第九話:今北産業、再び
「ねえ! 今北産業!」
帰宅した瞬間、
半開きのドアからお姉さんが飛び出してきた。
「えっ?まだ何も言ってませんけど?」
「いいから!今日の学校生活を三行で!」
「雑だなぁ…」
俺はため息をついた。
「小テストがあって…」
「うん!」
「普通に疲れて…」
「うん!」
「今はとても眠いです…」
「学生生活の解像度が低い!!」
お姉さんが爆笑する。
「もっとこう! 青春イベントないの!?」
「毎日あるわけないでしょ」
「え~!つまんない!!」
不満そうに唇を尖らせるお姉さん。
今日は珍しく部屋着姿だった。
ゆるいパーカーに、
ラフにまとめた髪。
なんかいつもより距離感が近い。
「じゃあお姉さんはどうだったんですか?」
するとお姉さんは真顔になった。
「聞く?」
「はい」
「上司に“それ仕様ですか?”って聞かれて…」
「はい!」
「“仕様です”って答えたら…」
「はい!」
「バグだった…」
「うわぁ…」
「社会的死亡…」
壁に頭をゴンゴンと打ちつけるお姉さん。
「なんで確認しなかった私ーーー!!」
「痛い!痛い!痛い!痛いですって!!!痛いからやめてくださいって! 」
止めようとして腕を掴んだ瞬間。
お姉さんがぴたりと止まった。
「……」
「……あ」
近い。
めちゃくちゃ近い。
掴んだ腕、離せない。
「君…」
「は、はい」
「今、ちょっとドキッとした?」
「言わないでください!」
「しなかったの?」
「……したかもしれません」
お姉さんは数秒固まったあと、
急に顔を逸らした。
「それはダメ!」
「え?」
「不意打ちすぎる!!!」
耳が赤い。
この人でもこうなるんだ。
「……じゃあ、今日はもう閉廷! 解散! !」
「あっ逃げた!」
「sage! sage進行!」
「便利に使わないでください!」
そう言いながらドアを閉める直前、
お姉さんは小さく笑った。
「でも、今日の“今北産業”は当たり回だったかもね」
その言葉の意味を考えていたら、
また少しだけ心臓がうるさくなった。




