第十四話:ギルティ! アウト! 逝ってよし!
「昔のネット詳しいですよね。もしかして、それもお姉さん世代ですか?」
いつものように2000年代、90年代のネットスラングの話を聞いていた時に、ふと尋ねてみた。
「うるさい!!!」
廊下に絶叫が響いた。
「また言った!また言った!違う!全然違う!私はそんなおばさんじゃない!!」
「すみません!」
「謝るな~!年齢イジるな~!デリケートなの~!!私はまだピチピチだから!!」
お姉さんは顔を真っ赤にして、廊下の壁に額をゴンゴンぶつけている。
「痛い!痛いですって!」
「うるさい!私の心が痛い!!
1回目のダメージは致命傷!
2回目のダメージは即死!
3回目のダメージは逝ってよし!
……もう私のライフはゼロなんだよ!!!」
やばい。またまた地雷踏んだ。
「痛い!痛いですって!」
「うるさい!私の心が痛い!完全に成仏した!」
次の瞬間にお姉さんが止まった。
動かない。
完全に止まった。動かない。
電池の切れた玩具のように
壊れたエアコンのように。
ピクリともしない。
「あっ!」
まずい。
「いや違うんです!おばさんなんて思っていませんよ!詳しいので凄いな~!って思っていたんです!」
お姉さんは少しビクッと動いたかと思ったら、
スローモーションかのようにゆっくり振り返った。
笑顔だった。
その笑顔が怖い。
ものすごーく怖い。
「言ったわね……」
「はい?」
「仏の顔も三度まで、って知ってる?」
「え?」
「1回目、許した」
人差し指を立てる。
少し震えていて、今にも突き付けられそうな勢いだ。
「2回目、耐えた」
中指も立てる。
「そして今!3回目!」
薬指も立てる。
「ギルティ!!!残念ながらアウトです!逝ってよし!」
「えっ?逝ってよし?」
お姉さんが顔を真っ赤にして、額をゴンゴンぶつけていた辺りを指差した。
「ここに書いてあります!三回目はギルティって!」
「何も無いですよ?えっ?赤いんですけど!怪我してません?」
「コレが見えないのですか?心の壁に書いてあるでしょ!魂の言葉が書いてあるでしょ!」
怖い。
マジにものすごーく怖い。
「いや違うんですって!年寄りって意味じゃなくて!」
お姉さんは大きく深呼吸をしてニコリと笑った。
口角が少し引き攣っているような気がするが…
「大丈夫。安心して!私は大人だから!」
どうやら大丈夫なようだ。
笑顔が怖いが…
「ね!二度あることは三度ある!って言うじゃない?」
なんだか嫌な予感がする…
「つまり君は四回目もやる!きっとやる!」
「えっ?そんな~!あまりにも飛躍してません?」
「三度目の正直!」
「えっ?何がですか」
「君は私をとんでもなく年上扱いしている」
「してませんって!少し年上だとは思っていますが……」
お姉さんはスマホを取り出した。
メモアプリを開こうとしているようだが、なかなか開けずモゾモゾしている。
怒りが収まってくれると良いのだが…
そんなことを思っていると開けたようだ
「タイトル!《年齢イジり記録》」
「えっ?」
「1回目!90年代ゲーム、第一級資料扱い!」
「えっ?」
「2回目!mixi、また第一級資料扱い!」
「第一級資料って何ですか!?人じゃなくて史料扱い!?それに記録してる?マジ怖い!」
「そして、さっきが3回目!」
指が止まる。
「これにて三冠達成!ハットトリック!」
「はあ?」
「つまり君は三回連続で私を古代遺跡扱いした」
「そんなつもりはないですって!」
「トリプル役満!」
「麻雀混ざってますよ!それにトリプルって!字一色・大三元・四暗刻でも上がったんですか?」
「問答無用!逃れらぬぞ!」
「え~~~!!!」
「ギルティ!!!アウト!!!ってことで逝ってよし!」
「えっ?逝ってよし?」
「……ハッ」
お姉さん、口を押さえる。
「オワタ……半年ROMるべきだった……」
「オワタ?ROM?」
「あっ」
お姉さんが再度固まった。
そして、お姉さんの顔がドンドン赤くなる。
「違う!!今の無し!!」
「えっ?」
「違うの!!違う!!口が滑っただけ!!」
そう言いながら、自室に飛び込んで、鍵をかけてしまった。
俺は閉まったドアを見つめた。
静かだった。
……と思った次の瞬間、
ドアの向こうから、小さく声が漏れた。
「……もうダメぽ」
沈黙。
俺は固まった。
数秒後。
スマホが鳴る。
『今のは黒歴史なのでログ削除希望』
『sage進行でお願いします』
俺は返信した。
『やはり詳しいですね!』
既読がついた。
……返ってこない。
10分経過…
20分経過…
30分経過…
1時間以上、返信は無かった。




