63話:男爵3
何故か、俺は男爵になることが内定した。
俺も父上も固まったが、それでは何も解決しない。
腰を落ち着けて話すことになるが、まだ内示だし、あまり広めるわけにもいかない。
だからまず、俺たち親子で状況確認となる。
「まずはこの結果は、イェーデシュタン侯爵を捕まえると決めた時から決まっていたことだろう」
「となると、御前会議よりも前になると思うんですけど?」
何せ王弟は最初からイェーデシュタン侯爵を捕まえる気だった。
園遊会前にはもう決めてたし、動いてたはずで…………。
「…………下手したら、狩猟大会で逃げ出した貴族の名前、目の前に並べられた時点で狙ってたさえありそうで怖いんですけど?」
「捕まえた後のイェーデシュタン侯爵領の扱いは動く前から決めていなければ困る。それと共に、この内示も決められていたことになるな」
「え、そこまで?」
父上も疲れたように、貴族を追い落とすならその財産の処分も考えるものだと言う。
「そもそも、今回のイェーデシュタン侯爵を追うために、我が伯爵家にお声がけいただいたのがおかしかった」
「あ、それは確かに俺も思いました。なんでうちなんだって」
父上は頷いて、俺に当時の状況を確認してきた。
「ゾンケンが言うには、わざわざローレンツを指名しての先行部隊が組まれた。そして、ゾンケンたちがいる街に送り込まれたとのことだったが」
「あれは、イェーデシュタン侯爵がそこに逃げ込んだからそうなった、わけじゃない?」
「そもそも、騎士団を送る準備は侯爵が逃げてから始めたのではない。その前から騎士団を動かせるよう備えよとの通達があった。何かしら王都内で起きるのかと思っていたが」
実際はイェーデシュタン侯爵が外へ逃げたのを、騎士団に追わせるというもの。
そしてうちの騎士団は、それを軍に先んじて追うように走らされた。
「イェーデシュタン侯爵が逃げることは、前提だったんだろうとは思っていました。その上で用意もしていたのはまぁ、そうでしょうね」
「つまり逃げる道筋も予想済みだ。その上でゾンケンたちが配置されたのが、イェーデシュタン侯爵を追い込んだ町」
「つまり、俺とうちの騎士団で捕まえることは最初から、王弟殿下が決めておられた?」
俺の確認に、父上はゆっくり頷く。
「あの、本当、俺ただの学生で、いきなり男爵なんて…………」
「無理だと言える立場でもないことはわかっているな?」
「…………はい」
父上が脅すように圧をかけてきた。
もうこれ、父上も断れないんだから腹くくれって言ってるな。
ズィゲンシュタイン伯爵家は世間的に見ると義母上は後妻で、後継者問題ありそうなもんだし。
先妻の長男に継がせない理由づけとしては、名誉でありとてもおいしい話だ。
逆に言えば、俺は家から引き離しても文句出ない使い勝手が良さそうな相手。
というか園遊会前から仕込みってことは、レルナー先生につけられたのも、このためか?
先行部隊で行かせて、イェーデシュタン侯爵という大物を捕まえさせる。
そのためには最低限の知識が必要で、軍事行動できると言えるまでにさせたかった?
「え、怖」
今さらながら、俺は何に巻き込まれてるんだと怖くなる。
当時は目の前のことをこなすことばかりで必死だったけど、改めて思うと怖すぎる。
今さらな俺の呟きに、父上はさらに長々息を吐いてみせた。
「いつまでも過去のことを振り返っても今の問題が解決するわけじゃない。反省なら一人でもできるだろう。今はこの先のことだ」
「はぁい」
「返事を伸ばすな。今後家を建て、貴族として当主になるのだ。人の上に立ち差配する立場となる。家を盛り立て、家を支え、継続させるのが第一であることを忘れるな」
説教された。
ただ、確かに突然親を継がずに自分一人で貴族やって行けと言われてる状態だ。
現実逃避したい気分だが、そうも言っていられないな。
「あのこれ、卒業後でいいんですか? まだ内示ですよね」
「時期は、そうなるだろうな。何せ、拝領する予定の地はイェーデシュタン侯爵領からの割譲だ」
内示には、男爵に任命することと一緒に、領地の名称がついてた。
けど俺には馴染みがない。
しかもイェーデシュタン侯爵領の一部らしい。
「え、なんでまた。今回のことにしても、わざわざ割譲なんて」
「イェーデシュタン侯爵への裁定が定まった後のことだろう。その上で問題になることはなんだと考える?」
今聞くってことは割譲について、関わるんだろう。
その上で、イェーデシュタン侯爵が裁かれた後の話か。
想像してみよう。
たぶん裁定決まっても文句は出る。
イェーデシュタン侯爵の身内はもちろん、利益を受けていたような者も文句を言う。
もしくは、イェーデシュタン侯爵が没落することで利益を受けられる者も口を出す。
