第十八話:ハッピー!ヤッピー!
マンションの階段を上がりきった瞬間、隣のドアが開いた。
「おかえり~。生存確認よろ~」
「ただいまです」
「君さぁ」
「はい?」
「将来はヤッピーになれるよ!」
「えっ?ヤッピーですか…?」
「そう!ヤッピー!」
「それって犬ですか?」
「えっ?なんで!?なんでそう思ったの?」
「なんか……『ヤッピー!』って鳴きそうで」
「なにそれ!都市伝説?現代妖怪?ネット怪異?怖~~~~~い!」
「違うんですか?」
「違う違う!全く違う!」
「ヤッピーっていうのはね…」
「はい!」
「都会でバリバリ働く若きエリートのことをいうの!
都会に住んで、知的専門職に就いて、高収入を得てる若者たちのことだよ!」
「へぇ……そうなんですか……」
「高収入でね!」
「はい!」
「ゼニアやジョルジオ・アルマーニ、キートンあたりの高級ブランドのスーツを着て!」
「はい?」
「ジョンロブやベルルッティの高級な靴を履いて!」
「はい?」
「ヴァレクストラやモラビトのブリーフケースを持って!」
「はい?なんか俗っぽいですね…」
「うるさい!良いの!雑誌にそう書いてあったの!だから良いの!」
「は、はい…」
「で!高層マンションに住んでいるの!」
「あっ!はい」
「当然、億ションね!きれいな夜景を見ながらワインを飲むの!」
「はい?」
「で!車はBMWね!」
「本当に俗っぽいですね…」
「つまり勝ち組!」
「でも…」
「ん?」
「それって本当に幸せなんですか?」
「……え?」
「どんなにお金持ちでも、仕事が忙しくて家族のところに帰れないなら、ちょっと大変そうですね……」
お姉さんが固まる。
「……君さぁ」
「はい?」
「たまに正論で殴ってくるよね」
「でも!」
お姉さんは人差し指を立てる。
「昔はね!」
「はい?」
「ヤッピーになるのが夢だった人も多かったの!」
「へぇ…そうなんですか…」
「高級ブランド物を持って、高級レストランで食事して、仕事も恋愛も充実!」
「すごいですね…」
「そう!凄かったの!キラキラだったの!」
「今でいうと……」
「そう!今でいうと意識高い系みたいな感じ!」
「なるほど……」
少し考える。
「じゃあ、すでにヤッピーなんじゃないですか??」
「え?なんで?」
「在宅で仕事してますし!」
「いやいや!」
「仕事できそうですし!」
「いやいやいや!」
「都会に住んでいますし!」
「ここって都会……かな?」
「すでに十分すごいと思います!尊敬できます!」
お姉さんの耳が赤くなる。
「でもブランド品とか興味なさそうですよね」
「うん……」
「高級車も興味ないですよね?」
「ない……」
「高層マンションも」
「ない……二階建てアパートで十分……」
「ですよね?」
「うん……」
少し寂しそうに笑った。
「だからすでに勝ち組だと思います!」
「えっ?」
「バリバリ仕事を頑張ってて!」
「えっ?」
「毎日楽しそうに過ごしていて!」
「えっ?」
「笑顔でみんなに元気を分けている!」
「えっ?」
「それって十分すごいと思います!」
あっ、完全にフリーズした……
「sage進行……」
「え?」
「HPゼロ……」
「え?」
「それ反則です……」
「何がですか?」
「そういう天然褒め攻撃!立ち直れなくなる!」
顔を真っ赤にして俯いている。
「じゃあ今日の結論!」
突然、顔を上げた。
「はい!決定!」
「はい?」
「ヤッピーどもより、君のほうが推せる!」
「意味が分かりません」
「私が分かればいいの!それでいいの!」




