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70話:外交準備5

 外交に連れていかれることが決まってひと月。

 ダーリエフェルトの国王本人がいるから、話し合いはとんでもなくスムーズに済んだ。

 そのせいで異例の速さでの外交使節発足だ。

 外交文書とか、その場で決めて両国の王が認可しちゃうんだから、そうもなる。


「早すぎないか? 外交関係の役人、不眠不休の働きが必要そうだ」

「俺もそう思う」


 学院でドミニクに呆れられる横では、ユリウスが真剣に他愛ない悩みを口にした。


「あんまり礼儀作法覚える暇なかったなぁ。外国に行くのも初めてなのに」

「それでも、ダンスホールには連れていかれたんだろ?」


 俺も外交の準備と、男爵になるための準備で忙しく、ユリウスの手助けはできなかった。

 けどドミニクからは、どんなことをしたかっていう報告は受けてたんだ。

 その中で、市井の社交場に連れて行ったというものがあった。


 ダンスホールはそのまま躍る場所で、本来は貴族屋敷や城にある施設だ。

 それを平民の富裕層や知識層が社交場として、市井に作ったものがダンスホール。

 貴族的な格式としては下の下。

 だけど、平民でも相応の財産と教養がないと出入りできない一般とは離れた施設。

 農民出のユリウスからすれば敷居が高かったようだ。


「もう、びっくりしたよ。ウルリカと躍ったんだけど、すごい注目浴びてさ」

「ウルリカは随分久しぶりに躍ったという割に、綺麗なステップだった。元が動けるのと、幼少の教育が今も生きてるんだろうな」


 ドミニクも驚くくらい、ウルリカはダンスが上手かったらしい。

 そして教師的には、不安がるユリウスもやれるだろう程度の評価ではあった。


「ユリウスは教えたとおりにはできる。ただ、それを応用するには、実際に見たり体験したりして覚えるほうが合ってるようだ。経験するほうが覚えも早いだろう」

「エドガーも、ユリウスはそれなりに気安い所を選んで連れて行っていたからな」

「ポロ大会くらいならいいけど、もっとなんか、言葉を選ばなきゃいけない所だったよ、ダンスホール」


 ユリウスは余程慣れない雰囲気だったようで、弱り切ったようすだ。

 ドミニクは笑い、さらに教師的に傾向を分析した。


「ユリウスはどうも着飾った相手には委縮するようだ。だが、逆にウルリカは偉ぶる相手ほど言葉の剣で切り付けて、周囲から喝采を浴びていた」

「あぁ、ダンスホールは成金もいるからな」


 ユリウスはたぶん、農民意識のせいで苦手に感じてるだけのコミュ強だ。

 そして最初に引き合わされただろう相手が、王族かそれに近い貴族だったせいもあるか。

 失敗できない、教えられたとおりにやらないといけないっていう学習をしてしまってる気がする。

 元のコミュニケーション能力は高いんだから、素の良さを出せればいいと思う。


 ウルリカには何も言うまい。

 俺が切られそうだし、なんか俺には当たり強いんだよなぁ。


「ローレンもダンスホール行ったことあるの?」

「あぁ、入学前にエドガーとかドミニクとか、他にも同じ年頃の貴族でな」

「あれは今思っても、場違いだったな。子供の悪戯で見逃されていただけだ」


 身分が低い者たちが交流する場に、貴族の子弟がそれと知らせず乗り込む。

 正直、子供の浅慮な冒険だ。

 あの時は、エドガー以外にも口の上手い奴が一緒にいたから目こぼしをもらった感じだったのは俺も感じた。


 そして、前世庶民の俺としては、あんなダンスホールなんてのも、やっぱり異世界だ。

 平民でも上澄みって、お上品すぎて前世の気楽さない感じだった。

 だってやってるの、ヒップホップでもなく、ブレイクダンスでもなく、社交ダンスなんだよ。


「ローレン、遠い目してる?」

「まぁ、若い貴族子弟が来たら、そりゃなぁ」


 ドミニクは勘違いしたようだが、確かに初めてダンスホールへ行った時のことを思うと遠い目にもなる。

 いや、あの時一緒に富裕層のご令嬢に囲まれた仲なのに、なんで他人ごとなんだよ。

 俺は生きた心地がしなかったぞ。


 令嬢へのトラウマとは別の危機感煽られたのを覚えてる。

 何せ、獲物を狙う肉食獣の目をしていたんだ。

 貴族のお手付きで愛人にでもなって、子供を産めればお手当で左団扇。

 そんな欲望が二つの目玉から溢れ出て、こっちを突き刺す視線は、本当に怖かった。

 未成年者略取なんて前世の法律通用しないから、一緒にいた奴の中には物陰に引きずり込まれかけた奴もいたし。

 肉食女子の恐ろしさを知った経験だ。


「うん、まぁ、ユリウスが上手くやれたなら良かった」

「上手くやれたのかなぁ? けっこう笑われた気がする。魔物相手のほうがまだ上手くやれた気がするよ」


