80話:黒騎士5
ネイトと知り合った翌日、若王と王叔の話し合いが行われる。
と言っても表向きは、ヴェーゼンの使節団との懇親会だ。
華やかな社交の場。
招待客もあり、主催者の若王が懇親会を放置するわけにもいかない。
話し合いの時間がどれくらいとれるかは、王叔が応じるかどうかにかかってた。
「お初にお目にかかります。ヴェーゼンより我が国へよくぞおいでくださった」
王叔は体躯は立派だが雰囲気は紳士然としていて、ルイーゼが明示しないと王女として遇し、最初は堅苦しく王族同士としての挨拶を交わす。
俺も伯父の後方について、使節団の威容を見せるっていう賑やかしの一人で、その様子を見てた。
ただ真面目な雰囲気はすぐに、不躾だが明るく力強い声によって払拭される。
「叔父上! 堅苦しいことは後にしましょう。今は出会いと再会を喜ぶべきです」
「ユーゲル、いえ、陛下。その嘘偽りのない清廉さは、光の神より賜った魅力だとわかっている。しかし王位を継いだのだから、慎みを忘れてはいけないよ」
王叔は苦言を呈すんだが、押しが明らかに弱い。
逆に押しが強い若王は、叱られてることなど気にせず胸を張った。
「ふふふ、私はすでに遠慮をする必要はないのですよ。何せルイーゼ王女殿下の御前にて、勇者と手合わせをしましたから」
「勇者と? それで、怪我は? 大丈夫かい? あぁ、そうだ、勝敗はどうなったのかな?」
「これが見事に負けました。どうやら私も真面目に政務に励むあまり、鈍ったらしい。ここから鍛え直しても何年かかるか」
気安いやり取りだが、これは裏の意味があるんだろうな。
たとえば紋章持ちだが若王も強くないとアピールしてる。
そして負けた相手はダーリエフェルト側からの要請で来てるヴェーゼンの紋章持ち。
これは紋章持ちだから勝てるという風潮への反抗にもとれる。
負けなくても、何年も勝てずに戦争が続くという予想を聞かせたのかもしれない。
王叔は、若王の言葉にしない裏を感じ取ったのか、元の性格なのか、弱った様子で言った。
「無理は、しないで」
呟くように甥を心配した後に見る先には、黒い鎧の人物がいる。
俺もその姿を見た時には驚いた。
何故か黒騎士が、王叔と一緒にやって来たんだから。
つまり、王叔にはすでに魔王側から手が伸びてることになる。
何処までストーリーが進んでるのか、頭の痛い問題だ。
若王も見慣れない黒騎士が気になった様子で話題に出す。
「しかし叔父上、しばらく会わない間に供回りが変わられたのですか? それとも趣味が新たにできたのでしょうか?」
「いや、あの騎士は食客だ。…………父の紹介で」
つまり先々代からの差し金の、監視か。
これは若王よりも先に、先々代が王叔を取り込もうとアプローチしてるってことだろう。
黒騎士は若王に対して礼は執るが喋らない。
たぶんここには俺を始め、ユリウスとドミニクという会話したことがある奴らがいるからだ。
一日会っただけだが、つい昨日のことで、口調を変えて鎧の中で籠った声だとしても、ばれる危険をネイトは侵す気がないらしい。
「そうか、では食客としてその鎧は叔父上が? それともおじいさまが?」
「最初から着ていたが、父は、どうだろう? 趣味とは違う気もする」
なんでもないように若王と叔父は会話を続ける。
ただ、若王は堅苦しい挨拶の場を払って、懇親会としての立食の会場へと王叔をエスコートし始めた。
その後ろを、若王の側近たちが続くが、黒騎士は無言と素早い足運びで、王叔の後ろにつけた。
うん、完全に監視だわ。
そうなると、もう先々代は魔人になってるのか?
だからネイトが協力して、もう一人魔人にする予定の王叔が若王側に流れないよう監視してる?
魔王の手先としては、あり得る動きだ。
ゲームの仲間で最後には味方につくと軽く考えてるだけじゃ、駄目だったようだ。
「…………少々離れます」
「何か思いついたかな?」
「はい、見せ物をしようかと」
「わかった」
エミール伯父さんに断りを入れて、小声で短く会話する。
だから絶対的に言葉足らずで、何がわかったのか俺もわからない。
けど、それを許可と取って、俺はさりげなく外交官の集まりから離れる。
その動きにすぐドミニクが気づいて、ユリウスに声をかけた。
だから俺は軽く手で制し、そっちじゃなくウルリカのほうへと足を向ける。
「…………何よ?」
「本当に機嫌悪いな」
小公女として見せ物にされてたから、すぐにエミール伯父さんも何するか気づいたのか?
「ちょっと派手に暴れたくないか?」
「はん?」
本当にこいつ小公女かって言いたくなるし、なんかゲームよりも柄悪くないか?
