65話:男爵5
俺は翌日、早足で学院に向かい、最初にやったことは、自習室の予約。
そして昼休みにはユリウスとドミニクを引っ張り込んだ。
他の目がないことで、王弟から男爵への内示を受けたことを訴える。
「え、それってローレンが偉くなるってこと? おめでとう」
素直なユリウスには悪いが、その祝意を俺は素直に受け取れない。
そして裏があることを察したドミニクは同情の顔になった。
「ローレンツにそれは過分だ。なんの狙いがあって閣下はそんなことを?」
「正解。与えられる領地はイェーデシュタン侯爵領の一部」
それでもう面倒なことがわかったドミニクは、溜め息一つ吐いて無情に言った。
「おめでとう、戦記のページが増えるな」
「増やすな!」
「あ、そうだね。ローレンが活躍して認められて…………」
「違う、ユリウス。そういうことじゃない」
もう素直すぎて駄目なユリウスに、場所が良すぎて恨みを買うことを説明した。
俺の説明にドミニクは納得して、確認をする。
「ちなみにいつ頃男爵になる予定だ?」
「たぶん卒業後。イェーデシュタン侯爵の罪が決定してからになる」
「え、そんなにかかるの? だって悪いことしてもう捕まってるのに」
今まで役人に捕まることなんてなかったからこそ、無知なユリウスはいっそ癒しか?
「他に悪いことしてる可能性があるんだ。だったらもっと聞き出さないといけないだろ」
「それに、手を貸してた他の悪い奴がいるかもしれないからそっちも捜すんだ」
俺とドミニクの説明に頷いた上で、首を傾げて疑問を口にした。
「あれ、でもローレンって伯爵家だよね。もしかして地位下がるの?」
「逆だ。ローレン個人がただ爵位を受け継ぐかもしれない子息から、自分の家を建てたすごい奴扱いになる」
ドミニクが変な言い方をする。
いや、これは貴族的なニュアンスをわかりやすくユリウスに向けての言葉選びか。
「じゃあ、やっぱり戦記が厚くなるね」
「それはお前の戦記だろうが。俺のことは書くなってエドガーに言っとけ!」
俺はユリウスに指を突きつけて続ける。
「それにな、俺の後はお前だからな、ユリウス」
「なにが?」
完全に他人ごとでわかってないユリウスに、俺は自棄になって笑って見せた。
「ははは、ちょっと侯爵を捕まえた俺が男爵だ。二回も王弟殿下のお命守ってるんだぞ。魔人倒しでもすれば、ユリウスは俺以上にすごい奴だって王家が爵位くれるだろうな」
「あー、そうなるための道筋でローレンツがまず男爵か。で、処分にも困る曰く付きの土地を一度ローレンツに押しつけて、掃除をさせると」
ドミニクも、俺の話でユリウスの前振りの意味があることを理解した。
けど当のユリウスは完全に他人ごとで笑う。
「え? そんなのないって。俺農民だし。貴族みたいなことできないし」
あまりの危機感のなさに、俺はユリウスの肩を掴んで言い切った。
「やるんだよ」
「できないで済ませられないのが貴族ってもんだからな」
ドミニクも他人ごとだが、実情はわかってるからユリウスのことも同情的に見る。
ようやく冗談じゃないと気づいたユリウスは、ドミニクに顔を向けた。
「助けて! 俺、貴族の相手無理だよ!?」
「一応ユリウスの教育係はローレンツだろ」
ドミニクに言われてユリウスが一度俺を見る。
「おい、目を逸らすな。悪かったな、気の利いた話もできない教育係で」
すでにユリウスにも認知されてる。
そして相手はゲーム主人公という、仲間を増やす立ち位置のせいか、けっこうなコミュ強。
未だに幼い頃の記憶のトラウマにしてビビってる俺とは違うだろうよ。
そんなやさぐれた気持ちでいたら、ドミニクが呆れたように俺を見つつ口を開く。
「まずは魔人倒さないと、ただの皮算用だが。少なくとも現状、二回も撃退したユリウス以外には可能性もない。頑張ってくれ」
「え、え!? そんな魔人倒すとか無理だし。すごく強いし、固いんだよ?」
ユリウス自身、なんとか撃退したという認識らしい。
そしてそう言われて、俺もやらなきゃいけないことを思い出した。
「そうだ、二回目の時に出てきた魔物への対処を確認して、そこからまた魔物退治の予定組むからちょっと詳しく教えてくれ。魔人相手だと少数精鋭が良さそうだと思ってるんだ。ロイエたちで集団戦は経験した。だったら次はパーティー組んでの魔物退治を考えてる」
俺は予定していたウルリカたちとのパーティーを提案して聞かせる。
そのためにはウルリカを預かってるルイーゼにも話を通さないといけない。
