第三話 Craziness, CHaos, HipHop, Hardcore Humanity, Original History
第三話 Craziness, CHaos, HipHop, Hardcore Humanity, Original History
溶けた髪が、白いシーツの上に広がっていた。三日月の淡い光が窓から差し込み、寝室を静かに照射。エリザベスはベッドの上で、仰向けのまま動かなかった。片手で顔を覆い、呼吸だけがゆっくりと上下している。考えすぎである。分かってはいたが、頭は止まず反芻していた。突然ガチャ、と扉が開く音。
「よいしょ〜」
間の抜けた声が部屋に落ちる。それでもエリザベスは顔を伏せたまま、返事をしなかった。体が完全に硬直し切っている。
「ベス。夜に仕事を持ち込んじゃダメよ。ワイン持ってきたから開けましょうね!ね?」
「…アシュリー。今はワインって気分じゃあ…」
弱々しくそう返すと、背後で木箱が開く音がした。チェストからグラスが取り出され、金属が触れ合う乾いた音が続く。アシュリーは迷いなくボトルを取り出し、コルクに棒を差し込んだ。ぐるぐると回し、引き抜く。
ポンッ...
トクトクトクトク…
赤い液体が二つグラスを満たした。エリザベスはグラスの方など見向きもしない。
「嫌なことはとりあえず忘れましょうね!ほらっ!」
「今は...そう言う気分じゃないんだって...」
「いいから〜いいから〜」
「ああ...ダルいって...」
次の瞬間、エリザベスの両腕が掴まれた。顔を隠したままの彼女を、アシュリーは強引に引き起こす。背中から肩を押され、無理やり座らされる。抗議する気力も、もうなかった。
⸻
「アシュリー♪ うへへへへへ〜マジ面白いっ」
いつの間にか、部屋の空気は完全に変わっていた。カーペットの上には何本もの空きボトルが転がり、二人で半分以上は飲んだらしい。踏みつけそうで心配である。エリザベスは手を叩いて笑っている。頬は赤く、目はとろんとしていた。完全に間抜けで浮かれている。
「大人っていいね!育ての親と飲むの面白いわ♪」
「あはははは!ベス」
アシュリーは何度もエリザベスの腕に触れ、軽く揺すっている。
「近すぎなんだよおくさ〜ま。な〜に未婚の小娘みたいな動きしてんだよ♪何歳だ〜よ」
「あははははっ!!未婚のあんたに言われたくないわ」
「誰が結婚できないですって?女王である私をイジるんですか??不敬罪っ!!...んへへへへへへへっ」
二人は顔を真っ赤にし、距離感など完全に忘れて戯れていた。やがてエリザベスがアシュリーの肩を組み、妙に真面目な声を出す。
「アシュリーちゃん。これは勅命で〜す♪」
「えへへへへっ」
「エリちゃんにずっと黙ってた秘密を言いなさ〜い♪」
肩を揺らしながら、楽しそうに続ける。
「エリちゃんってあのクソ顎の言いか」
「そんなやつ知りません〜!!は〜い 言いましょ〜ね!言わなかったら、国家転覆罪で処刑しま〜す♪」
「それはあんたのお姉ちゃんでしょっ!!」
「うううへへへへへへへへっっっ」
笑いながら、しかしアシュリーはふと息を整え、声を落とした。
「じゃあ……ベスに黙ってた、聞きたい? 私の武勇伝」
「武勇伝!武勇伝!武勇でんでんでんでんでん Let’s Go!!」
リズムを刻むエリザベスに、アシュリーも合わせる。
「私が7か8の頃…」
「うおおおおおおっ」
「実は…」
「うおおおおおっ!!」
「小さな屋敷で闇魔術を研究してましたっ!!」
二人は同時にグラスを合わせ、一気に煽る。
「それは死んだウィリアムおっさんやないかあいっ!!」
チリンッ。
うっ、うっ、うっ…
「ぷはあっ」
「それはおっさんだよ! 絶対あいつやってるから、見るからに隠し事してるやん〜」
