93話:逃亡者3
ダーリエフェルト滞在延長は、それとなくヴェーゼンの使節団内で広められた。
一応国内問題だから、ダーリエフェルト側には言わずにいる。
けど外交官たちは悟られないように、少しずつヴェーゼン側の異変をダーリエフェルトが掴んでないかも探りつつの滞在だった。
エミール伯父さんは引き続き、ヴェーゼンの動きを探るため大使館と連絡してるらしい。
「え、帰れないの? でも急いで戻らないといけないんじゃなかったっけ?」
ユリウスが数日滞在して、帰還命令を待たなければいけないことに聞き返してきた。
ダーリエフェルトで借りた屋敷の中、何故か猩々討伐人員に対して俺が説明役してる。
ユリウスとルイーゼは、故郷に帰るんだからわかる。
けどウルリカとゾイフもヴェーゼンまで同行の意思があるのは驚いた。
ネイトも今さら行く先は東の国だろうからついて来るが、こっちはこっちで足止め考えないといけない。
「どういう形かはわからないが、国内で捕り物が起きている。俺たちが集団で戻っても、その対応の騒がしさに紛れて逃げられる可能性がある、とかだと思う」
そこはまだ確定じゃないからな。
というか、本当なんで王弟は今動いてるんだ?
俺は思わずルイーゼを見た。
すると、ルイーゼの警護についてるイジドラが先に推測を口にする。
「閣下が今動いた理由があるのだろうな。もしや、ナイトシュタインの魔人と合わせて動きがあったのだろうか?」
ただそれはルイーゼに否定された。
「いえ、それはないでしょう。先々代…………猩々の魔人は明らかに独断で行動していましたし」
そう、それはない。
二人ひと組を否定して、自分から猩々になって暴れたんだ。
あれで連携取れるとは思えない。
唯一味方と言える立ち位置だった黒騎士は、さっさと逃げたし。
今はネイトとして、俺たちヴェーゼンと合流してるしな。
たぶん、俺たちが脱出するのについて行こうとしたんだろうが、目論みはずれて猩々討伐に送り出したけど。
「ヴェーゼンの魔人も、なんとか侯爵追うのに一人で来てたし、どっちも単独でしょ」
魔人側のウルリカが言うし、もうここまで来ると、国々の魔人が連携してないのは確実。
そうじゃないと、仲間をすぐさま切って捨てるウルリカの思い切りが良すぎる。
ゾイフも完全に他人ごとで、ウルリカに賛同した。
「一人だからこそ身軽に紛れて逃げるというのは考えられることですねぇ」
「逃亡の兆候があったから、動いた? でもそれなら、数日の滞在を必要とするか?」
思わず王弟が動いた理由を想像すると、ゾイフが作り笑いで言う。
「では、ナイトシュタインのように、ただ捕縛するには難のあるお相手が、魔人だったのやもしれません」
おいおい、とんでもないこと言い出した。
それはつまり、ヴェーゼンの王族に魔人がいるって言ってるようなもんじゃないか。
ただ、ないとは言えない。
ゲームで知る限り、魔人の王族率は高いんだよ。
そしてゲーム開始時点で、生き残ってたヴェーゼンの王族はルイーゼ一人きり。
その時も魔人に城が落とされたという情報はあった気がする。
王都前まで魔物に攻め込まれた窮地だったからだと思ってたが、内側で魔人が発生していたなら、それも可能だったろう。
「ありえません」
俺が否定できずにいると、ルイーゼがはっきりと否定した。
「私がお顔を合わせることが叶う王族においては、それはないと断言ができます」
「なんか光ってるけど、それ、聖女の預言?」
ウルリカが言うとおり、語るルイーゼは、ゲームの必殺技に似た光り方をしてた。
前にもみたし、たぶん聖女の預言の力使ってるんだろう。
その上で断言ということは、光の神からも否定があったと思っていい。
ヴェーゼン王族に魔人はいない。
俺は思わず安堵の息を吐いた。
それにイジドラも同じように息を吐いてる。
思わずお互いを見て苦笑いを交わした。
「王族じゃない、お城の人が魔人だったってこと?」
ただ、ユリウスの言葉にその可能性があったかと思わされる。
それならルイーゼが全員を把握もしていられないし、城を内部から落とすことも場合によっては可能だ。
ネイトの奴も、他人ごとで話に入って来る。
「聞いた話だともう二回も失敗してるんだろう、その魔人? だったら、勇者と聖女がいないなんてチャンスじゃないか。だからこそ、何か大きなことをしでかす前にさっさと捕まえたかったんじゃないか? その王弟とやらは」
