43話:園遊会3
ドミニク視点
王家の催す園遊会が行われる場所は王宮。
俺が引き取られたゲシュヴェツァー伯爵家は、決して下級じゃない。
それでも上級ぶるほど格式もないし、気にもしない家柄でもあった。
それに比べれば、ローレンツの家のほうがお堅い職に合わせてお堅い伯爵家。
その割に気さくなローレンツは、従兄であり、同じ歳の兄であるエドと仲が良かった。
「お似合いじゃないか」
俺は離れた位置で会話を続けるローレンツと公爵令嬢を見る。
ローレンツが言う苦手が、どれくらいか正直迷う。
エドが心配するほどだが、ローレンツはそれを表に出さない。
「まぁ、力んではいるか」
それも麗しの公爵令嬢相手なら、不自然ではないと思える程度。
失礼な態度を取っているわけでもなく、心配するほどではないように思えた。
「あれで嫌がってるなら、普通に異性の趣味の話になりそうだが。その割に、気を遣って話しかけてる様子もある、か」
正直わからん。
ローレンツは努力家として、ゲシュヴェツァー伯爵家では聞こえる。
だから過去の傷も努力で乗り越えたと思っていた。
そうでもないらしいと知ったのは最近のことで、元から顔見知り程度。
俺は誰かと騒ぐよりも、騒いで楽しそうな奴らを見てるほうが好きだったから、今まではエドと話してるのを見てるだけだった。
そんなトラウマがあると聞いた直後、荒々しい割に令嬢のような所作の美しさを見せるウルリカに、全く構えた様子もなく接していたのを見てる。
次に会う約束までしていて、言うほどではないんじゃないかと思ったんだ。
「かまえているのも、身分を思えばなぁ」
俺は眺めながら、ローレンツと公爵令嬢が話す様子を眺める。
見ていると、ローレンツが目の前の公爵令嬢以上に気にしてる相手に気づいた。
公爵令嬢のつき人らしい女学生、学院で見た顔だ。
確か名前は…………。
考えながら、俺はローレンツたちの死角から近づいて声をかけた。
「失礼、グラナト伯のご令嬢?」
記憶を探って、マハトヴァーサ公爵家の分家筋だったはずだということも思い出す。
もしかしたら公爵令嬢と乳兄弟かもしれない。
グラナト伯令嬢にじろじろ見られた末に、応じてもらえた。
「ズィゲンシュタイン伯爵家の方とご一緒にいらした方ですね。失礼とは存じますが、お名前をいただいても?」
「名乗りもせずお声がけした無作法をお許しください。ゲシュヴェツァー伯爵家のドミニクと申します。同じ学院生です、どうぞお見知りおきを」
失礼にならない程度に親しげな雰囲気を出して、グラナト伯令嬢と距離を詰める。
得意ではないが、何かと催しをして人を集めるゲシュヴェツァー伯爵家にいるんだ。
正直見るからに力むローレンツほど苦手ではない。
ただ、愛想よく振る舞い場を盛り上げることもできるエドほどじゃないだけで。
「本日、友人のローレンツが何故この園遊会に参加しましたのか、ご存じの上でお声を?」
「いいえ、存じあげません。…………クラレンツ公に目をかけられた方ですから、深謀あってのことなのでしょう」
知らないが、それでも今まで参加してなかったローレンツが参加するにあたって、王弟の意向が反映されてることは察している様子。
その上で、グラナト伯令嬢も俺に探りを入れてきた。
「こちらもお聞きしたいことがございます。ズィゲンシュタイン伯爵家のご子息は、どのような方でしょう? 先日の狩猟大会での働きは存じあげておりますが、平素の…………いえ、それよりもゲシュヴェツァー伯爵家のあなたは、いつからのご友人で?」
「出会ったのは幼少、家同士のつき合いからになります。その頃から落ち着いた、賢い少年でした」
俺は応えつつ、過去を思い描く。
初めてローレンツを見たのは、引き取られて初めて開かれた家での茶会。
俺も挨拶のため参加させられた。
だが慣れない状況に逃げるように部屋へと帰り、ほとんどの客とは顔も合わせず。
すると、窓の外でエドとローレンツが話す声を聞いたんだ。
俺が身内の死と環境の変化で、部屋に籠ってることをエドが相談すると、ローレンツは無理をさせるなと言った。
「落ち着きと賢さ? 違うことはわかります。ですが、言い直すほどの違いが?」
俺の言葉選びに、グラナト伯令嬢反応する。
お蔭でローレンツに圧かけることはしなくなったからいいか。
「初めて会ったのは十歳。その時にはもう、他人を思いやり言葉を選ぶことをしていました」
そんな相手が側にいたら、エドが今の重傷状態で意地張るのもわかる。
きっと弱ったままで会えば、ローレンツの思いやりに甘えて情けなくあいつは泣くだろう。
それが想像できる分、恥ずかしいんだ。
