↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/19

第十五話:推しキボンヌ

放課後。

夕陽が廊下をオレンジ色に染める中、鍵を取り出そうとした瞬間、

今日も隣のドアがすっと静かに開いた。


「おかえり〜。今日も生存確認よろ〜」


今日のお姉さんは、ゆるいネイビーのカットソーに白のロングスカート。

相変わらず見た目だけは完璧に綺麗な大人の女性だ。


しかし、どこで俺の帰宅確認をしているんだろう?

ずっと廊下を監視してるわけじゃないだろうな…

もしかしてGPSでも付けられている?


「……あ、ただいまです」

「ん〜?今日はなんか、いつもより疲れた顔してない?君、大丈夫?」


お姉さんは心配そうに眉を下げ、俺の顔を覗き込んできた。


「いや、ちょっと…」


「どうしたの?いじめられた?」


心配そうな顔で一歩、また一歩と距離を詰めてきた。

ふわりと、シャンプーのような甘い香りが鼻先をかすめる。近い。近すぎる。


「ちがいます!ただ、今日の体育の時間にシャトルランがあって、それで脚が……」


「シャトルラン!懐かしっ!青春の汗キタコレ!」


お姉さんは手を叩いて笑ったあと、急に真面目な顔になって俺の目をじっと見つめた。


「よし、決めた。そんなお疲れモードの君に、お姉さんからスペシャルな癒やしをプレゼントしちゃいます。」


「なんですか?」


お姉さんはニヤッと笑って、人差し指をクイッと曲げた。


「君のシャトルラン姿の画像キボンヌ!」


「は!?」


「体操着姿の画像キボンヌ!」


「撮ってませんよ!」


「え~!撮ってないの~!

だって青春でしょ~?

汗だくで走ってるDKでしょ~?

絶対尊いって!」


「撮ってませんって!」


「えー。じゃあ再現キボンヌ」


「再現!?」


「そう!今!ここで!シャトルラン!」


お姉さんが廊下を指さす。


「無理です!もう脚パンパンなんですって!」


「え~!」


「もう走れませんよ!」


「私のためだけに頑張れない?」


「無理ですって!」


「じゃあ仕方ないな…」


お姉さんは急にしょんぼりした顔になった。


「見たかったな…」


「え」


「君の頑張ってる姿を見たかったな~!って」


拗ねた顔が可愛い…

そんな顔で言われたら…


「……じゃ、じゃあ写真は無理ですけど!」


「うん」


「今日の体育のことを言葉で報告します。それで良いですか?」


「おっ。詳細キボンヌ!」


「詳細キボンヌ?」


「うん!kwsk!」


俺は観念して話した。


「今日のシャトルランの回数は、えっと……95回でした」


「おお!」


「クラスで3番目でした」


「おおお!」


「陸上部には負けてしまいましたが、部活に入っていない奴の中では一番でした。」


「おおおお!」


「マジに辛かったです!」


「おおおおお!偉い!頑張った!」


「最後の方は肺が死ぬかと思いました。」


「分かる。私も昔、体育で死にかけた!」


「どのくらい、走れたんですか?」


「40回もできなかった!君の半分以下!」


お姉さんがケラケラ笑う。

それから、ふと真顔になった。


「ねえ!聞いても良い?」


「はい?」


「走ってる時、何考えてたの?」


「え?」


「辛い時って、何か考えないと無理じゃん。詳細キボンヌ」


また来た。逃げられないやつ。


「……早く終わって!だけです」


「脚を止めれば終わるじゃん!」


「それはわかっているんですけど…」


「止められなかった?」


「はい…」


「負けたくなかった?」


「はい…」


「誰に?」


「…自分に」


「自分に負けない!究極の負けず嫌いだね!」


「うるさいです!」


お姉さんは腹を抱えて笑ったあと、満足そうにうなずいた。


「よし。画像キボンヌは失敗だけど、詳細キボンヌは大成功」


「そうですか?」


「うん!君の本当の心の声を聞けたから!」


「心の声?」


「うん!だから大成功!」


お姉さんはそう言って、部屋に戻ったと思ったらすぐに冷たいスポーツドリンクを出してきた。


「はい!ご苦労さん!」


「……ありがとうございます」


「君が頑張った記念。お疲れさま」


その一言が、スポーツドリンクより染みた。


「で」


「はい?」


「次回のシャトルランは、動画でうpキボンヌだからね!」


「写真じゃなくて動画ですか?」


「うん!今回は画像キボンヌが叶えられなかったから、次回は動画で!」


「でも次回って来年ですよ?シャトルランは体力測定の時だけですから!」


「雨で校庭が使えないときに体育館でやるでしょ?」


「確かにやるかもしれないですが…」


「先生に自分から『シャトルランやりたいです!』って言うの!」


「鬼ですか!?」


「大丈夫!君なら出来る!」


「それに誰に動画を撮ってもらうんですか?」


「友達に体育を見学してもらう!そしてスマホで撮ってもらう!」


「そんな無茶な!友達に悪いですよ!それに他の同級生も写っちゃいますって!」


「大丈夫!他の生徒に興味ないから!私は君が推しだから!」


お姉さんはウィンクしてドアを閉めた。


廊下に残された俺は、冷たいボトルを握りしめる。


「えっ?推し?俺が?」


顔がシャトルランの時より熱くなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。