 苦笑いで零すユリウスに、ドミニクは眉をあげてみせた。


「顔引き攣らせたせいで、顔顰められるよりはましだな」


 それはダンスホール行った時の俺じゃねぇか。

 腹芸なんて教え込まれない平民のお嬢さん方は、けっこう感情表現豊かだった。

 お蔭で反応の悪い俺は睨まれたんだよな。

 さすがにユリウスはそんなことなかったらしい。


「ちなみに礼服はどうした? さすがに制服じゃ、あのダンスホールは無理だろ?」


 俺が聞くとドミニクが応じる。


「あぁ、エドの礼服を直して着させた。エド自身がユリウスに似合う色のやつ選んでな」

「申し訳ないから返すっていうんだけど、ダーリエフェルトの外交について行くなら他にも必要だって。なんでか返すつもりが三着に増えてたんだよ」


 なんか怖い話っぽくユリウスが言うんだが、そこはエドガーの判断が正しい。

 ドミニクも他人ごとで、気にする必要はないと語る。


「勇者が来たとなれば、三着でも足りないくらい招かれるだろうし、俺のも回すか?」

「あ、それはやめておけ」


 すぐさま俺が止めると、二人して不思議そうに目を向けてきた。

 さっき俺の過去の行状言われたし、ちょっと意地悪な笑いが口に昇る。


「ドミニクには、近くナイトシュタインに同行するよう命令が届くからな」

「は…………? な、なんでだ!?」

「え、ドミニクも来てくれるの?」


 怒鳴るように驚くドミニクに、ユリウスは嬉しそうに聞いた。

 対照的な反応に俺は笑いをかみ殺して答える。


「ユリウスに作法教える手際が評価された。ウルリカ経由でその手腕を知った王女殿下からも推薦があったからだな」


 もちろん俺からも、エミール伯父さんに申し送りもしてるんだが。

 俺はそ知らぬふりでドミニクの肩を叩き、笑顔を作って見せた。


「良かったな、認められて」

「み、認められるかー!」


 手を叩き払った上で、ドミニクが狼狽えた様子で俺に迫って来た。


「何をした?」

「そのまま? 手伝ってくれてることを報告して、社交系が苦手な俺の穴を埋めてくれるって話をだな」

「はめたのか?」

「いや? 本気で人手が欲しかっただけだな」

「だったら!」


 他の適任がいる、そう言いたいんだろうが、適任が誰か言わなくてもお互いわかる。

 そして今の状況で、エドガーに声をかけるなんてできないことも。


 ドミニクは、わからない顔してるユリウスに一度目を向けて口を閉じた。


「言っておくが、ドミニク。王城のほうで手配するとなると、無駄に時間かかるぞ。ユリウスは愛想がいいから評判も良かったみたいでな。学院に入れるよりも城に置いておくべきだという話もあったらしい」


 それは確かにユリウスを気に入っての提案だけど、同時に囲い込むためでもある。

 つまり、入学式の時に見た光景が、城でも行われてたってわけだ。


 結果として、ユリウスは実地で貴族との関りと、わかりやすい思惑による動きを見ることになった。

 城の完成形の大人たちはそんなボロ出さないけど、学生だったらまだ見て学べる。

 王族的にはその辺り学ばせるためもあって、学院に入れたんだろう。

 そんなところに、ユリウスを教える、裏のないドミニクがいたらな。


「ちなみに王女殿下も行くから、護衛でウルリカもいる。引き続き、ウルリカにも教えてほしいそうだ。こっちは王女殿下からのお願いベース」

「断れないやつじゃないか…………」


 王族からのお願いの重さを知ってるドミニクは諦めぎみだが、知らないユリウスは善意で大丈夫だと言う。


「引き受けられない理由があるなら、きちんと説明すればわかってくれるよ」


 うん、ゲームでも勇者って、まず話せばわかる、わからないなら殴って黙らせてからまた話すってやつだった。

 ストーリーがあって、戦闘があって、ストーリーに戻るってパートわけ。

 ゲームの仕様もあるんだろうけど、けっこう共通点はあるんだな。

 これはドミニクに力入れて、ユリウスを教育してもらわないといけないだろう。


 俺はもう一度ドミニクの肩を叩く。


「というわけで、自分の礼服もしっかり手入れしとけよ」

「うぅ…………」


 ドミニクを笑ってると、ユリウスはさすがに苦笑する。

 それでも止めないのは、やっぱり初めての海外、しかも外交ってなお堅い場だから。


 さて、さすがにからかいすぎたかもしれないし、そろそろ二人を真面目にフォローすることにしよう。


三日ごと更新

次回:西へ1

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 道連れは多ければ多いほど良いw
仲間が増えたね!ば、ばんざい!
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