↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ELIZABETH Magical Kingdom  作者: せっきー
第一章 女王誕生篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/38

第二十二話 ELIZABETH

第二十二話 ELIZABETH


次の日も、その次の日も、エリザベスはアシュリーと連れ立って宮殿に顔を出し続けた。

だが、メアリーが子を産むことはなかった。


痛みを訴え、侍女たちが慌ただしく駆け回り、期待と不安が入り混じった空気が何度も張り詰める。

しかし、何日経っても結果は同じだった。


――想像妊娠。


事実が静かに広がるにつれ、侍女たちは深い悲しみに沈んでいった。

一方で、フェリペだけは何一つ変わらない。

いつも通り、柔らかな笑みを浮かべたまま、何も感じていないかのように振る舞っていた。


そして、最も複雑な心境に置き去りにされた彼女は、再び幽閉された屋敷に戻っていた。


⸻


静かな部屋で、エリザベスは一冊の本を手にしていた。

文字を追ってはいるが、内容は頭に入ってこない。


そこへ、控えめなノックが響く。


「エリザベス様。すみません。お時間、少し頂いてもよろしいでしょうか」


顔を上げると、アンソニーの屋敷から派遣された執事が立っていた。

エリザベスは軽く会釈をする。


「わざわざ。どうも」


「一応ではございますが……メアリー様は、お子さまを産む可能性はないと」


「結局、あれは何だったんだろうね。意味がわからない」


二人の間に、同時に呆れたような沈黙が落ちる。


執事は一度言葉を切り、声を落とした。


「……この話は、業務とは一切関係ございませんが」


「なに?」


「街で、あなたの名前を叫んで暴動が起きています。

もしかすると、メアリー様への非難が――」


エリザベスは、勢いよく本を閉じ、立ち上がった。


「それはまずいっ!!」


「……どうしてでしょうか?」


「私の名前で民衆が暴れたら、

それって、私がお姉様に向かって暴れてるみたいじゃない!!」


椅子から立ち上がり、袖を捲る。


「執事さん。アンソニーには、

“私は今アシュリーの屋敷で子どもの面倒を見ている”って伝えて!!

