83話:猩々3
端的に言うと、ユリウスとネイトの魔物退治に、俺も巻き込まれた。
妙にやる気なウルリカに、引きずられていったとも言う。
そして、最終的には何故かウルリカとネイトがやり合うことに…………。
ネイトは困って逃げ回ってたけど、防御のために反撃したことで本格的にやり合ってた。
で、俺はと言えば紋章持ちどもの争いに入り込めるわけもなく。
ユリウス頼みでなんとか二人を引き離すことで、その日は終わったが。
「つ、疲れた…………」
「大変だったみたいだな。ただ、そのお蔭か黒騎士は大人しかった」
ドミニクが他人ごとで言うのは、同行せずに回避したから。
戦えないことを盾に、ウルリカからも逃げきってた。
「で、どうだったんだ?」
ドミニクは恨みがましい目をした俺を無視してユリウスに聞く。
聞かれたユリウスは真面目に考えて、黒騎士とネイトの違いを上げる。
「黒い鎧の人と、戦い方は全然違ったよ。けど、腰を落とした時の足の角度は、確かにそっくりだった」
なんでそんなところ気づくんだ?
俺としては全然わからない上に、あれだけ動き回る足の角度なんて見てられねぇ。
ただゲームで知ってるから言えることは一つだ。
「言われて鎧の中のサイズを想像したら、ネイトくらいだなって感じだったぞ」
当たり障りなく答えつつ、俺は何もわからなかったことを誤魔化す。
そもそも戦い方は意識して変えてる相手で、その上騎士と魔法使いなら違うのは当たり前だ。
あえて全く違う職を騙ってるからこそ、違いが大きく小さな類似点は見逃されて、今までばれなかったんだろう。
なのに、戦闘以外のところでドミニクに見破られるなんて、そんなのありなんだな。
昨日はそのことを考えてて、エミール伯父さんに悩み事はなんだと聞かれてしまった。
だから誤魔化し半分、ドミニクの観察力がすごいという話をしたんだ。
すると、ドミニクは目端が利くとの評価があった。
さらに人を観察することを自然にする上に記憶力もいいって、エミール伯父さんもけっこう見てる。
それで落ちが、観察する割に人間を避ける傾向にある俺とは逆だと笑われたんだ。
「あ、でも首振る仕草はわかったぞ。あれ、前髪払う癖だよな?」
ドミニクが言ってたのは、ネイトが顔半分を前髪で隠してるからこその癖だ。
ゲームでもそのモーションはあって、気障な動作の一つだった。
ただ現実だと、長くて鼻や口元にかかるのを避けるだけで、気障さとは違う。
いや、単に気障な台詞言う間もなく、ウルリカに追い回されたからかもしれないけど。
ネイトと魔物退治行くまでに、黒騎士を見てて気づいたし、言われて観察した結果ではある。
けど、初見の上に全身鎧だと小さな動き過ぎて繋がらなかったんだよ。
「よくあれに気づいたな、ドミニク」
「…………俺としては、二日連続で馬に乗って平気なお前がわからない」
ドミニクが何故か俺に不審そうな目を向ける。
俺たちは今騎馬で移動していた。
半年ほど乗馬を習ってるというユリウスは、けっこうしっかり乗ってる。
「うん、魔物を馬に乗って引っ張って来るって、ロイエたちがやってたことだけどさ。何人かでやってたんだよ? それをローレン、一人でやって、一人で何度も走るんだもん。ウルリカとネイトも驚いてた」
「いや、やれって言ったのウルリカだろ。俺が戦闘には参加しないって言ったから」
だから言われたとおり、騎馬で魔物の前に身を躍らせて、待ち構えるユリウスたちの下に誘導したんだ。
ナイトシュタインの城から借りた馬は優秀で、素直に従ってくれたから、俺も負担は少なかった。
まぁ、その後はウルリカとネイトの戦闘を止めようと疲れることになったんだが。
俺たちの会話に、運動が好きではないドミニクはさらに嫌そうな顔をした。
「それでも馬で走り回って、さらに翌日もけっこうな距離をこうして馬で移動するなんて。普通は騎士団がやるようなことだ。貴族で馬に乗れても、そんなの歩かせる程度だからな」
「いやにしつこいな」
「ユリウスが、ローレンツを平均的な貴族子弟だと思われると困る」
ドミニクが言うと、ユリウスは素直に頷いた。
「そこはさすがにわかってるよ。ローレンって、騎馬以外も優秀なんでしょ。狩猟大会の時とか、先輩たちも判断に迷ったり間違う中で、ローレンは正解を選んだんだし」
「いや、別に…………」
優秀だとは思わないが、やったことに間違いはない。
何せ正解を知っていたんだ。
だからこそ、そこを言われると正直座りが悪い気持ちになる。