天井を見上げ、二人は手を叩いて大笑いする。
「アシュリー それ本当なん?? 闇魔術って」
「ええ〜本当よ♪ 一人家出して、誰も住んでないって分かってたオンボロの屋敷を不法占拠してたわよ〜♪」
「お姉さん悪だねえ…はい斬首刑っ!!」
「あははははははっ!!よもやよもや〜!!」
アシュリーの手から火がボワッと放出された。
「やめてください!!煉獄はこの宮殿では禁止で〜す」
笑いながら、エリザベスはさらに身を寄せる。
「それでそれで?」
「私、昔はもっと友達いなくて引っ込み思案だったのよ? 一人で屋敷に引きこもって…まあ正確に言うと、一人ではあったけど孤独では無かったのよ」
「なぜなぜ?Question?」
アシュリーは一瞬、言葉を濁した。
「これ言って良いのかなあ…」
エリザベスは急に真顔になり、アシュリーを見つめる。
「これは命令です。子供に秘密を言いなさい」
「…今は絶対ダメだけど…昔、レッドっていうぷかぷか浮く小さい悪魔を連れてたのっ!! 絶対言わないでよっ! バレたら捕まるからっ!!」
エリザベスが顔の前をブンブンと手を振る。
「言えるわけないですっ! 天国のお姉様にガチでキレられますからっ...あんたのその発言多分...クエスト教の人的に回してるから」
勢いづいたアシュリーは止まらない。
「これも言っちゃダメだけどっ! ...体系魔法って今じゃ使ったら犯罪の魔法多くてっ!...昔、人間をベーグルに変えちゃう魔法とか覚えてたのっ! あとは…箒に乗って空も飛べるわ。ちなみにそれも違法で何度も逮捕されてるし〜私こう見ても結構ギャルいって言うか〜♪マジパナいでしょ」
「いや〜それはギャルじゃなくてバッドガールですね!は〜い♪ 斬首刑で〜す♪ レイトン島でスローライフしてくださあい! あつまれっ! 囚人の檻っ!!」
「あははははははっ♪スローライフしてビーンズ噛み締めたのはあんたじゃない??...ベスって言葉選び面白いわね♪」
「それ以上言ったら、地面にタネを巻いてお尻を出れなくしま〜す♪」
「種を巻くのは変な恰好したあの植物女じゃないっ!!あはははははっ!!...ああ!そう言えば昔は研究でマxxxナも栽培してたわ〜よ。使ったこと?そりゃ〜あ」
「ダメダメダメそれ以上言っちゃ〜アシュリーそれでも人妻だから...ダメ絶対」
二人は何度も体を寄せ、触れ合い、笑い続けたその瞬間。
「Do you smoke? Gals...」
チャンチャン...チャチャチャン...チャチャン...チャチャチャチャン...
二人がその声に振り向くと目の前にいたのは紺の上下服に背の高いサングラスをかけた老爺である。三つ編みの髪をちらつかせていた。窓も扉も閉まり切っているはずなのに何故ここにいるか。
「Can't stop, won't stop. That's just how weed is. You feel me, sis?」
「分かってるじゃな〜い♪おじさまはどちら様かしら♡」
「I'm just an old head who loves weed. Hit me up if you're down. Later...Huhuh...」
老爺の体が白い煙に包まれると、一瞬で姿を消していなくなってしまった。そして何事もなくエリザベスとアシュリーは取り残された。
「エホッ...エホッ...エホッ...あのお爺ちゃん臭すぎ〜♪ウィリアムと同じ匂いがしたんだけど〜しかも消えたし〜ウケるううっ!!」
「あはははははっ!!絶対妖精だよっ!!マxxxナの〜♪♪♪」
悲しかったはずの夜は、いつの間にか笑い声に塗り替えられていた。ワインの瓶が空になるたび、時間の感覚も薄れていく。エリザベスは黙って天井を向いていたことなんてすっかり忘れていた。空が若干明るくなって来た気がするが、多分気のせいである。