約束破ったら……アンソニーに、私の服にワインこぼしたこと言うからっ!!」


執事は一瞬だけ目を見開き、苦笑した。


「あの件……根にお持ちだったのですね。承知しました。必ず」


エリザベスはそれ以上何も言わず、手ぶらのまま部屋を出ていった。


⸻


馬車を降りた瞬間、懐かしくも痛ましい光景が広がった。


そこは、かつてジョンと初めて出会ったストリートだった。

街はさらに荒れ果てている。


木造の建物が並んでいた場所は、今では緑に覆われ、

白く変色した煉瓦は崩れ、もはや建物の形を保っていない。

剥がれた石の隙間から雑草が伸び、地面を押し上げ、ひび割れを作っていた。


周囲を見渡すと、民衆が棒状の武器を手に、宮殿へと押し寄せている。


火炎の樽。

水球を操る鍬。

麻痺を与える箒。

黒曜石を砕く金槌。


生活用具が、基礎魔法を操る兵士たちを次々となぎ倒していく。


「鮮血のメアリーが死ねええ!!」

「国教会は滅びろおお!!」

「エリザベス様こそ! 真の女王だ!!」

「エリザベス! エリザベス!」


民衆は統率など取れていなかった。

それでも、前に進んでいた。


「鮮血のメアリーは、国を破壊した女王だ!」


誰かが桶に溜めた水を地面にぶちまけ、

別の誰かがそれを凍らせて兵士の足を止める。

滑って転んだ兵士に、今度は煉瓦を砕いた石片が雨のように降り注いだ。


「黙って死ねって国法なら、そんな国いらねえ!!」


火を扱える者は、たいした威力もない炎を松明に移し、

ただ明かりとして、ただ威圧として掲げる。

その炎に驚いた軍馬が暴れ、隊列が乱れる。


「エリザベス様は逃げなかった!一人で立ってた!!」


箒に風を纏わせて振り回す者、

鍬に土を絡めて突き出す者、

壺を割って中の油に火をつける者。


「この国は間違ってる!だから今、壊すんだ!!」


どれも兵士を一撃で倒せるほどの魔法ではない。

だが、足を止めるには十分だった。


「あの女の勅命で、何人死んだと思ってる!!」


兵士たちは基礎魔法で応戦するが、

守るべき宮殿の壁を壊すわけにもいかず、

人を殺す決断もできず、後手に回る。


男たちがせめぎ合う中、混沌の中で叫ぶ民衆の声


「女王様は、私たちの暮らしを一度でも見たことあるの!?」

「ママ、こわいよ……帰りたい……」

「ユニバックは誰の味方なの!?王家?それとも私たち!?」

「たすけてよおおお!たすけてよおおお!」


エリザベスは両手で頭を抱え、耳を塞いだ。


「……こんなんじゃないよ」

「こんなんじゃないよ」

「こんなんじゃないよっ!!」


声が震える。


「あああああ……これじゃ……これじゃあっ……」

「私たちの国が……終わる……」


民衆が悪いわけじゃない。

悪いのは、すべてすべてすべてメアリーだ。


けれど、民衆が暴れれば国はもたない。

それを見たメアリーは、さらに人を殺す。

そしてまた、民衆が暴れ出す。


破滅と悲劇の輪廻。

地獄の秒針が、止まることなく回り続ける。


――それを食い止められるのは、この時代に、ただ一人。


「……そうだよ」


エリザベスは、胸の奥に沈んでいた記憶を引き上げる。


「……もっと、思い出せ」


記憶の断片が、次々と浮かび上がる。


『姉さんを止められるのは、お前だけだ』

(ロバート……)


『お姉さんの暴走を止められるのは、あなたしかいないんです』

(ジョン……お姉さん……)


『姉が嫌がることを全力で叩き込めっ!!』

(おっさん……)


『あなたと一緒にお姉さんと戦うから』

(アシュリー……)


記憶の中で、みんなが私を見ている。

みんなが、同じ願いを向けている。


「……そうだよ」


エリザベスは、静かに呟いた。


「私、何やってるんだろ」


「お姉様の言いなりになって……」

「一番、戦うことから逃げてるのは……私じゃない……」


視線を上げる。


「私にしか……お姉様は倒せないよ」


唇を噛みしめて、最後にこう言った。


「だって……」

「唯一、生き残った家族だから」


⸻


エリザベスは一歩を踏み出し、石を蹴った。

二歩目は大きく股を広げ、地を踏みしめる。


「基礎魔法:木 疾風走!!(ウインドスプリント)」


瞬間、体が気流に乗って跳躍する。

三歩目。さらに前へと踏み込み、風を背負った身体は石畳のストリートを全速力で駆け抜けた。


背中から発生した気流が渦を巻き、巻き込まれた民衆はふわりと足を取られ、次々とドミノ倒しのように転がっていく。

馬十頭分の推進力をすべて前方に叩き込み、エリザベスは走り続けた。


五百メートル。

四百メートル。

三百メートル。


一瞬ごとに景色が切り替わり、この速度では戦っている民衆の顔すら識別できない。


「……ん。あそこがいいなあ……」


遥か先。

宮殿の門がそびえ、その上には街を見下ろせる高所があった。

そこでは暴動が最も激化し、民衆と兵士が血と血をぶつけ合っている。


エリザベスは思い切り右足を蹴り上げ、石畳から身体を解き放った。

斜め上へ跳び、前宙返りを一回。

宙に浮いたまま、脚に気流の波紋を蓄える。


「基礎魔法:木 飛蝗の機動!!(グラスホッパードライブ)」


ビュイーン!!


