第六話 Mine & Mine
第六話 Mine & Mine
密閉された客間にてほぼ同時に、エリザベスとイアンは座る。アシュリーも続けて腰を下ろした。アシュリーが先導して左手をイアンへ向けた。
「イアン君。私の方で話を進めるね。」
イアンが頷いたらアシュリーによる他己紹介が始まる。
「陛下。改めて私から、彼はイアン君。王立魔法大学の文学部、古典魔法専攻のマスターです。話を色々聞いて要約すると、ウィリアムさんは自身で学会やら研究会を組織していたらしく、ウィリアムさんは古典魔法研究分野のプロフェッサー、陛下が良くお世話になった時は大学から離れてたらしく、教育課程が終了したタイミングで研究会に戻って色々指導していたそうです」
エリザベスは頷いた。
「なるほどね。アシュリー。朕とおっ…いやウィリアムとの関係は伝えてるの?」
「いえいえ。まだ軽くしか…」
アシュリーはイアンの方を向く。
「イアン君。陛下とウィリアムさんは陛下が十四の時に基礎魔法の理論を全属性実践段階まで教育されていて、実力はあなたの想像以上よ。陛下はウィリアムさんや魔法周りで色々気になっていて、三年前にお亡くなりになられたのを今でも惜しんでるの」
イアンはエリザベスに向き直って語り出した。
「なるほど。大体話は理解しました。つまり陛下はウィリアム先生が何を研究されているか、魔法分野の未解明な現象について知りたいのですね!」
「ええ。その通りよイアン君。さすが研究員は話が早いわ」
エリザベスは即答すると、アシュリーが場の仕切りを始める。
「陛下。ここまでで何か質問等ありますでしょうか?」
エリザベスは視線を上げる。
「よく大学の構造が良くわからないのだけど?王立魔法大学って名前は知ってるんだけど…学部?専攻?あと…マスターとか、教授とか…ごめんなさい。あまり詳しくなくって」
イアンはすぐに理解した。
「なるほどですね。ではざっくりと話をします」
レンズ越しに、説明が続く。
「一言で言うなら王立魔法大学は、近辺国家の中でも最も伝統のある格式の高い教育兼研究機関です。その大学の下の階層が学部って言います。兵士で例えるなら…兵士全員を大学と呼んで、将軍をトップにした集団を学部です。僕も全部は把握してないですけど…文学部、政治学部、歴史学部、法学部、自然科学部、天文学部…まだまだありますけどメジャーはそんなところです」
「ふむふむ」
二人が頷いて、それぞれイメージをしてイアンの話を噛み砕く。エリザベスは繋がりを理解しているが、アシュリーはそんなに賢くないが、理解しているフリをしているのがエリザベスから見てもあからさまである。
「学部の下の階層は専攻です。兵士で言うなら部隊です。僕の所属する文学部は基本的には国の言語についての研究や昔の古い言葉の解読です。色々あるんですけど僕の専攻は…古典魔法って呼ばれる昔の本の魔法書を解読して、魔法史が過去はどのような出来事があって今に至るのかを調べています」
「はいはい」
再び頷くて、イアンはトークを止めることなく。
「続いてマスターや教授ですけど、兵士で言うなら兵隊長とか、ナイトとか言うなれば位です。僕は下からバチェラー、マスター、ドクター、教授の二番目です。対するウィリアム先生はトップです。つまり先生は上司の認識で間違いないです」
エリザベスはソファに寄りかかる。
「なるほどね〜。やっぱ学生って頭いいなあ…」
エリザベスは姿勢を前屈みに修正した。ソファの縁に体重をかけ、視線を一点に固定する。
「意味はわかった。聞きたいのはさ?イアン君がやってる研究してるのって何よ?あとウィリアムがあなたに何を指導してたのよ?」
イアンはエリザベスの質問に答えた。
「そうですね。僕は古典魔法の中の呪文書の内容を解読して国民のみんなが使えるようにする研究?って感じです」
エリザベスは目を細めた。
「質問を変えるわ…イアン君が解読してる呪文書はいつの時代?」
エリザベスの顔を見てイアンは即答した。
「クエスト様の生まれたあたりの時代です。所謂古代ですよ」
エリザベスは背もたれに体を預けて、イアンに威圧して人差し指を向けた。
「はい不正解。大嘘つきっ!」
