第15話 曲がって止まる
旧準備室。
机の上には、昨日“曲がる”ことを覚えたロボットが置かれている。
蒼
「よし! 今日は“曲がって止まるロボット”を作る日だね!」
理人
「いや、曲がって止まるとは言ってない。
“曲がって止まるかもしれないロボット”だよ」
真
「……止まる。たぶん」
蒼
「毒島くんの“たぶん”は希望」
理人
「いや、希望じゃなくて不安だよ」
蒼はロボットの車輪を触りながら言う。
蒼
「でもさ、昨日の“曲がった瞬間”めっちゃ感動したよね。
なんか、ロボットが“意思”持ったみたいで」
理人
「いや、意思はないだろ。
ただの差動制御だよ」
真
「……差動制御、好き」
蒼
「毒島くん、今日も安定してるね」
理人
「毒島は“好き”の種類が多すぎるだけだよ」
蒼
「そういえば今日の現代文の先生さ、
“人生は曲がって止まることの繰り返しだ”って言ってたよね」
理人
「言ってたな。
“止まらないやつは壁にぶつかる”って」
真
「……ロボット、ぶつかった」
蒼
「毒島くん、それは正しい」
理人はノートを開き、
複合制御の図を描き始める。
理人
「で、曲がって止まるには“タイミング”が大事。
曲がる → 一定時間 → 止まる、って流れを作る」
蒼
「タイミングって……なんか音ゲーみたいだね」
真
「……コンボ」
蒼
「そう! コンボ!」
理人
「いや、コンボって言うなよ……
でもまあ、間違ってない」
蒼はArduinoを手に取り、
プログラム画面を開く。
蒼
「じゃあ、右に曲がって……
0.5秒後に止まる、って感じ?」
理人
「そう。
`delay(500);` のあとに `analogWrite(left, 0);`
`analogWrite(right, 0);` で止まる」
真
「……呪文、好き」
蒼
「毒島くん、呪文じゃないよ」
理人
「いや、呪文みたいなもんだろ」
蒼はふと、今日の授業を思い出す。
蒼
「そういえば今日の音楽の授業でさ、
“止める勇気も音楽だ”って言ってたよね」
理人
「言ってたな。
“止まるところが美しい”って」
真
「……ロボットも、美しく止まる」
蒼
「毒島くん、それは名言」
理人
「いや名言じゃないだろ」
蒼
「じゃあ、いよいよテストするよ?」
理人
「待て! 配線確認!」
真
「……昨日、倒れた」
蒼
「毒島くんの“昨日倒れた”は重い」
理人は慎重に配線を確認し、
深呼吸して言う。
理人
「……よし。
久保田、スイッチ頼む」
蒼
「任せろ!」
カチッ。
ウィィィィィン……!
ロボットが前に進む。
蒼
「おおおお! 今日もまっすぐ!」
理人
「じゃあ、曲がるぞ。
“右旋回コマンド”送る!」
カタッ。
ロボットは右に曲がり――
蒼
「止まれぇぇぇぇ!!」
理人
「停止コマンド送る!」
ピタッ。
ロボットは、
くるりと曲がったあと、
その場で静かに止まった。
蒼
「止まったぁぁぁぁぁ!!」
理人
「曲がって……止まった……!
ちゃんと……止まった……!」
真
「……かわいい」
蒼
「毒島くん!?」
理人
「いや、でも気持ちはわかる。
なんか“お手”した犬みたいだよな」
蒼
「ロボットの赤ちゃんだよ!」
真
「……赤ちゃん、賢くなった」
蒼
「うん、賢くなったね!」
理人はロボットを見つめながら言う。
理人
「……なんかさ。
“進む・曲がる・止まる”ができると、
急に“ロボット”って感じするよな」
蒼
「する!」
真
「……する」
蒼
「じゃあ次は“避ける”だね!」
理人
「いや、それが一番難しいんだよ!」
真
「……でも、やる」
蒼
「やろう!」
理人
「やるか……!」
三人の声が、
初めて“曲がって止まったロボット”の横で響いた。
その音は、
“次の挑戦”の始まりだった。