人間が砲台から射出されたかのように、エリザベスは空中を駆ける。

斜め上方向へ、一直線に門の上を目指して。


下では兵士と民衆が、火炎、氷、風を飛ばし合い、街は完全な混沌に沈んでいた。


彼女は両脚に込めた波紋を解放し続け、速度をさらに上げる。

そして、門の真上へと到達した瞬間――軌道を切り替える。


「基礎魔法:土 岩走行(ストーンラン)」


奥方向から真下へと向きを変えるため、二百七十度の角度を持つ岩の回転スロープが瞬時に生成される。

エリザベスはその岩に足を踏み込み、走りながら宙返りし、真下へと落下した。


「ごめん。門の上の兵士!火傷するけど我慢してっ!!」


右の人差し指に、巨大な火の球が生まれる。

落下の勢いを殺さぬまま、彼女はそれを放った。


「基礎魔法:火 線香花火!!(スパークラーズ)」


ヒューッ……


門の上で兵士が空を見上げる。


「あれ……何だ??」


「あれは……魔法だっ逃げろ!!」


「うわああああああ」


バチバチバチバチバチッ!!


「あちちちち!あちちいっ!!」


鳥の足のように火花が広がり、門の上は瞬く間に灼熱の雨となった。

兵士たちは悲鳴を上げ、一斉に門の上から飛び降りる。


エリザベスは地面に激突する直前で、最後の魔法を放つ。


「水布団!!(ウォーターベッド)」


ジャボンッ!!


水の球に飛び込み、身体は柔らかく包み込まれた。

次の瞬間、シャボン玉のように水が弾ける。


パシャンッ。


びしょ濡れのまま、エリザベスは門の上に立っていた。


下を見下ろせば、兵士も民衆も、すべての視線が彼女に注がれている。


「あれは……誰だ??」


ざわめきの中、一人の民衆が指を差した。


「あれ……エリザベス様じゃないか?」


「そうだよ……エリザベス様だよっ!」


「エリザベス様っ!エリザベス様っ!」


「うわああああああああ!!!」


歓声が街を包む。

エリザベスは右手を掲げた。


「皆様。お静かにっ!!はいっ!!お静かにっ!!」


不思議なほど、民衆は一斉に静まり返った。


エリザベスは二拍、目を閉じる。

四拍分の間を置き、ゆっくりと目を開いた。


再び右手を掲げ、宣誓する。


「私は宮殿に支えるエリザベスと申します。

皆様に告げます。

私エリザベスはこの身を持って必ず姉メアリーを止めることを誓います。

そして必ず近い将来、皆様がより良い暮らし、より良い国にするために私が主体となって推進することを誓います。

ですのでたった一つだけお願いがあります。

皆様は争うのはやめて、私の誓いの言葉が実現できるようご支援よろしくお願いします。

応援よろしくお願いします。ご理解よろしくお願いします。

一人一人の力がこの国を動かす源になります。

ですので短い間でも皆様、お辛いと思いますが、ご協力の程よろしくお願い致します。」


エリザベスは、心の中で二十を数えるまで、深く、深く、頭を下げ続けた。


「ありがとう!エリザベス様!」


「頑張ってくれ!応援してるぞ!」


「よりよい国のために!よりよい未来のために!」


「ありがとう、本当にありがとう!」


「お姉ちゃん、ファイト!!」


「頑張ってください!家族みんなでエリザベス様をサポートしますっ!!」


「私たちはエリザベス様の見方よっ!」


「これからはエリザベス様の時代よ!」


「えりざべすおねえちゃん!かっこいい!」


「負けるなエリザベス!負けるなみんな!」


「いつまでも協力します。我々の希望の星」


顔を上げると、拍手喝采が街を揺らした。

どこを見渡しても、熱い声援が渦を巻いている。


「ELIZABETH!!」


「ELIZABETH!!ELIZABETH!!」


「ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!」


「ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!」


「ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!」


「ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!「ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!ELIZABETH!!」


エリザベスは空を見上げる。

服の中から、月のペンダントを取り出した。


太陽の光を反射させ、天へ掲げる。


「お母様……見てますか?……私……お母様の夢叶えてくるよ」


――


ELIZABETH

Magical Kingdom

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。