そんなエドが十歳の時には、俺が部屋から出てこないのをどうにかしたいと、同じように引きこもったことがあるローレンツに対処を聞いた。
それに対して違う人間だから同じ対処は違うだろう、なんて言うし、無理強いをしてはいけないと諫めてもいたんだ。
「一人であることと、孤独の違いを知っていました」
「違い?」
グラナト伯令嬢はわからない様子だ。
知らないと実感もない言葉だろう。
そして何より他人に求めるには我儘でしかない言葉だ。
ローレンツはわかっていて、一人になりたい気持ちはあっても、孤独でいたいわけじゃないという答えをエドにしていた。
そこには共感と理解がある。
幼く、馴染めずにいた俺からすれば、驚くほど賢く気持ちを伝える言葉だった。
「私は友人の手助けをしようと同行しました。ですので、できればあまり友人を叱らないでいただきたい」
「それは、ズィゲンシュタイン伯爵家のご子息が、どのようなことをなさるかによります。ご存じかと思いますが、狩猟大会でのようなことは慎んでいただけるよう、あなたからも助言されるのも助けになるでしょう」
おっと、俺のほうまで叱られた。
それだけこのグラナト伯令嬢は、公爵令嬢を慮る立場か。
いや、けっこう自分から公爵令嬢は突っ込んでる風だし、だったら心配ってところか。
それで言えばローレンツも、けっこう厄介ごとには自分から行く。
エドに聞かれてひきこもることをやめた行動の中に、自分から騎士の中に入るというものがあったくらいだ。
気絶するほどに苦手になっていたのに、ずいぶん無茶をすると今なら思う。
「まぁ、助言を必要とするような隙は、あまりないんですが」
俺の切り返しに、グラナト伯令嬢は園遊会という場にそぐわない眉間の皺を、すぐさま晴らす。
その上で言い返さないのは、狩猟大会でそれなりにローレンツの有能さを見たんだろう。
ローレンツも近い肉親を亡くしてるのは、大人の会話を漏れ聞いて知っていた。
実際の事件は想像以上に過酷だったが、それでも自力で克服して、もう回復したと思ってたんだ。
それがエドが心配してあれこれ言ってくるくらいにまだ引きずってる。
その上で、狩猟大会という騎士が集まる中、こうして批判の口を閉じさせるだけのことをやったと言うのだから驚きだ。
「…………現状、グラナト伯令嬢におかれましては、ローレンツに問題は?」
「少々気遣いが足りないとは思いますが、ございません」
そうだよな、俺もそう見える。
思うより回復してるように感じるが、まぁ、ご令嬢への気遣いは足りてない。
そうなると、自分で苦手意識持ってるローレンツはともかく、エドのほうが気にしすぎな可能性もある。
十歳のローレンツがエドに助言した中に、やれることをやれるよう手助けしろという言葉から、自分でやれることとして、勉強にも精を出し、俺はいい子と言われるような子供になった。
エドは俺を引き合いに怒られることが増えたから、面白くなかったようだったが、それでもやれることを探す時に手を貸してくれたのはエドだし、一人でいたいと言えば気遣ってくれたのもエドだ。
だから今回のことでエドの手助けをする一環で、エドの不安の種を解消しようと思ったんだが。
「あら? どちらに行かれるのでしょう?」
「え、あ、まさかイェーデシュタン侯爵の下へ、公爵令嬢も一緒に?」
グラナト伯令嬢の言葉に、俺はローレンツの目的の相手を窺う。
迷いなくイェーデシュタン侯爵にむかう様子に、俺たちはお互い顔が強張った。
何せ騎士道精神のある公爵令嬢とじゃ、明らかに相性が悪い。
そうとわかった上で申し訳ないが、グラナト伯令嬢には、王弟殿下からの合図があってこそだというのを示して静観してもらう。
あとは、周囲で怪しい動きがないかを警戒するくらいか。
ただ、異変はそれだけじゃなかった。
ローレンツ相手にイェーデシュタン侯爵が気色ばむ様子があり、俺も動こうとした時だ。
グラナト伯令嬢の予想外の声に思わず足が止まった。
「え、王女殿下、お戻りになられていたの?」
グラナト伯令嬢が見る先には、金髪碧眼で俺たちに近い年齢からして第三王女の姿。
つまりは、国外にいたはずの聖女だ。
驚きで足を止めている間に、聖女さまは微笑を浮かべて真っ直ぐ歩く。
その先にはローレンツがいた。
気づいたローレンツたちも驚いているようで、完全に予定外の登場。
ただ、聖女さまは親しげな微笑みをローレンツと公爵令嬢に向けていた。
それに一番に反応したのは、親類でもある公爵令嬢。
礼を執る様子に、周囲もざわめきながら倣う。
俺も思わず頭を下げて、聖女さまの行動を見守る側に回ってしまったのだった。
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