そんなことを考えてたら、ドミニクが視線を逸らして言った。
「聖女さまは、またお出でになりそうだな、それ」
「やめてくれ…………」
俺は思わずがっくりと肩を落とした。
王女がそう簡単に出てくるわけがないけど、ルイーゼだったら想像できるんだよな。
というか、ゲームを思えば、勇者といて不自然じゃない相手。
そこにウルリカもいるとなると、初期メンバーの魔法使いがいないのが、個人的に物足りない。
代わりに全体を見られるゾイフがいるけど、こいつは性格に難ありなんだよ。
「捜してみるか?」
「なんだ、ロイエみたいに腕のいいメンバー捜すのか?」
ドミニクのこの言い方は、商会の伝手貸してくれる気がありそうだな。
そういうのは俺にはないからありがたく頼らせてもらう。
「そうだな、魔法を主に攻撃に使うような人物がいいな。歳が近いほうが、ユリウスも主体的に動けるだろう。ユリウスは火の魔法が使えるから、なるべく他の属性をまんべんなく使えて、いざとなったら近距離でも対応できるほうがいい。後ろから全体見る余裕があって、ウルリカがいるとなるとコミュニケーション能力も欲しいところだ」
「ずいぶん具体的だね?」
ユリウスに言われて俺は口を閉じる。
つい、ゲームの魔法使いを思い浮かべて条件を上げてしまった。
初期メンバーはストーリー進行での主要キャラクターたちだ。
ゲームストーリー上では、勇者、聖女、聖騎士、魔法使いの四人が旅して、行く先々で仲間の力を借りて魔人と戦う物語。
正直、全く知らない相手よりも、ユリウスの仲間として信頼できる。
たとえそれが、魔王に与する裏切り者という役割を与えられていたキャラクターだったとしても。
その目的がある限り、魔法使いは裏切ることはないから。
「さすがにそこまで求められる水準の魔法使いはそういないだろ。そんなに腕がいいなら何処かに雇用されてる」
「それもそうだな」
ドミニクに言われて、俺は高望みだったと退く。
うん、暗躍するためにフリーでいる魔法使いがいるなんて言えないな。
「あー、ともかく。これ以上魔人に国を荒らされるのも困る。そのためにもユリウスには強さを手に入れてもらう方向になるだろう。もちろん辛いことがあれば言ってくれ。休むのも学びの内だ」
「…………ううん。俺も、強くなりたいと思うよ。だって、ようやく今回は、魔人とか魔物に襲われても、死ぬ人は出なかったんだ」
今回の死傷はさすがにゼロとはいかなかった。
ダーリエフェルトの軍も出てきて、人間同士の戦いにもなったんだから。
けど、王弟が魔人に襲われた時には、負傷者は出ても死者はなし。
それだけ王弟が自分を囮にした上で、秘密裏に備えていたこともある。
ただユリウスからの話を聞く限り、魔物を通すと後ろで被害が出るということを狩猟大会で学んだからこそ、できる限り召喚される魔物を削ったという。
それが功を奏したんだろう。
「ローレンに組んでもらった魔物討伐、力になったと思う。体力や疲れの配分をして戦うってことを意識できた。ただ力の限りじゃ駄目なんだ。ちゃんと自分を見ないと。それに周りに一緒に戦う人がいるってことも意識して助け合わないと」
ユリウスなりに、勇者として戦い方は学べているようだ。
それにロイエたち傭兵の戦い方の教えも良かったんだろう。
もう次の仕事で王都を離れたというから会ってないが、直接礼を言いたかったな。
どうせなら、ロイエにはそのままこの国に留まっていてほしいくらいだ。
何せ、ここは最初に滅ぶ国。
ストーリー上で戦いの中を生き残るロイエ傭兵隊がいれば、少しはこの国の滅亡も回避できる目があるんじゃないかと思う。
それと同時に、ロイエたちがゲーム上で出てくるのは、隣のダーリエフェルトだったか、ナイトシュタイン。
そっちに移動されることはつまり、ゲーム開始が近づいてるっていう目安でもあった。
「ローレンツ、眉間の皺凄いぞ。気の抜けない立場はわかるが、卒業までは時間はある。気負うな」
「あぁ…………そうだな」
ドミニクの心配に笑みを返して、俺はまだ国内にいると聞いたロイエのことは脇に置く。
けれど頭にはゲームで最初に滅んだ国の荒廃したマップが浮かんできた。
卒業を前にあんな亡国になるのは、拒否するし、回避するし、御免被る。
男爵なんて重いけど、だからってこの国に滅んでほしいなんてことは思わないんだ。
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