「ひぃぃっ…」
エリザベスは目を見開いた。
「イアン君。大学の話までは丁寧に話てたわよね?あなたみたいな賢い人って嘘をつく時はすぐ分かるの。あなた説明する時分かりやすく話すよう努力するでしょ?だけど研究内容を話す時、呪文書とは何なのか?解読するとはどうやって?クエスト様の時代の呪文って?賢い人って聞いてもないことを長々と話すのが大好きなの。何故なら私の師匠ウィリアムが話が長すぎて退屈だったから」
さらに前傾になる。
「あとウィリアムさんはクエスト様の時代は呪文の成立起源のあたり、その時代の呪文は解読不可と言ってるわ。よってあなたは嘘つき。」
間髪入れず、追い打ちをかけた。
「さあ…本当の研究内容について教えなさい。言えない事情でもあるのかしら??」
イアンの冷や汗が止まらない。腿の上に拳を置けば湿りだし、握りがより強くなっていく。
「へっ…へっ…陛下!嘘はつきました申し訳ないです!でも簡単に言えるものでもないんですっ!僕の研究って」
「陛下。イアン君困ってますよ?やめましょうよ問い詰めるの?」
アシュリーが割って入るが、エリザベスは止まらない。
「イアン君。言えない理由って能力魔法に関係してるからじゃないかしら??」
イアンの目が見開かれると小さく、周囲に聞こえない声で言う。
「どうして…能力魔法をご存知なんですか…そうですか…お願いです…ここだけの話って約束してもらえますか?」
「陛下。能力魔法って何でしょうか?」
「アシュリーは黙ってて!分かった...約束するからイアン君。あなたの本当の研究内容について教えて」
イアンは少し黙り込んだ。やがて、エリザベスの目を見て口を開いた。
「周りに聞こえないように二人だけに話します。僕の本当の研究内容は魔法史の中で歴史上解読できないと断定された神話や伝説の内容を能力魔法が原因であると仮定して、それらに登場する聖遺物の回収、および超常現象を魔法で再現可能であるか研究しています」
エリザベスの中で、点が線になる。背もたれに体を預け息を吐いた。
「なるほどね…やっぱりおっさんは能力魔法を研究してたわ。おっさんは知ってたんだろうねえ…」
エリザベスが続けて質問をした。彼には聞きたいことが山ほどあるのだ。
「ウィリアムさんが昔、宮殿に来てうちの書物を大学に持ち込みたいって希望して、それをアシュリーが許可したことがあるの。イアン君はそれについて何んでもいいから教えて」
「僕も先生ではないんで全ては分からないですけど。能力魔法使いは王族に多い傾向があるんですよ。一例ですが…書物の中にご先祖様が何の能力魔法が使えるかが書いてあったりする可能性はありますね…」
エリザベスは天井を見上げた。ウィリアムの行動が、すべて繋がる。
「これで最後だけど。どうしてあまり言いたくないの?ウィリアムも能力魔法については最後の最後しか教えてくれなかったの」
「実は…能力魔法の研究は国家から研究中止命令を何度も受けています。今も調査してはいけません。先生も僕も能力魔法の不可解な秘密を追い求める浪漫で研究してます。周りにはもちろん、ましてや宮殿で容易く言えるようなものではないです」
思考が網のように張り巡らされると過去の出来事の全てが繋がった。能力魔法には確実に我々王族が深く関わっており、エリザベスの知ってる範囲では父親は間違いなく何かを知っている。
「正直に話してくれて、本当にありがとう。私としてはもっとイアン君について知りたいわ。だけどここでは無理なのは十分理解したから、違うところで再会しましょう」
「では!王立魔法大学にお越しください!僕が案内します。大学でしたらいくらか安全ですのでいいかがでしょうか?」
エリザベスは即座に頷いた。
「ええ。朕がいつ参詣するかは後ほどアシュリー伝えでスケジュールを調整するわ。それまでに私に嘘を用意するのではなくて、正しい情報を提示できるように。これは命令よ」
「承知しました!それまでに準備して参ります」
エリザベスは立ち上がってアシュリーに告げる。
「アシュリー。イアン君を送り届けて。一番いいやつで」
「分かりました。すぐに」
