第11話 倒れない
旧準備室。
昨日倒れたロボットのフレームが、机の上で少し傾いたまま置かれている。
蒼
「……昨日の“立った瞬間”、マジで感動したよね」
理人
「いや、立ったの0.3秒くらいだろ」
真
「……でも、立った」
蒼
「毒島くんの“でも立った”は名言」
理人
「いや名言じゃないだろ」
蒼はロボットの足を触りながら言う。
蒼
「で、今日は“倒れないロボット”を作るんだよね」
理人
「そう。
倒れた原因は“重心が高い”のと“足幅が狭い”のと、
あと“久保田が勢いで手を離した”の三つ」
蒼
「三つ目いらない!」
真
「……でも、離した」
蒼
「毒島くん!?」
理人はノートを開き、
倒れた瞬間の角度を再現するように図を描く。
理人
「ほら、重心がここ。
この線より外に出たら倒れる。
昨日は完全にアウトだった」
蒼
「アウトって言い方やめて。なんかスポーツみたい」
真
「……体育、嫌い」
蒼
「毒島くん、今日の体育どうだった?」
真
「……バスケ。ボール、当たった」
蒼
「大丈夫!?」
理人
「毒島、運動神経はロボット寄りだからな……」
蒼
「ロボット寄りって何」
理人
「直線的にしか動かないってこと」
真
「……否定できない」
蒼
「毒島くん、かわいいな」
理人
「かわいいって言うなよ」
蒼
「じゃあ理人は?」
理人
「俺はかわいくない!」
真
「……ツンデレ」
理人
「毒島まで!?」
蒼は笑いながら、
ロボットの足ユニットを持ち上げる。
蒼
「で、どうすれば倒れないの?」
理人
「まず“足幅を広げる”。
次に“重心を下げる”。
最後に“揺れたときに戻る力”を作る」
蒼
「戻る力……?」
真
「……バネ?」
理人
「そう。バネとか、ダンパーとか。
揺れたときに“戻ろうとする力”が必要なんだよ」
蒼
「へえ……なんかロボットって生き物みたいだね」
真
「……生き物、好き」
理人
「毒島の“好き”は今日も安定してるな」
蒼はスケッチブックを開き、
足幅を広げたデザインを描き始める。
蒼
「こんな感じでどう?」
理人
「お、いいじゃん。
これなら重心が足の範囲に収まる」
真
「……作れる」
蒼
「毒島くんの“作れる”は正義」
理人
「いや、正義って何だよ」
蒼
「そういえば今日の英語の先生さ、
“Balance is important in life”って言ってたよね」
理人
「言ってたな。
“バランスが崩れると人生も倒れる”って」
真
「……ロボットも倒れる」
蒼
「毒島くん、それは正しい」
理人
「じゃあ、今日のテーマは“バランス”。
倒れないロボットを作るために、
重心を下げて、足幅を広げて、
揺れたら戻る仕組みを作る」
蒼
「なんか……本格的になってきたね」
真
「……ワクワクする」
蒼
「わかる!」
理人
「じゃあ、まずは足幅を広げるために――」
ガラッ。
突然、扉が開く。
クラスメイトの女子・佐伯が顔を出す。
佐伯
「あ、いた。
ねえ久保田、今日のプリント持ってる?」
蒼
「え、あ、うん。あるよ」
佐伯
「ありがとう。
……てか、何これ。ロボット?」
蒼
「ロボット!」
理人
「ロボットです」
真
「……ロボット」
佐伯
「三人とも言い方違うの面白いんだけど」
蒼
「今、倒れないロボット作ってるんだよ」
佐伯
「へえ……なんか楽しそうだね。
頑張ってね、ロボ研」
蒼
「うん、ありがとう!」
佐伯が去ると、
三人はなぜか少しだけ沈黙する。
理人
「……なんか、見られると恥ずかしいな」
蒼
「わかる」
真
「……でも、嬉しい」
蒼
「毒島くん、それはわかる」
理人
「じゃあ、気を取り直して作業するぞ。
倒れないロボット、今日中に形にする」
蒼
「やろう!」
真
「……やる」
三人の声が、
夕方の準備室に響いた。
その音は、
“倒れない未来”へ向かう音だった。




