本能
その壁は何なのか
すぐに理解することができた。
「将棋の....コマ?」
シドはコマにナイフを深く突き刺していた。
抉るような角度で、人に刺されば致命傷
という角度で。
しかしその角度は木に刺すには向いてなかった。
木目の流れに逆らって突き刺してしまったので
まったく抜ける気配がない。
刺すときは勢いにまかせて刺せるのだが
抜くときにそのような勢いはない。
仕方なく、そのナイフは捨てることにした。
「ちっ、笑えねえ」
向こう側に移動しようにも
大きな邪魔、そして正体不明のスキルを警戒し
動くことさえできない。
しかも彼の周りには先ほど蹴飛ばしたはずの独楽が
またもや、無数に回っている。
「しかしまあ....弱っちいな」
と、シドは呟いて
巨大な将棋のコマに向かい合った。
ぐっと、両腕を後ろに引っ張った。
遊女はまんまと、クモの巣に引っかかった。
そう、何らかの力によって
コマに貼り付けにされてしまったのだ。
「なっ、なんだこれ!?」
何が起こったのか僕にもわからなかった。
ちゃんと、何で貼り付けにされているのか見てみると
ナイフだ。
ナイフは深々と木に突き刺さっていた。
「予め、ナイフに糸を括り着けてたんだよ」
貼り付けにされた獲物の前に
ゆっくりと歩いて出ながら、シドは説明した。
「こんなことがあろうかと?」
僕は聞いた。
単純な興味本位で。
「いーや、それは違うね」
これが殺し屋の《本能》なんだろうね
そう言った彼は
背中に殺気を放出していた。