意見としては真っ当だが、それがたぶん違うのは黒騎士という立場から推測できる。
最終的に魔王を裏切る役回りだけど、現状ではまだ魔王の手の内にいるんだ。
裏切ったと始末されるのはネイトとしても避けたい事態。
だからゲームでも、各地の魔人たちをフォローしつつ、勇者たちに対しても戦いながら見逃すことを繰り返した。
俺がゲームと合わせて考えてると、イジドラが現実的に事態への対処を考えて口にする。
「城内は人が多すぎて把握も難しい。その分派閥が各所で騒ぎなど起こさせないようにバランスを取っている。であれば、一つの派閥自体が魔人に掌握されるほどでなければ、クラレンツ公も動かないのではないだろうか?」
ナイトシュタインの先々代も派閥持ちだった。
そして自分は保養地にいながら、クーデターまで指示して実行させたんだ。
そんな人物が魔人だとわかれば、王弟はどうするか。
座して見ることはないにしても、気づかないふりで外堀埋めることはしそうだ。
もしくは相手の虚をつくために、先んじて動くなんてしそうでもある。
「…………時間を与えると準備を整えて反抗するくらいの実力者が相手か」
王弟が今回の拙速に出た理由は、そう考えれば納得も行った。
イェーデンシュタイン侯爵の時も、領に戻って軍備を整えられると厄介だったからこそ急いだんだ。
だったら今回も、相手に軍備を整えさせる猶予を与えないため。
「だが、なんでダーリエフェルトに滞在させる?」
相手を一気呵成に潰す必要がある。
そう思うなら、旅で疲れていても、魔人を倒した実績を築いた勇者たちの帰国は兵の士気を上げて勢いづくにも必要だろう。
ほぼ独り言だったが、俺の疑問にウルリカが答えた。
「こっちに逃がさないためじゃないの? この国には港があるじゃない」
ネイトとゾイフもその方向で言い合う。
「確かに国跨いで移動されると、国のお偉いさんは各国無視できずに動きにくいな」
「であれば、他は東のゼーンズフターか、山中を越えるルッセンドルフですか」
魔人なら、魔王がいるゼーンズフターだろう。
そんな裏事情考えなくても、過酷な山越えでいくルッセンドルフよりも、平地もあるゼーンズフターとの国境を超えるほうが現実的だ。
なんだけど、それを言ってんのが、魔王側のはずの二人なのはなんなんだ。
俺の考えを補佐するようなことして、何か誘導でもしたいのか?
だったらこっちだって考えがある。
この流れなら裏を勘繰られずに聞けるだろ。
「ネイト、トロイェンから来たと言ってたよな。今、トロイェンの港周辺はどんな雰囲気だ?」
ダーリエフェルトから港を使って逃げれば、行きつく先はナイトシュタインを挟んだ西の国、トロイェンだ。
そっちの情勢を聞くことに不自然はないし、ゲームのように海賊が暴れる兆候があれば、それは魔人の仕業だってことも確定する。
「うーん、まぁ、海賊が出たって噂があったな」
「それって海の山賊だよね? だったら薬運ぶのに問題起きてたりする?」
ユリウスがそんなことを聞くのは、たぶん俺とドミニクが話した、回復薬について。
ただでさえ高いのに、海賊被害なんてあったらさらに高騰するし東には回ってこない。
気になると言えばそこも気になるんだが、俺は内心、さらに遠い地の情報を得られそうな質問に拳を握った。
「あー、ビルケンハイムも港あるけど、そっちに海賊出たとは聞かないぞ。ルッセンドルフで聞いた話だと、ずいぶんな成果を出した薬師の男がいるって話だったな。王さまに表彰されるレベルらしい」
詳しいことは知らないと話を切り上げるネイト。
だが、それはもしかしたらビルケンハイムの魔人かもしれない。
そこは王族じゃない魔人が出てくる国で、二人とも薬師だったのは覚えてるんだ。
俺はユリウスに倣ってもっと聞き出そうと口を開く、だがそこに激しく扉を叩かれた。
王女もいるのに無作法だが、対応に出た侍女はすぐさま急報を知らせる。
「大使館より、ヴェーゼンからの命令をお伝えする急報です。クラレンツ公直々の」
受け取ったルイーゼが、すぐに俺たちに向けて内容を開示。
帰国命令とはまた違った急報は、予想したとおり逃亡者を追えというものだった。
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