⸻
エリザベスは、短く息を吸い込んで目を覚ました。
「はっ!!」
天井がやけに明るく、青空が白い波を立てる。空を飛び交う白い点。昨夜の記憶が、頭の奥でまだ絡まっている。ゆっくりと首を左に向けると、そこにはアシュリーがいた。大の字になり、完全に無防備な姿で眠っている。胸元がはだけており、白い素肌とエリザベスと家族しか知らない胸のホクロさえ。キングサイズのベッドを、我が物顔で占拠していた。
エリザベスは、アシュリーの襟元を正してあげた。そして腰を抑えながら、ゆっくりと腹に筋を立たせた。
「うわ…これ気分が悪いやつだ」
声に出した瞬間、頭の奥がズキリと脈打つ。昨夜のワインが、容赦なく残っていた。吐く息がわずかに冷たくなっていく。腰を抱えながら体を起こそうとすると、視界がふらついた。片手で額を押さえながら、なんとかベッドから降りる。足元がおぼつかないまま、椅子に腰を下ろした。
「はあ…きつい…」
背中を丸め、深く息を吐く。窓からは朝の日光が差し込み、白いカーテンを透かして部屋を照らしていた。小鳥の囀り、木の葉のざわめき、屋根の向こうで羽ばたく鳩の影。昨夜とは打って変わって、穏やかすぎる朝だった。
エリザベスはぼんやりと前を見て、テーブルに目を向ける。赤い水たまり、乾ききっていないワインが、まだ残っていた。無意識にベッドから身を乗り出した。
ガンッ
「痛っ…」
額に鈍い衝撃が走り、思わず声が漏れ、目を閉じた。背後では、アシュリーが寝返りを打つ。相変わらず、ベッドの中央を独占したままだ。エリザベスは落ちていたボトルに激突した。白い絨毯は赤い液体で台無しにし、片付ける侍女の負担を増やしていった。刹那エリザベスは、急に口元を押さえた。
「うっ!!」
胃の奥が、強く主張する。考えるより先に、体が反応した。椅子を蹴るように立ち上がり、よろめきながら部屋を飛び出す。
⸻
「はあ…はあ…はあ…」
廊下に出た瞬間、冷たい空気が頬を撫でた。それでも、足取りはふらふらと定まらず。壁に手をつきながら、なんとか前へ進む。
ガンッ!
右足の支えが崩れ、体が右へと傾いた。咄嗟に右手を突き出し、大理石の柱に体重を預ける。ひやりとした感触が、掌に伝わった。まともに正面が見えていない。目を開いているにも関わらず。
「大丈夫でしょうか?陛下?」
すれ違った侍女が、足を止めて声をかける。その顔には、はっきりと心配の色が浮かんでいた。エリザベスは一瞬だけ視線を上げ、すぐに逸らす。
「…大丈夫よ。お気遣いありがとう…」
言葉とは裏腹に、膝はまだ震えている。だが、そこは女王である?歯を食いしばり、力を踏み締め。曲げた膝をゆっくりと伸ばし何事もなかったように姿勢を正す。エリザベスは再び歩き出し、廊下の奥へと進んでいった。
⸻
エリザベスは実務室のデスクで、完全に頭を伏せていた。冷たい木材に額をぴたりと押し当て、身動き一つしない。デスクの隣には、ペパーミントのハーブティーが置かれている。湯気が細く立ち上り、清涼な香りだけが静かに漂っていた。
「ベス?ハーブティーを置いたから必ず飲みなよ??」
背後から聞こえる声にも、エリザベスはすぐに反応しなかった。少し間を置いて、伏せたまま低く呟く。
「…アシュリーは何でピンピンなんだよ。私より飲んでたよね?」
アシュリーは困ったように首を傾げる。
「私にもそれは分からないわよ?とりあえずほら!飲んで飲んでっ!」
エリザベスはゆっくりと体を起こした。視界が揺れ、眉を寄せながらカップを手に取る。一口喉へ流し込む。温かさが腹の奥に落ち、ほんのわずかだが楽に。そのまま再び、額を机に戻した。
「ポットも置いていくわ。無くなったらリモコンで呼んでちょうだいね!すぐ行くからっ!」
バンッ!
