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血の世界   作者: 言乃 一字句
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赤い月

「ばか、貴方の事なんかもう大っ嫌い」

そう言い放ち、彼女は僕の頬を平手打ちして

僕の家から出ていってしまった。


後日、落ち着いて話をしようと

京都府京都市内のとある喫茶店に待ち合わせをした。

特に思い出もない喫茶店だ。

2人でお茶をしたこともないし、有名でもない。

むしろ、廃れきった喫茶店だ。

そこを話し合いの場所にした大層な理由などない。

互いの家に近い、ただそれだけの理由で選んだ。


結果は至ってシンプル。

『別れましょう』とのことだった。

『はい』と、答えて喫茶店を出た。

頼んだコーヒーはまだ、湯気を残していた。


別れた理由も、やはりそう大層ではないのだろう。

どこかのタイミングですれ違い、嫌いになっただけなのだと思う。

後悔は少しくらいはあるのだが

明日も仕事があるということで、そんなに思いつめては居られなかった。

明日も頑張ろう。

今の小学生でも出来そうなことを考えていた。


そのまま自宅に帰らずに、僕は電車に乗って宇治に向かった。

友人と飲みに行く約束を、別れを告げられた直後にした。

と言っても酒で女を忘れたい

とか思っているわけではない。

第一、お酒には強いほうじゃない。

家に帰ると一人、というのが辛いと思ったからだ。

26歳にして、随分な小心者だと思うと少し笑える。

とても笑えるような状態ではないが。


5時半くらいに喫茶店の近くのゲームセンターを出て

6時すぎに居酒屋についた。

友人の父が営んでいる居酒屋なので、成人してからはしょっちゅう来ている。

お金に困った頃には無理を言ってアルバイトもした。

友人はいつも通り暖かく迎えてくれた。

僕の表情でわかったのか、ふっと笑って肩を叩き

カウンター席に僕を案内した。

涙が出そうになったが、おしぼりで顔を拭いて誤魔化した。

烏龍茶だけをゆっくり飲み、いつも通り昔の話をした。

ほかに誘っていた友人もあとから2人きて、4人で馬鹿な話をした。


気づけば10時になっていた。


「そろそろ帰るよ」

と言って席を立った。

元気でな、とみんなから言われた。

「またすぐ会うんだろ」

と返して、暖簾をくぐった。

息が白くなっていた。


空を見上げると、月。

真っ赤な月が浮かんでいた。

周りの雰囲気に酔っていたのか

おかしいとは思わなかった。


駅につき、ホームのベンチに腰をかけた。

ふう、とため息をつき周りを見渡すと

ホームには自分しかいなかった。

また赤い月を見上げた。

世界に自分しかいないように思えた。


ホームの支柱の影で自分を見つめている人物が居るとも知らずに。

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