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78話:黒騎士3

 ゲームには、黒騎士という敵キャラがいた。

 中盤から現れ、行く先々で勇者たちを邪魔するクールで生真面目で融通が利かない奴だ。

 元魔人の聖騎士とは知り合いで、後半になるにつれて助言染みたことを言って去っていくようになる。

 ただ一貫して、魔王に刃向かうなと勇者たちの旅を終わらせようとしてくる敵役。


 そして終盤、教皇が斃れる直前に、魔王の配下黒騎士の正体を告げる。

 名前はネイト。

 ゲーム初期に出会って、ストーリーの主要キャラである初期メンバーの一人、魔法使いの名前だった。


「あの鎧、立派だが、だからこそおかしいな?」


 俺は予想外の存在に固まってしまっていた。

 横ではドミニクが、場所にそぐわない黒騎士の存在に疑いの目を向ける。


 ユリウスは王叔が滞在する屋敷周辺を見回して、また黒騎士に目を向けた。


「鎧はすごく立派なのに、何か悪いところでもあるの?」

「家紋も勲章も象られていないのは、おかしいだろう?」


 ドミニクの答えに、ユリウスはわからないようだ。

 けど俺は言われて、ゲームの仕様を越えて現実では違和感しかないことに気づく。


「そうだ、全身鎧なんて金のかかるもん、製作者や、所属して金出した所が必ず紋章を入れる。それがないってことは…………」

「え、あんな立派なもの、個人で作ったの? うわぁ、すごいね」


 俺はユリウスの素直すぎて、気にすべきところが違う答えに脱力した。

 いや、これは俺がおかしいんだ。

 ゲームでどんな役回りがあるなんて知らないなら、正体を隠すための鎧だとか思わない。

 けど俺は黒騎士とその正体を知ってて、魔王の手下として活動してることも知ってる。

 だから最初から所属を明確にしない、不審者ってことが頭に浮かんでしまったんだ。


 ゲームなんて知らないドミニクも、ユリウスに頷いて続けた。


「そうなると、貴族の道楽になるんだが、それはそれで飾るのがメインの美術品だ。あんな風に着て歩くだけの体づくりしてる奴がやることか?」


 鎧は金属塊だから当たり前に重い。

 俺も狩猟大会の時には着たけど、比較的軽いものを選んだ。

 けどこれが本当に重くて、たぶん人間もう一人背負ってるようなもんで、命を守る以外で身に着けるようなもんじゃない。


 ただ相手は紋章持ちの勇者パーティーの一員が正体だ。

 常人よりもスペックが高いからこそできる力技なんだろう。

 それにゲームでは、各国が争いを抱える危険な状況。

 だからフル装備で歩いてても、今のように悪目立ちなんてしなかったはず。

 けど今の世情じゃ、理由づけもないし威圧感がひどい。

 このナイトシュタインも停戦中で、内紛も起こってはいないんだし。


「異様な格好だな」


 改めて言う俺に、ドミニクは疑うような目で黒騎士を見る。


「それが王叔の滞在する屋敷から出てきたのも、おかしな話だろう? 何故今武装する必要がある?」

「武装って言っても、剣は持ってないみたいだよ。あ、帰るのかな。あれ、それとも叔父さんの所からお出かけ?」


 ユリウスが言うとおり、馬車に乗って何処かへ行く黒騎士。

 そう考えると誰の下にいて何処へ行くのかが気になる。

 ゲームではウルリカ戦前後に仲間になって、ウルリカ勧誘にひと役買う役どころ。

 つまり、ヴェーゼンという俺たちの国が滅んだ後に出会うから、それ以前は何処で何をしていたのか俺も知らない。


 ネイトは勇者の仲間の時には素顔で、魔法使いらしい服装をしていた。

 聖騎士のウルリカは、魔王の下で黒騎士状態のネイトと知り合ってる。

 だから素顔を見たことがなく、ネイトが黒騎士だとは知らない。

 黒騎士が何をしていたかも知らないまま、ネイトという仲間と交流してたんだ。

 そして黒騎士は、敵である勇者の陰に隠れる形で暗躍する。

 それが今すでに、魔王の指示で暗躍してるってことはあるのか?


