な和菓子をお盆に載せ、のっそりと赤い月に照らされに来た。
頭に毛は生えておらず、その代わりに真っ白な髭が逞しく伸びていた。
そして、その身長に驚愕した。
2m近くあった。
「こっ、こんばんは」
僕はそう言うしかなかった。
老人はにこっと微笑んだ。
殺されるのかと思った。