「…………あぁ、もしかしてイェーデシュタン侯爵を排した後の空白に、手を伸ばす輩がいるって話ですか? で、国が総取りだと共通の敵ってことで手を組んで突き上げてくる可能性?」
考えてたら父上が俺を指差した。
「それが、お前に降りかかるのだ」
「え、なんで俺、俺…………一番手柄で叙爵に拝領…………」
言われて考えて、ようやく俺にも見えてきた。
「え、これ、もしかして俺、文句言われるのを逸らすために爵位与えられるんですか?」
「口を慎め。…………だが、まぁ、そうだ」
父上が目を逸らした。
王弟によって一番手柄に奉り上げられたからこそ、俺は一番に褒賞の内示を受けてる。
その上、あの捕り物に関わった中でけっこう立場が低い。
だから変に褒賞を訴えることもしないし、できないし、ほどほどで大丈夫な相手。
さらに俺は学生で、褒章を渡すとなっても時間を稼げる言い訳にできる。
その間にゆっくりイェーデシュタン侯爵の領地の配分だとか、財産の扱いだとかを王家が考えられるんだ。
イェーデシュタン侯爵を捕まえた俺を差し置いて、イェーデシュタン侯爵の財産関係で口出す奴がいたら、王弟のほうも学生の俺を言い訳にできるから。
当人を捕まえた俺以上の働きがあったか、学生が慎み深くしてるのに恥ずかしくないのかなんて、言われたらそうそう反論もできない。
そんなところまでしか俺には想像できないが、王弟はそれ以上を考えてる可能性もある。
「ヤディスゾーン大公の派閥であることも、王家からすれば安心材料。男爵家として立つとしても、我が家からの影響を断つわけでもない」
「そりゃ、いきなり独自に家を建てろと言われても無理ですから。というか、何故俺? 父上でもいいでしょう」
「そうなると我が家に利が多すぎる。同じ程度の働きの者たちは他にもいる。だからこそ、お前だ。その上で我が家とは別という形でつり合いを取る。また、我が家からの引き離しも視野に入れた内示だろう」
「な、なんで?」
ズィゲンシュタイン伯爵家としてしか動いてないのに。
そんな疑問に、父上はちょっと寂しそうに笑った。
「それだけ、クラレンツ公に使いやすいと見做されたのだろう。より使いやすい独自の立ち位置に置くための前準備だ」
「おぉ、えぇ、あぁ…………。ちょ、ちょっと待ってくださいよ。他の人に譲れないんですか、これ?」
「思うに、これは勇者どのを貴族に引き上げる際の叩き台でもあるのだろう」
父上に言われて、正直この内示でどれだけの意味が含まれてるのか嫌になってきた。
でも言われればわかる、ユリウスは農民だ。
けど勇者で特別だから市井にいさせるわけにもいかない。
じゃあ、貴族にしようとなると、前例を作って安定的にしないと勇者と揉める。
その時に同じ学生の俺が扱いやすいところに転がり出てきた。
ユリウス自身が貴族になることへ難色を示した場合も、俺という友人を盾に迫れる。
そして魔人をすでに撃退しているし、これが倒すまで行けば、俺という前例を元に、男爵以上の地位や領地を与える話も通りやすい。
「そしてこの土地、割譲して与えるとすれば、伯爵相当の領地だ」
「え、そんな広いか豊かな場所を? 他に取られると面倒だから俺に?」
「その可能性はある。他に文句を言われる前に、与える相手を決めて口を塞がせる。王家で悪用しない者を先に決め、必要があれば爵位に見合った転封のためにあえて…………」
まさかの領地替え前提でいい所与えるのか。
けど言われてみれば、男爵には不釣り合いな俺が、さらにいい土地もらっても上手く扱える気はしない。
その上で王家が与えてしまえば、周りが取り上げるのは難しい。
必要となれば、そもそも見合わなかったと王家が前言撤回してしまえばいいんだ。
そして次に見込んだ者を据えるか、もしくは王家自身が接収すれば終わり。
「最初から適したとこに据えてほしいんですが」
「取り上げられるかどうかは、ローレンツのやり方次第だろう。これだけ不釣り合いであれば、どちらかに合わせることが必要になる。その際に転封するか、爵位を上げるか。それはお前の行いによる」
「に、荷が重い…………」
「これは我がズィゲンシュタイン伯爵に付随する爵位ではない。完全に独立した地位であり領地だ。重くとも、お前以外に担う者は現状いない」
「独立…………」
つまり俺は男爵になると、ズィゲンシュタイン伯爵家から出ることになる。
継承できるのは俺の子供で、父や弟ではない。
正直、急に言われても頭が回らない。
家を継がなくても、家から独立するなんて想定してなかったんだ。
そんな考えもしなかった将来像に、俺はただただ困惑するしかなかった。
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