俺は話題を変えるために行く先を眺めた。
「ま、今日はさすがに馬を全力で走らせることもないからな」
「あったら、それはもう、ナイトシュタインのお家騒動だろ」
「おじいさんと会うだけで、そういうことになるの? 気をつけるよ」
冗談のつもりが、何故かドミニクもユリウスも、そんな事態があるのかと警戒してしまう。
今俺たちは、ナイトシュタインの王都を離れて、郊外の先々代が療養する保養地へ向かってた。
王叔が王都へ向かったと知って、先々代が動きを見せたんだ。
ヴェーゼンの使節団の挨拶を許すと。
その際には王叔に案内をさせろという内容で、つまるところ、長く若王のいる王都に留めないための動きだ。
ボケてる疑惑あるのにそういう策略は考えられるらしい。
「ナイトシュタインの陛下まで一緒なのが、まず先々代が容認してないからなぁ」
思わず不安要素を呟く。
王叔が案内で同行するのは想定内として、若王が同行してるのを向こうは知らない。
なのに若王は、俺たちヴェーゼンが先々代に挨拶に向かう一団を、先導するように進んでる。
いったいどうなることか。
他国の目がある中で、身内争いをしないだけの理性が残ってることを願いつつ、俺たちは保養地へと踏み込んだ。
すると思いのほか先々代は朗らかに歓迎してみせる。
「なんだ、ユーゲルも一緒とは。嬉しい驚きではないか。おっと、これは失礼。ヴェーゼンの者たちよ、よくぞ参った」
若王に笑顔を見せての歓迎の言葉に、取り繕った様子はない。
ただ気になるのは、先々代としてすでに退いた身のはずが、その振る舞いは王そのものってところか。
そもそも挨拶に来いというのは、先々代の身分的になしじゃないが、こっちも王女を擁してるからには、もう少し言い方や前段階があるものだ。
あと、完全に若王を年少者として下に置いてる様子が見える。
これは、休戦を推す若王の意見に耳を傾ける気がしないな。
「本来なら宴でも催し、貴国を歓待するのだが。しかし療養中の身。酒も強い香辛料もならぬと言われておってな」
固い挨拶を終えると、先々代はホストとして話題を提供するし、一応、王女としてルイーゼを尊重する様子もある。
それと同時に、やっぱり若王のことは後回しにして、完全に子供扱いだ。
一応、俺たちよりいくつか年上なんだけどな。
そんな不安は、やっぱり的中した。
朗らかだったのは最初の内だけ。
話しがヴェーゼンの使節団が今回ナイトシュタインにやって来た理由になると、態度ががらりと硬化する。
「国境を他国の軍に荒らされ、さらには砦も落とされた。だというのに、狼藉を働いた国の馬鹿な訴えを遥々我が国まで持ち込むとは。いったいどれほど見苦しくも情けない国の姿か考えられもしないのか?」
これは完全拒否だ。
その上、休戦を馬鹿だとして聞く耳を持たない。
ヴェーゼンが穏便に済ませる姿勢も批判して、軽蔑するような表情になる。
「我が国がそんな軟弱なわけがなかろう。民も戦意高く、愚かなダーリエフェルトを撃ち滅ぼすに迷いもない。よそ者が善人ぶって余計な口を挟むな。正義は我々にあるのだ」
侵略戦争仕掛けておいてそれはないだろう。
もちろん若王も言われるだけじゃないが、無駄だった。
「しかしおじいさま、ダーリエフェルトとの戦いのそもそもの発端は…………」
「ユーゲルは黙っていろ。今大事な話をしているのだ」
さすがにその叱責には、俺たちのほうも驚く。
何せ現役の国王だ。
なのに先々代は完全に子供扱いで、王と認めてさえいないような様子。
国の代表として話すのは自分であって、若王ではないと他国の使節団の前で言い切ったんだから。
話し合いをする以前の問題だ。
若王を軽んじる先々代の傲慢さに、さすがに王叔も口を挟もうとした。
「それはさすがに、あなたはもう退いた身なのですから」
だがこれが火に油だった。
「貴様!」
音がなるほど激しく立ち上がると、先々代は誰が止める間もなく動いた。
突然、椅子の横の小卓を感情任せにひっくり返したんだ。
怯える使用人たちからは悲鳴が上がり、同行したナイトシュタインの側からも混乱と驚きのどよめきが上がる。
ただ俺たちはすぐにルイーゼを庇いに動いた。
ドレスに汚れが付いたとかそんなのを気にしてる暇はなく、少しでも先々代から距離を取らせて、俺やユリウスが矢面に立つ。
そして正面から見た先々代の目は、本当に狂気にも似た怒りに染まっていたのだった。
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