エリザベスは扉を開け、客間を後にした。女王にはこれ以外にも大仕事がたくさんあるのだ。
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大廊下の高い天井に声が反響する中、イアンが何度も頭を下げていた。たくさんの人が頭を下げるイアンに何かがあるのだろうかと視線が集まる。
「申し訳ないです。アシュリーさん。陛下の前で嘘をつくなんて…」
「いいのよ!そんなんで怒る人じゃないから!あれパフォーマンスよっ!キャラよ!」
「申し訳ありませんでしたっ!」
「大丈夫よ!私あの人の継母なのっ!確定で怒ってません!嫌ってません!安心して次があるじゃない!」
「…そうですか。継母さんが言うなら信じます」
二人は中央のカーペットを並んで歩いていくと、足音だけが一定のリズムで続く。少し進んだところで、アシュリーが顔を寄せ、声を落とした。彼女は彼女なりイアンにかける言葉を考えた。
「ねえイアン君。反省してるならさ?私に能力魔法について教えてよ?」
「ダメですって!こんな場所で言える訳ないです!」
「あはははっ。冗談よ。あとであの人から聞くから!」
笑い声が廊下に溶けると、宮殿の玄関口が見えてくる?二人の後ろには、一定の距離を保ったまま兵士が二人ついていた。宮殿の玄関口にはもうすでに馬車が待ち伏せていた。
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岩が転がる採掘場。むき出しの地面に洞穴が点在し、夕暮れが近づくと、穴の奥から兵士たちが次々と姿を現す。洞穴の脇には白いテント、板を広げた簡易机の前に、鍛冶屋の坊主が立っていた。手には記録用のボードを抱え、机の前には、袋を抱えた兵士の長い列。
「次の方、袋の中の鉱石見せてください!」
兵士が袋を開けると坊主は中から鉱石を取り出し、一つずつ指で転がす。粒は細かく手やピッケルで掘った岩ではない。小僧にはお見通しなので、眉がわずかに歪む。
「すみません。爆発系の魔法使いましたよね?バレないと思ってます?」
兵士の肩が跳ねた、楽勝と働いたのが小僧にバレているのである。
「はあ…あの。爆発系はダメって言いましたよね?効率が良いのは分かりますけどルールはきちんと守りましょう。」
「そんなあ…飯なしか…」
補佐が袋を受け取ると兵士は視線を落としたまま、列を外れた。次の兵士が袋を開けたまま準備をしている。
「次の方、袋の中を見せてください!」
次の兵士が袋を開くと、袋の中を取り出して坊主は同じように鉱石を確認する。今度は粒が大きい。削りも揃っている。
「いいですね。合格です。量も多いのでボーナス出ますよ」
「よしよし!」
補佐が袋を預かると兵士は拳を握り、列を抜けた。
次の兵士が袋を開けて準備をしている...
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洞穴のそばのログハウスには坊主は椅子に腰掛け、紙に今日の記録を黒鉛を持ってツラツラと書き続けていた。坊主が描くことに集中しているとその前に、誰かがテーブルに籠を置いたようだ。それでも坊主は籠に気づかないので、誰かが坊主に話しかけて来た。
「お疲れ様。我々からの差し入れだ」
籠の中には、りんごと白いパンが二つずつ。籠から顔を上げると、ログハウスの扉前にはロバートが立っていた。
「ロバート様。お疲れ様です。ありがとうございます。白いの初めて見ました」
「いえいえ俺は何も出来ず…人の様子を見るのが仕事なんで。あとそれはパンと言うんだ。黒パンとは違うんだ...食べてみなさい」
ロバートは外の採掘場に目を向けたまま、口を開く。
「さっき裏から見てたんだが…爆発系の基礎魔法は何故使ってはいけないんだ?鉱石を効率よく採取できるならそっちの方がよいのでは?」
坊主はゴーグルを外し、机に置いてロバートに目線を向けた。
「その通りです。効率が良いのは間違いはないです。ですが粒の大きい鉱石の中にエメラルドやルビーっていった高価な宝石が大粒で眠ってることがあるんです!僕らは正直言っていらないんでゴミですけど、あなた達が宝石を欲しがりますよね?兵士の皆様が採取してるのであなた達のものです」