足音が遠ざかり、扉が閉まる。エリザベスは、顔を伏せたままずっと動かなかった。
⸻
ポットから湯気が出なくなった頃、腹の奥でぐるりと嫌な音が鳴った。その瞬間、頭の中を支配していた重さが、すっと引いていく。エリザベスは顔を上げた。額は赤くなっている。
冷え切ったポットを手に取り、火属性の熱魔法をかける。
注ぎ口から湯気が立ち上り、室内に香りが広がった。一杯、二杯、最後に残りを三杯目。舌が焼けるように痛むが、味は不思議と美味しかった。エリザベスは、わずかだが確実に正気を取り戻す。
コンコン...
「セシルです。頼まれていた件についてまとめましたので…」
「うえええええ...」
エリザベスは情けなく肯定しているか、否定しているか分からない鳴き声を放った。
「陛下...大丈夫でしょうか?」
「いいいい〜よ...はいっうえええ」
「失礼致します」
ガチャ...
扉が開き、セシルが姿を現す。瞬間に元気なふりをして起き上がり彼女は何事もない顔でケロッと立ち上がる。今日は暗めの緑の装束を身にまとっていた。
⸻
セシルは束になった資料を差し出す。
「こちらがユニバックとレジスタントの資料になります」
エリザベスは厚みを見て、眉をひそめる。
「多いな…少し時間頂戴!」
「はい。当方はいくらでもお待ちしてます」
エリザベスは資料を手に取り、集中して読み始めた。セシルを厚い本を広げ、熱心に法について学習していた。
時間が経ち、短針が十一から三を指した頃、最後のページを閉じる。セシルはタイミングを見計らって口を開く。
「読み終えられたと思いますので、説明されて頂きます」
「いいわよ」
「今から四、五十年前くらいにルターという男によって起こされた宗教改革運動がレジスタントの起源だとされています。それまでは伝統的なユニバックが主体でした」
エリザベスは少し考えてから、素直に口を開く。
「ごめん…私ユニバックもよく分かってないのよね…私レジスタントだからさあ…定期的に拝んでいればいいのでは?って思っちゃうのよね…私感覚間違ってない?」
「いいえ。それはレジスタントであればそう感じるのが普通です」
セシルは一度区切り、話題を切り替えた。
「陛下はクエスト様の話はご存知でしょうか?」
「まあ…あれは常識というか一般教養じゃない?」
「軽く要点だけ…クエスト様は十字架に貼り付け後、わずかだけ復活して弟子たちに自身の考えを広めるように伝えたとされています」
「所謂、最後の晩餐ってやつね」
セシルは頷く。
「はい。今残っている聖書と呼ばれるものは代々その弟子たちが考えを継承していって現在に至るのがユニバックとされています。ここまではお分かり頂けましたでしょうか?」
「そこはまあ…知ってる」
「では次に行きますね。だが現実問題教えを広める活動だけではお金を稼いだり、生活をするのは困難でした。何故なら教えだけでは食べ物を生み出せないからです」
「そのため教義を布教するのと同時に信者から食べ物や資金を恵んでもらおうと仕組みを作り上げました。それがいつしか時代が経つにつれて組織になり、組織と組織が組み合わさったりして、現在は皇王の国にいる教皇を頂点とした、下の階層に行くにつれて、身分が弱く、数が多くなる構造の巨大な組織が作りだされました。これが現在のユニバックであり、クエスト教の歴史でもあります」
エリザベスは腕を組む。
「なんとなくユニバックは分かった…んで何でレジスタントがあるのよ?レジスタントとユニバックの違いは?」
セシルの目がわずかに開く。
「良い質問です!当時ルターは週末にミサへ通うことに違和感を持ったとされています。何故なら聖書を読めば読むほど、クエスト様の時代は生活するのが困難な貧民を救うための教えなのにも関わらず、教会で行われているのは貴族や地主達から援助してもらう言わばビジネスと化していたからです」
「そこでルターは本来の在り方である、貧しい民を救済させるためのルールを作りました。それがレジスタントです。レジスタントの教義の根本は個人の信仰の自由であり、忙しくて参加できない時は礼拝だけで構いませんし、教会の伝統的なミサなどのルールや縛りなどもありません。支援がしたい人が個人で支援するものです。さらに地域によって教えも違くて、所謂ローカルルールがあります」