「…………ローレン、あの騎士が気になるの?」


 去っていく馬車を見つめて考え込んでたら、ユリウスに探るように聞かれる。


「それは、気になるだろ。これからナイトシュタインとの交渉の上で、重要になる方の屋敷から出てきた不審者なんて」


 誤魔化し半分で言うと、ドミニクは眉を顰めた。


「滅多なことを言うな。中立なんて危うい立場の相手に会うからこそ、やんごとなき方が妙な閃きであんな顔の隠し方をしたのかもしれないんだぞ」


 そうか、黒騎士って知らないとそういう可能性を考えるのか。

 けど顔を隠すために全身鎧を着てるってのは、そのとおりなんだよな。


 ネイトとしての顔は、魔王関係者には隠し通してたから、魔王以外素顔は知らない。

 理由は、目に光の紋章があるからで、魔王にも目の紋章は隠し通していた。

 ネイトとしては長い前髪で片目を隠す、キャラ立ちのするイラストだった。

 必殺技のモーションの時に前髪を払う気障な仕草は、黒騎士で装う寡黙で真面目な様子とは人が違うほど。

 エンディングでの様子から、素は気障なほうな気がするが、根の真面目さはあると思う。


「ともかくここで立ち話をするのは、俺たちも悪目立ちすることになるぞ」


 周囲の屋敷から、様子を見に来る使用人の動きを見つけて、ドミニクが忠告した。

 目的は若王の叔父だが、黒騎士の出入り以外に動きがない。

 いつまでもいては俺たちのほうが不審者扱いされるだろう。


「一度街のほうに移動しよう」


 俺はそう言って、足を動かし始めた。

 ただ考えるのは黒騎士のこと。

 こいつは仲間にしたほうがいいんだ。


 何せゲームでは裏切りキャラの黒騎士。

 それは終盤での勇者パーティーへの裏切りに始まり、最終盤の魔王戦直前には、魔王を裏切り仲間に復帰するという展開が待ってた。

 ストーリーとしては典型的だが、熱い展開だったのを覚えてる。

 何より内部からの離反で魔王の隠された本体の存在と、隠し場所への案内をネイトが担い、それによって二度と魔王は復活しないというのが、確かエンディングだったはず。


「またローレン、考え込んでる。転ぶんじゃないかな?」

「これは人通りが多いと危ないな。何処か店に入ろう」


 考えながら歩いてると、ドミニクに腕を引かれた。

 見れば、喫茶店を目指してるらしい。

 俺がふらふら歩かないようにって配慮のようだ。


「悪い」


 謝ると呆れた顔でドミニクが溜め息を吐いて見せる。


「何が気になるか言うくらいはしないのか?」

「いや、まだ考えがまとまらなくてな」


 誤魔化しのためだが、口にした言葉は本心もある。

 なにせ仲間になるキャラとはいえ、ゲームと現状は違いすぎる。

 出会う国も違えば時期も違う。

 そして出会うのも俺たちじゃなく、ユリウス、ルイーゼのはずなんだ。


 そもそも俺は黒騎士を見ただけで、本当に中身が勇者の仲間になる魔法使いかもわかってない。

 ただ現状はゲームと離れてるし、ウルリカに反乱を起こさせないとなると、今後どの時点で接触できるか未知数だ。

 もしかしたら今見たのが最後の可能性もある。

 何より何故若王の叔父の元から出て来たのか。

 魔人として、魔王本人とやり取りする設定は撒き人と呼ばれる魔人のほうが担う。

 無花果として巨大ボス化する叔父ではなく、祖父のほうのはずなのに。


「もしかしてローレンって、俺に指示出す時、こういう考える時間すごくとってるのかな?」

「それはそうだろう。頭が良くても情報が足りない、もしくは多すぎれば指示を出すにも悩むものだ」


 喋らない俺そっちのけで、ユリウスとドミニクが会話してくれてる。

 いつまでも無視する状況はさすがに悪くて、俺も考えを脇におくと顔を上げた。


 瞬間、店に来客がある。

 思わず見れば、店の入り口には素顔のネイトがいた。


「なんだ? また知り合いに似た者でもいたのか?」


 今度はドミニクが気づいてこっそり窺う。

 ユリウスも真似して、大きな動きにならないように、店の入り口を見た。


 そこには黒髪に青い目の爽やかな笑みの青年が、空席を探してたたずんでいる。


「俺たちと同じ歳くらいだね」


 ユリウスが言うとおり、ゲームの勇者パーティーは全員同じ年齢。

 だからか、ネイトもゲーム時点よりも若く感じる。

 もし街ですれ違っただけなら気づかずにいたかもしれない。

 けど俺は今まで、そのネイトのことを考えてたから気づけた。

 まぁ、だからってここからどうすればいいのかはミリも浮かばない。


「…………気になるなら俺が声かけてくるよ」

「「は?」」


 席に座ってもまだネイトを見てる俺に、ユリウスが意を決した様子で言う。

 俺とドミニクは思わぬ積極性に同じ声を漏らした。


「ロイエに教えてもらったナンパ方法があるから、俺行ってくる」

「「ちょっと待て!」」


 ナンパの意味もわかってない様子で言うユリウスは、いい笑顔でネイトへ向かおうとする。

 慌てた俺とドミニクは、揃って大きな音を立てて席を立った。

 そのことで、店内の注目を集めることになってしまったのだった。


三日ごと更新

次回:黒騎士4

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