「いやあ…君良くできた子だねえ…その年でそこまで考えるなんて…おっちゃんに教えてもらったの?」
「いいえ。親方からいつも怒鳴られるんです。まずお客様の立場を理解して、お客様が欲しいものを想定して一つ一つ叩いていけって。まずそれが商売の基本だって…」
ロバートは感心したように息を吐く。
「いやあ…兄貴分は何も言うことないよ。親方にいつも怒られてるから心配してたんよ。はあ…立派だねえ」
「君は10年後とか将来って決まってるの?」
「はい!親方から独立しようかなって思ってます!まあ…現実は支店だと思いますけどね…へへへっ」
ロバートは言葉を失ったまま、ただ頷くしかなかった。坊主は口を開くのを止めると再びゴーグルを装着して作業を再開した。坊主は早く作業を終えたいのか、ロバートもそれを察知してこれ以上話しかけるのはやめた。
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白く巨大な二本の塔が空へ向かって聳え立つレイトンの大寺院は、真っ暗闇に存在していた。暗くても何も見えない空間にただ一人、カンテラを持っているのはエリザベス。床を頼りにして寺院の最奥を目指してゆっくりと歩き続けた。やがて突き当たりまでぶつかると石碑の前にカンテラを置き、文字を照らした。
「メアxxx」
途中が赤く塗り潰され墓を囲うように、トマトとニンニクが散らばっていた。屋内で多分トマトが投げられたのだろう。壁一面に血みたいに赤黒垂れる液体がばら撒かれていた。まるでここで人が殺されたみたいである。エリザベスは息を吐いて、棺の中に語りかけた。
「はあ…お姉ちゃん大丈夫??」
しゃがみ込み、トマトとニンニクを拾い上げる。さらに掌から水を噴射すると、石碑の赤は流れ落ち石肌が元の色を取り戻した。壁や柱をゴシゴシ吹いていきトマトで潰された文字が浮かび上がって来た。棺の前に置かれたニンニクの輪っかは中に入って回収した。彼女を吸血鬼でも言いたいのだろうか。
エリザベスは壁一面を白く綺麗にすると黒いパンジーを一輪、石碑に添えた。そして棺の彼女に語りかけた。
「お姉ちゃんって赤より黒が好きでしょ?本気の喧嘩の時赤よりも黒って見た目だったよ」
「鮮血より漆黒のメアリーの方がかっこよくない?」
胸に手を当てたその時に、壁から反射して思ったよりも離れて後ろから声が聞こえる。いつもの馴染みがある声だ。
「ベス〜そろそろ行くわよ!」
声が寺院の中で響いて何度も何度も反響している。
「うん!今行く!」
エリザベスはカンテラを手に取り、棺と石碑から離れていった。
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窓辺に立つ彼女がいる。月光が硝子に反射し、蒼い眼が静かに輝いていた。彼女は窓を見つめ光る星々を一つ二つ三つと数えているようだ。すると後ろから声が聞こえて来る。彼が帰ってきたみたいと予想した。
「おお!暗い部屋で暖炉はつけなよ!肌寒いだろ」
ロバートの声。彼女は振り返り、そのまま近づく。声を頼りにその方向へ裸足でふらふらと位置を推測して音を立てて移動すると、明かりの方にロバートを発見。
「また寂しくなったのか。まったく何歳だよ〜」
「今は22です。18には帰るようにしてください」
彼女はロバートを強く抱きしめた。柔らかなレースが
静かに胸に触れ、彼の体に当たっている。ロバートは彼女の頭を撫でるのに夢中であるが、少し柔らかさに興奮気味になっている。
「すまない。今日は前言った鉱石の採掘現場に行ったんだ。そこそこ遠くて大変だったんだ。少しは理解してほい…俺だって早く君に会いたいよ」
「もうすこし…あなたの上司に相談してみては?」
「ああ…相談は…まあ…してみるよ」
彼女はロバートの手を引き、彼女に導かれるように広間へと向かった。彼女は寂しかった時間の分だけ、今日の夜は彼と一緒にいたいと言うんばかりに、少し不機嫌な顔をしているが、そんな彼女の姿を愛おしく思うのはきっと馬鹿なのだろうと思っているのが一番夫である。