エリザベスは深く頷く。
「なるほどねえ…つまり私はレジスタントだからこそ、教会に行って儀式に参加しなさい的な縛りが一切ないから、拝んでればいつでもいいでしょ?って気持ちなのか」
「はい仰る通りです。陛下のお姉様は、陛下も含めて個人の自由を完全に無視して、教会に来いと強制していたのです。そして言うことを聞かない者は異端、言い換えると愚か者として次々と処刑していったのがお姉様です」
エリザベスは、思わず口を開けたまま固まった。あまりにも整理された説明に、反論の余地がなかった。
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エリザベスは、机の上に広げた資料に再び目を落としていた。一度読み終えたはずの文字を、今度はゆっくりとなぞる。決断の直前、人はもう一度だけ確かめたくなるものだ。少し距離を置って待っていたセシルが、頃合いを見て視線を合わせた。
「では、エリザベス様、国教会の方針はどちらに致しましょうか?それとも情報が不足しておりましたら何なりと申し付け下さい」
エリザベスは顎に右手を添え、椅子の背に体重を預ける。
天井を見上げるわけでもなく、ただ一点を見つめたまま、深く思考に沈んだ。
「うーん…まあ…こうしかないよね…」
短く息を吐き、そして顔を上げる。
「決めたわ。レジスタントにする!民衆だって忙しい日や、お金に余裕がない人は信仰よりも生活の方が大事でしょ!そして我が国は今お金が無くて、困ってるんだから教会に全部吸い取られたら国が崩壊するわ。そして行き着く先が皇王の国。どう考えたって不利じゃない!」
感情ではなく理屈。理想ではなく現実。セシルは一瞬だけ目を伏せ、それから静かに頷いた。
「流石です陛下。その答えをお待ちしておりました。」
彼はすぐに次の段取りへと思考を切り替える。
「では議員を招集し、来週中には議会を開きましょう。それまでに我々はハワードを何とかせねばなりません」
「そうね。セシルの言う通りだわ。やって見せないと」
セシルは立ち上がり、衣擦れの音を残しながら扉へ向かう。
「失礼致しました」
ガチャ...
扉が閉まった瞬間、張り詰めていた空気が抜け落ちた。
「はあ…」
エリザベスはデスクに肘をつき、そのまま額を落とす。
決断の疲労と、まだ抜けきらない二日酔いが同時に押し寄せる。情けない自分の姿に自分で自分のことを悔やむ。
「朝よりは…よくなったけど…ううっ...」
そのときだった。
コンコン。
「はーい…だあれ...」
世にも情けない声で返す。
「アシュリーよ。呼ばれてないけどチャバで来たわ!」
「いいいいよお...入ってえ…」
扉が開き、アシュリーがいつもの調子で入ってくる。
⸻
アシュリーはエリザベスの前に新しいカップを置くと、ポットを傾けた。淡い緑色の液体が静かに注がれ、湯気とともに独特な香りが立ち上る。エリザベスは半目のまま、その香りをぼんやりと吸い込んだ。
「これはミルクシスルよ。飲み過ぎに良く効くって昔から言われてるのよ」
「そう言えばアシュリーはどうして…昔からハーブに詳しい…あっ…」
エリザベスの中で、何かが繋がりかける。アシュリーは、まるで独り言のように呟いた。
「そうね…竈の中に小さい頃は色々突っ込んでたかしらかもね?ドクダミに、魚のはらわた、石竜子の尻尾に、人骨、仕上げに悪魔を丸ごと突っ込んだり…」
エリザベスの背筋が、ゆっくりと冷えていく。
「アシュリー…もしかしてだけど相棒のレッドって…」
「あら?覚えてたの?…さすがにレッドは突っ込んでないわよ。まあ基本的に私に敵対する悪魔のお仕置きを兼ねてよ」
「…」
一拍遅れて、言葉が落ちる。
「あれ…本当だったんっすね…」
アシュリーは冗談でも、誇張でもなく終始、真顔。ただ事実を並べているだけの顔。エリザベスは椅子に座ったまま、わずかに身を引いた。逃げ場なんてない。室内には、ミルクシスルティーの湯気だけが、静かに揺れていた。