考えてみるとゲームは勇者視点、つまりユリウス相手の対応だ。
そう思うと、ユリウス相手はもっと柔らかいから、つまりこの輩のような対応、俺だけかよ。
「あの黒騎士、先々代国王から王叔に送り込まれた監視らしい」
「黒騎士?」
しまった、ゲームのまま言ってしまった。
確か敵がそう呼んでたし、たぶん魔王側での呼び名なんだろう。
ウルリカは魔王側の魔人で、すでに黒騎士としては知り合いだから、その呼び名を知ってるはずで、俺がどうして魔王側の呼び名を知ってるのかって話になる。
「あ、あぁ、名乗らなかったから見た目で適当に。黒鎧って呼ぶのもな」
「ぷ、なんか間抜けね、黒鎧。で? その黒鎧がどうしたのよ」
どうやら黒騎士じゃなく、黒鎧呼びにするつもりらしい。
ネイト、哀れ。
そう言えばゲームでも、ネイトの時には気障さを罵倒され、黒騎士の時には頭の固さを罵倒されてたな。
ゲームの中では、気障にウザがらみしたり、口うるさい様子で諦めろと繰り返していたから、ウルリカの強めの対応も納得できたが。
何かやらかしてる様子を見てないと、現状ちょっと可哀そうになってきたぞ?
まぁ、ただ黒騎士として動いてる時には本気で勇者の邪魔をする敵キャラだったし、変に同情する気はない。
それだけ、ゲームでもウルリカの黒騎士への当たりは強かったのは覚えてたから、この手に乗ってくれると思って声かけてるし。
「ウルリカ、あの黒騎士と手合わせをしてくれないか?」
「はぁ?」
すごく嫌そうなんだが、まぁ、それはそうだろう。
小公女と呼ばれて見せ物扱いで機嫌が悪くなってたんだから。
けど、それこそが黒騎士を王叔から引きはがすのに使えるんだ。
惚れた相手からの声かけを無視できる男は、そういない。
魔王の手先としても、なんでダーリエフェルトの魔人がナイトシュタインにいるんだとか、そういう事情もあって、ウルリカが誘えば必ず乗る。
そして小公女として今までも手合わせを見せ物にされてたウルリカだからこそ、こんな場で暴れても見せ物として許容されるだろう。
「なぜ勇者どのに言わずにウルリカへ声をかけるのですかな?」
様子見してたゾイフが、音もなく背後に忍び寄ってから、圧をかけつつ聞いてくる。
そう言えば、ゲームではこいつが死んでからネイトとウルリカが揃うな。
生きてる今、ウルリカに惚れてるネイトに、どんな対応をするんだ?
「ユ、ユリウスは、全身鎧なんて相手にしたことないと思うぞ。ウルリカのほうが、対人戦はできそうだと思うんだが、違うか? できるだけ時間を稼ぐように戦ってほしいんだ」
「派手に暴れるのはどうしたのよ」
そこ気にするのかよ。
いや、ユリウスもイライラしてるって言ってたし、暴れてすっきりしたいって気持ちもあるんだろう。
そして当たりの強さから、黒騎士なら派手に暴れられる相手と認識もした、か。
うん、よく見たら不機嫌そうに見せて、目が笑ってるな。
「たぶん、盛り上がれば、ちょっとやそっと物壊しても、この国の陛下なら許してくれると思うぞ。そもそもあちらの思惑を成功させるための手助けだ」
「よし、乗った」
「まだ待て、まだ待て」
すぐに黒騎士に向かおうとするウルリカを止めて、近くのイジドラにも手伝ってもらって持ち込める武器の選定なんかで宥めつつ、立食パーティーの会場へ。
「すまない、イジドラ嬢」
「なんの、ローレンツどのは常に味方を動きやすくするために策を講じるのだと、これまでのことで存じあげている。今回も頭が固いと言われる私が学ぶべき好機だ」
イジドラ嬢が、人間できすぎてて怖い。
いや、これはトラウマで気持ちが引けてるせいか?
なんか隣に立ってるのが申し訳ななくなってくる。
そして場が落ち着くのを待ってから、俺はウルリカを放った。
仲裁はたぶんゾイフがしてくれるから、報告のためエミール伯父さんの元へ戻る。
「見世物を始めます」
「こちらも別室を用意してもらったよ」
仕事速いな。
しかもすぐに若王へにこやかにご注進しに行くし。
エミール伯父さんがウルリカを売り込むように若王と王叔に話題を振ると、流れるように黒騎士を相手に誘う。
ウルリカも乗って、黒騎士を挑発すれば、もちろん若王もノリノリになる。
「やぁ、麗しの小公女と言えどその腕は勇者に比肩する。見ものですよ、叔父上もご覧ください」
「大丈夫だろうか? あの者も腕は確かで、女性では危険が過ぎるのでは?」
王叔は素直にウルリカの身を案じるようだが、周囲はすでにウルリカを見せ物にすることに慣れた宮廷貴族。
誰も止めずにウルリカを囲みだすと、当の本人が動かない黒騎士を呼んだ。
「ほら、淑女を待たせるんじゃないわよ。お堅いのはその鎧だけにしなさい」
黒騎士の表情は見えないが、王叔を振り返り指示を仰ぐ様子がある。
どう出るかと注視していると、王叔は困った様子ながら確かに頷いたのだった。
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