血の世界へ
ホームで電車が来るのを待っていた。
時刻表と照らし合わしても、その時間に電車が来ることはなかった。
本当に世界に自分しか居ないのではないだろうか。
と考えたが
自分の座っていたベンチの後ろに人の気配がした。
「電車来ませんよ」
と振り返りながら声をかけた。
「当たり前よぉ」
見たところ中学生位の少年がそう言った。
「当たり前って?」
何の警戒心もなく、話しかけた。
「近くに逢魔ヶ時が居るんだ」
「オウマガトキ?」
「ほら」
少年は僕の腕時計を指さした。
彼女に....元彼女に誕生日プレゼントとして貰ったものだ。
その時計の針は反時計回りにグルグル回っていた。
「逢魔ヶ時ってやつが時間をチョコチョコいじってやがるんだ」
「それって人の名前?」
「人というか、殺し屋の名前だな」
「殺し屋なんか、本当にあるんだね」
ちょっと馬鹿にしていた
というか、この少年は年齢特有の悪に染まりたい気分でここにいるのだろう、と思っていた。
時計への細工も、よく出来たものだと思っていた。
しかし彼はそれを裏切るかのような物的証拠を僕に見せつけた。
「俺はな、身空シドって言うんだ」
そう言って彼は生身の腹を見せつけた。
傷傷傷傷傷、傷。『傷』
傷の上に傷。傷の間に傷。
傷で埋め尽くされていた。
そして腹を隠した彼は
僕の懐に入り、ぶすり
とやった。
僕にではない、僕の背後に忍び寄った影に刃物を突き刺した。
そして彼は耳元で呟いた。
「殺し屋一族、身空家の最後の一人だ
『血の世界』へようこそ」
時計の針は元の進み方に戻った。




